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聖杯にたどり着くまでの考察について
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掲示板への書き込みは、書き込みたい言葉を思い浮かべるだけで良かった。
そうやって、異世界の人達と交流しつつ僕は目的の場所へ向かっていた。
目の前に、竹林がある。
周囲に建物はない。
民家もない。
だというのに、竹林の中に延びる小さな道。
どうやら自由に入れるよう、遊歩道になっているらしい。
そういえば、竹細工が有名だったなこの国。
日用品から土産物まで、あらゆる場所で竹細工は利用されていた。
僕は手短に、目的の場所へ着いたことを書き込んだ。
すると、思い出したかのように斧や鉈、ノコギリを持っていった方がいい、という書き込みがあった。
とにかく竹を切れるものが必要になるかもしれないというのだ。
そうは言っても、すでに現場についている。
それらを手に入れるには、商店街に行かなければならない。
とにもかくにも、まずは様子見だ。
僕は、遊歩道へと足を踏み入れた。
定期的に手入れされているのか、竹林に鬱蒼とした印象は無い。
やわらかな日差しが降り注いでいる。
しばらく歩いていると、視界の隅でなにかが光った。
チカチカとなにかが光っている。
僕は、その光に吸い寄せられるかのように道を外れた。
光はずっと続いている。
その光のもとへと、知らず走り出す。
心臓の鼓動が、早くなる。
走っているのだけが理由ではないだろう。
何度か、転びかけながら僕は走った。
やがて、一本の光り輝く竹の前にたどり着いた。
そのことを書き込むと、なぜか竹の中には可愛らしい女の子がいるはずだ、と盛り上がった。
向こうの世界では、【かぐや姫】とはそういうお話らしかった。
小説は好きだから、機会があったら今度読んでみたいものだ。
せっかく、向こうの言葉がわかるようになったんだしきっと読むことが出来るはずだ。
竹はずっと、ピカピカと黄金に光り輝いている。
やはり、助言通り道具を持ってきて切った方が良さそうだ。
しかし、これだけピカピカ光っていたら他の人がとっくの昔に見つけていても良さそうなものだ。
なぜ、千年も見つからなかったのか不思議なくらいだ。
僕は来た道を引き返した。
誰にも会わなかった。
そもそも、王都の外れだ。
周囲は田んぼと畑くらいしかない。
離れた場所に、村がいくつか点在してるくらいだ。
三十分かけて市民体育館近くの商店街までやってくる。
僕は財布の中身を確かめた。
国からの補助金だ。
僕のような孤児でも最低限、文明的な生活を送るための費用だ。
家賃と筆記用具、下着とか衣服代で大半が消えるので残るのは本当にわずかだ。
鉈や斧、ノコギリの金額がどれくらいなのか僕にはわからなかった。
冒険者学校だと武器を貸してくれたからだ。
学校から武器を借りようかとも思ったけど、今日はそもそも儀式があるので休みだ。
商店街には冒険者クランの建物がいくつかある。
その全てが賑わっていた。
ギルドの建物を通り過ぎる度に、今年は粒ぞろいだのなんだのと聞こえてきた。
ふと道を挟んだ向こう側に視線を向けると、アーサーがいた。
ほかの子達もだ。
どうやら、【夢幻剣士】の建物へ向かっているらしい。
僕の視線に気づいたのか、アーサーがちらりとこちらを見た。
けれど、すぐに何も見なかったようにしてフイっと視線を背けた。
いつもなら。
いつもだったなら、手を振るくらいしてくれたはずなのに。
つまりは、そういうことなのだろう。
見ない振りをした時の、一瞬の表情が僕を嘘つき呼ばわりした、あの時の子と重なった。
僕は雑貨屋に急いだ。
武器じゃなくて、生活用品なんかを扱っている店には木を切る道具も置いてあるからだ。
続いて、ジェニーにも遭遇した。
彼女も同じように勧誘員と他の子と一緒だった。
彼女は、哀れみの顔を僕に向けてきて、でもやっぱりフイっと視線を外した。
世界は残酷だな、とちょっと思った。
でも、持つ者と持たざる者の差はこんなものだ。
ましてや、僕は嘘つきな勇者オタクなんだから。
これから輝かしい未来が待っている二人には、僕みたいな知り合いがいた、というのは汚点のようなものなのだろう。
悲しかったけれど、やっぱりなって気持ちの方が強くて、涙も出てこなかった。
僕は、雑貨屋にたどり着いた。
時々、エマさんの手伝いでお使いに来ていたからここの店主とも知り合いだ。
店主のおじさんに、アルバイトで竹を切る事になったからノコギリを売って欲しいと伝える。
まさかバカ正直に、
『鍵を見つけたかもしれない。
それが隠されているっぽい、竹を切るんだ』
とはいえなかった。
店主のおじさんは、カバー付きのものが並んでる棚を指し示した。
値段を見る。
財布を見る。
今持ってる、今月分の小遣い全額分だった。
使い果たせば、今月に発売予定の、追いかけている小説の新刊は買えなくなる。
少し迷った。
しかし、30分後の僕は新品のノコギリを手にして竹林へと戻っていた。
あの光り輝く竹の前に立つ。
ドクンドクンと心臓が痛いほど鳴った。
僕は、竹を切り始めた。
非力な僕に出来るかな、とか不安がなかったわけじゃない。
でも、やらない理由はなかった。
だって、もしかしたら本当に宝物を見つけられるかもしれないから。
僕は、慣れない手つきでノコギリを動かした。
ギコギコと竹林に音が響いた。
さすがに誰か来るかなと思ったけど、誰も来なかった。
やがて、竹を切り終えた。
途端に、それは現れた。
「おやおやおや!!
見つけたか!!
おめでとう!!」
肩より少し上で切りそろえられた真っ黒の髪。
瞳は血のように赤い、女の子だ。
元気な、僕と歳の変わらなさそうな女の子が、目の前に立っている。
その手には、フワフワと浮かぶ鍵があった。
鈍色に光る鍵だ。
持ち手の部分には《第1の鍵》と彫られている。
「あ、えと、その」
「さあ、受け取ってくれ!!
この世界を手にする資格、最初の試練を君は乗り越えた!!」
《第1の鍵》はフワフワと浮いて、僕の手の中に収まった。
「まだまだ続くぞ?
私のイースターエッグ、宝物を是非とも見つけたまえ!」
私、え、まじ??
そういうことなのか??
ずっと、僕は勇者は男だと思っていた。
だって、色んな文献にも勇者は男だと表記されていたから。
残されている肖像画も少年か青年かの違いはあっても、男だった。
でも、実際は違っていた。
掲示板を通して繋がった、向こうの世界の人が書き込んでいた内容が、甦る。
ほんの小一時間くらい前の出来事だ。
勇者は女性か??
当たっていたのだ。
僕は、言いしれない気持ちにどうしていいかわからなくなった。
吠えたい気持ちもあった。
やったぞ!!
と両腕を天に突き出したい気持ちもあった。
でも、それをする前に勇者アルンがこう続けた。
「仲間たちとともに、楽しんでくれたまえ!!」
仲間。
仲間たち。
つまり、それはこのゲームは、独りだと聖杯までたどり着けないということなのかもしれない。
それなら合点がいく。
【スレ民】のギフトが与えられただけでも、きっと聖杯までたどり着けないのだ。
この最初の鍵を手に入れるまでのことを考えてもそうだ。
少なくとも、掲示板の向こうにいる人達と協力しなければいけないのだ。
言葉が読めても、意味が理解出来ないといけなかった。
違う世界の知識が無いと、正解までいけないのだ。
僕は、勇者が女性だとは欠片もわからなかった。
鍵を握りしめる。
少しの勇気と、そして違う世界の知人たちによって手に入れることが出来た鍵を握りしめた。
「はい!!」
僕は、勇者を見た。
そして、元気に頷いて見せた。
勇者は、光の粒子となって消えてしまった。
消える直前に、
「あ、そうだ。
一位の君にご褒美だ。
第二の鍵への道標も入っているから」
勇者アルンがそんなことを口にした。
すぐ近くで、ドサッと音がした。
見ると、パンパンに中身のつまった袋が落ちていた。
さっきまで無かったのに。
開けてみると、金貨や宝石がこれでもかとギチギチに入っていた。
今まで見た事もない大金だ。
僕はパニックになった。
***
パーシヴァルが鍵を手にすると同時に、大神殿に飾られていたスコアボードにも変化が起きた。
光り輝く文字が、スコアボードの一番上に彼の名前を刻んだのだ。
大神殿につとめる神官達は上へ下への大騒ぎとなった。
出てきたのは彼の名前だけでは無かった。
名前の横に、金額らしきものも表示されたのだ。
つまり、スコアボードに載った者は、鍵とともに軍資金を得たということになる。
しかし、それだけだ。
名前と、軍資金だけが表示されただけ。
最初の鍵を手に入れた、【パーシヴァル】がどこの誰なのか、何歳なのか、ということはわからなかった。
なにしろ、パーシヴァルなんて名前はよくある名前だからだ。
このことは、すぐに発表された。
一大ニュースだ。
号外の新聞が発行され、王都のあちこちでばらまかれた。
「パーシヴァルって誰だよ?」
「チクショー!!俺が見つけるはずだったのに!!」
「凄腕の冒険者かな??」
王都のあちこちで新聞を手にした者達の、悲鳴やら感嘆やらが上がった。
まさにお祭り騒ぎとなったのだった。
***
僕は、ノコギリを手にしたまま、また三十分かけて商店街まで戻ってきた。
とはいっても、鍵とご褒美のせいでしばらくあの場所で呆然としていたのだけど。
鍵とご褒美は、鞄の中に突っ込んだ。
誰かに見られでもしたら、普通に強盗されてしまうからだ。
僕は館長さんに会おうと思った。
最初の鍵を手に入れたことを伝えたかったのだ。
その道中、商店街どころか、あちこちで色んな人達が新聞を手に騒いでいた。
なにか、大きなニュースがあったらしい。
でも、騒がしすぎて誰が何を言っているのかまるでわからなかった。
僕は、記念館へと戻ってきた。
そして、驚いた。
人集りが出来ていたのだ。
見たところ、記者のようだった。
記念館の従業員の人が適当にあしらっている。
入れそうにない。
どうしたものかと悩んでいると、肩をポンポンと叩かれた。
振り向くと、館長さんがニコニコと笑顔で立っていた。
「こっち」
館長さんは短く言うと、僕の手を引っ張って裏口まで連れてきた。
そこから記念館の中へと入る。
そして、事務所の奥、応接室へと通された。
事務所では数人の従業員が書類仕事をしていた。
その横を通り過ぎる。
応接室のソファに、テーブルを挟んで僕と館長さんは腰を下ろした。
「おかえりなさい。
鍵は見つかった??」
館長さんが聞いてきた。
僕は、ここ数年で久しぶりに笑顔を浮かべると、鞄から鍵を取り出した。
それを見て、館長さんがパチパチパチと拍手してくれた。
「おめでとうパーシヴァル」
嬉しかった。
小学校の時も、そして冒険者学校に入ってからも、僕はドン臭くて。
駆けっこでも、テストでも絶対一位なんて取ったことなんて無かったから。
「ありがとうございます」
僕が返すと、館長さんはお茶を出してくれた。
それから、今起きていることを教えてくれた。
僕の名前がスコアボードに出たこと。
そのことで新聞の号外が出ていること。
号外によって、世間が大騒ぎになっていること。
正直、全然実感がわかなかった。
僕は鍵を握りしめた。
実感はなくても、鍵はたしかに僕の手の中にあった。
それから館長さんは、スコアボードについて説明してくれた。
どうやらスコアボードは、名前と手にした賞金が出る仕様らしい。
どこの誰か、というのがわからないのはありがたかった。
これだけの大騒ぎになっているのだ。
最初の鍵を手に入れたのが僕だとわかったら、どんな扱いを受けるかなんて、簡単に想像できた。
自慢したい欲が、無いわけじゃなかった。
でも、きっと、皆が口にすることは決まっている。
嘘つきのズル野郎、だ。
ネガティブ過ぎるって言われるかもしれない。
でも、実際に僕は言われている。
本当は正解だったことを、そうと知らなかったってのはあるけど、嘘つき呼ばわりされたんだ。
きっとなにかズルをして、鍵を手に入れたんだと思われるに決まっている。
それが怖くて仕方なかった。
だから、館長さん以外には、この世界の誰にもこのことは言わないと決めた。
明かすのは、それこそ聖杯を見つけてからでもいいわけだし。
「それと、これも言っておくわね。
貴方が見つけた鍵は誰にも奪えないんだけど、賞金は別。
だから、見つからないように気をつけてね」
「わ、わかりました」
とりあえず、下手に銀行に預けることも出来ない。
どこで手に入れたんだって言われたら、終わりだからだ。
それにもしかしたら、そこから僕のことがバレるかもしれない。
どこかに隠した方がいい。
でも、どこに隠そう。
次の鍵を探す前の課題が出来てしまった。
とにかく、しばらくは鞄に入れて持ち歩いている方が安全かもしれない。
いい隠し場所を見つけるまではそうしよう。
どうせ、冒険者学校の方も儀式が終われば三年生はほぼ行かなくなる。
なぜなら、あとは卒業を待つだけだからだ。
儀式を終えると、就活が中心になる。
冒険者として本格的に活動する者も出てくる。
とにかく、今日はもう下宿に帰ろう。
本当にこの数時間でいろんな事が起きすぎた。
僕の頭の処理能力は、すでに超えてしまっている。
下宿に帰ると、さすがに、何か言われるかなとも思ったけど、特に何も無かった。
皆、ニュースのことは知っていた。
でも、
「お前と同じ名前の奴がみつけたんだって!!」
と興奮気味に教えてもらっただけだった。
アーサーとジェニーは帰ってはいなかった。
僕はニュースを教えてくれた下宿仲間へ、適当に返すと自室へ引っ込んだ。
ノコギリも持ったままだった。
さすがに変に思われたかもしれない。
でも、下宿仲間はなにも言ってこなかった。
夕食の時間まで、まだ少し余裕があった。
自室に入ると、へたりこんだ。
鍵をもう一度手に取ってみた。
夢じゃない。
やっぱり、夢でもなんでもない。
未だに心臓がバクバクしている。
深呼吸して落ち着こうと試みた。
その時に、ふと思い出した。
掲示板に鍵をみつけたことを書いていなかった。
考察厨さんにお礼すら言っていなかった。
僕は、ギフトを使って掲示板を表示させる。
そして、自分の建てた掲示板へ書き込みを行ったのだった。
そうやって、異世界の人達と交流しつつ僕は目的の場所へ向かっていた。
目の前に、竹林がある。
周囲に建物はない。
民家もない。
だというのに、竹林の中に延びる小さな道。
どうやら自由に入れるよう、遊歩道になっているらしい。
そういえば、竹細工が有名だったなこの国。
日用品から土産物まで、あらゆる場所で竹細工は利用されていた。
僕は手短に、目的の場所へ着いたことを書き込んだ。
すると、思い出したかのように斧や鉈、ノコギリを持っていった方がいい、という書き込みがあった。
とにかく竹を切れるものが必要になるかもしれないというのだ。
そうは言っても、すでに現場についている。
それらを手に入れるには、商店街に行かなければならない。
とにもかくにも、まずは様子見だ。
僕は、遊歩道へと足を踏み入れた。
定期的に手入れされているのか、竹林に鬱蒼とした印象は無い。
やわらかな日差しが降り注いでいる。
しばらく歩いていると、視界の隅でなにかが光った。
チカチカとなにかが光っている。
僕は、その光に吸い寄せられるかのように道を外れた。
光はずっと続いている。
その光のもとへと、知らず走り出す。
心臓の鼓動が、早くなる。
走っているのだけが理由ではないだろう。
何度か、転びかけながら僕は走った。
やがて、一本の光り輝く竹の前にたどり着いた。
そのことを書き込むと、なぜか竹の中には可愛らしい女の子がいるはずだ、と盛り上がった。
向こうの世界では、【かぐや姫】とはそういうお話らしかった。
小説は好きだから、機会があったら今度読んでみたいものだ。
せっかく、向こうの言葉がわかるようになったんだしきっと読むことが出来るはずだ。
竹はずっと、ピカピカと黄金に光り輝いている。
やはり、助言通り道具を持ってきて切った方が良さそうだ。
しかし、これだけピカピカ光っていたら他の人がとっくの昔に見つけていても良さそうなものだ。
なぜ、千年も見つからなかったのか不思議なくらいだ。
僕は来た道を引き返した。
誰にも会わなかった。
そもそも、王都の外れだ。
周囲は田んぼと畑くらいしかない。
離れた場所に、村がいくつか点在してるくらいだ。
三十分かけて市民体育館近くの商店街までやってくる。
僕は財布の中身を確かめた。
国からの補助金だ。
僕のような孤児でも最低限、文明的な生活を送るための費用だ。
家賃と筆記用具、下着とか衣服代で大半が消えるので残るのは本当にわずかだ。
鉈や斧、ノコギリの金額がどれくらいなのか僕にはわからなかった。
冒険者学校だと武器を貸してくれたからだ。
学校から武器を借りようかとも思ったけど、今日はそもそも儀式があるので休みだ。
商店街には冒険者クランの建物がいくつかある。
その全てが賑わっていた。
ギルドの建物を通り過ぎる度に、今年は粒ぞろいだのなんだのと聞こえてきた。
ふと道を挟んだ向こう側に視線を向けると、アーサーがいた。
ほかの子達もだ。
どうやら、【夢幻剣士】の建物へ向かっているらしい。
僕の視線に気づいたのか、アーサーがちらりとこちらを見た。
けれど、すぐに何も見なかったようにしてフイっと視線を背けた。
いつもなら。
いつもだったなら、手を振るくらいしてくれたはずなのに。
つまりは、そういうことなのだろう。
見ない振りをした時の、一瞬の表情が僕を嘘つき呼ばわりした、あの時の子と重なった。
僕は雑貨屋に急いだ。
武器じゃなくて、生活用品なんかを扱っている店には木を切る道具も置いてあるからだ。
続いて、ジェニーにも遭遇した。
彼女も同じように勧誘員と他の子と一緒だった。
彼女は、哀れみの顔を僕に向けてきて、でもやっぱりフイっと視線を外した。
世界は残酷だな、とちょっと思った。
でも、持つ者と持たざる者の差はこんなものだ。
ましてや、僕は嘘つきな勇者オタクなんだから。
これから輝かしい未来が待っている二人には、僕みたいな知り合いがいた、というのは汚点のようなものなのだろう。
悲しかったけれど、やっぱりなって気持ちの方が強くて、涙も出てこなかった。
僕は、雑貨屋にたどり着いた。
時々、エマさんの手伝いでお使いに来ていたからここの店主とも知り合いだ。
店主のおじさんに、アルバイトで竹を切る事になったからノコギリを売って欲しいと伝える。
まさかバカ正直に、
『鍵を見つけたかもしれない。
それが隠されているっぽい、竹を切るんだ』
とはいえなかった。
店主のおじさんは、カバー付きのものが並んでる棚を指し示した。
値段を見る。
財布を見る。
今持ってる、今月分の小遣い全額分だった。
使い果たせば、今月に発売予定の、追いかけている小説の新刊は買えなくなる。
少し迷った。
しかし、30分後の僕は新品のノコギリを手にして竹林へと戻っていた。
あの光り輝く竹の前に立つ。
ドクンドクンと心臓が痛いほど鳴った。
僕は、竹を切り始めた。
非力な僕に出来るかな、とか不安がなかったわけじゃない。
でも、やらない理由はなかった。
だって、もしかしたら本当に宝物を見つけられるかもしれないから。
僕は、慣れない手つきでノコギリを動かした。
ギコギコと竹林に音が響いた。
さすがに誰か来るかなと思ったけど、誰も来なかった。
やがて、竹を切り終えた。
途端に、それは現れた。
「おやおやおや!!
見つけたか!!
おめでとう!!」
肩より少し上で切りそろえられた真っ黒の髪。
瞳は血のように赤い、女の子だ。
元気な、僕と歳の変わらなさそうな女の子が、目の前に立っている。
その手には、フワフワと浮かぶ鍵があった。
鈍色に光る鍵だ。
持ち手の部分には《第1の鍵》と彫られている。
「あ、えと、その」
「さあ、受け取ってくれ!!
この世界を手にする資格、最初の試練を君は乗り越えた!!」
《第1の鍵》はフワフワと浮いて、僕の手の中に収まった。
「まだまだ続くぞ?
私のイースターエッグ、宝物を是非とも見つけたまえ!」
私、え、まじ??
そういうことなのか??
ずっと、僕は勇者は男だと思っていた。
だって、色んな文献にも勇者は男だと表記されていたから。
残されている肖像画も少年か青年かの違いはあっても、男だった。
でも、実際は違っていた。
掲示板を通して繋がった、向こうの世界の人が書き込んでいた内容が、甦る。
ほんの小一時間くらい前の出来事だ。
勇者は女性か??
当たっていたのだ。
僕は、言いしれない気持ちにどうしていいかわからなくなった。
吠えたい気持ちもあった。
やったぞ!!
と両腕を天に突き出したい気持ちもあった。
でも、それをする前に勇者アルンがこう続けた。
「仲間たちとともに、楽しんでくれたまえ!!」
仲間。
仲間たち。
つまり、それはこのゲームは、独りだと聖杯までたどり着けないということなのかもしれない。
それなら合点がいく。
【スレ民】のギフトが与えられただけでも、きっと聖杯までたどり着けないのだ。
この最初の鍵を手に入れるまでのことを考えてもそうだ。
少なくとも、掲示板の向こうにいる人達と協力しなければいけないのだ。
言葉が読めても、意味が理解出来ないといけなかった。
違う世界の知識が無いと、正解までいけないのだ。
僕は、勇者が女性だとは欠片もわからなかった。
鍵を握りしめる。
少しの勇気と、そして違う世界の知人たちによって手に入れることが出来た鍵を握りしめた。
「はい!!」
僕は、勇者を見た。
そして、元気に頷いて見せた。
勇者は、光の粒子となって消えてしまった。
消える直前に、
「あ、そうだ。
一位の君にご褒美だ。
第二の鍵への道標も入っているから」
勇者アルンがそんなことを口にした。
すぐ近くで、ドサッと音がした。
見ると、パンパンに中身のつまった袋が落ちていた。
さっきまで無かったのに。
開けてみると、金貨や宝石がこれでもかとギチギチに入っていた。
今まで見た事もない大金だ。
僕はパニックになった。
***
パーシヴァルが鍵を手にすると同時に、大神殿に飾られていたスコアボードにも変化が起きた。
光り輝く文字が、スコアボードの一番上に彼の名前を刻んだのだ。
大神殿につとめる神官達は上へ下への大騒ぎとなった。
出てきたのは彼の名前だけでは無かった。
名前の横に、金額らしきものも表示されたのだ。
つまり、スコアボードに載った者は、鍵とともに軍資金を得たということになる。
しかし、それだけだ。
名前と、軍資金だけが表示されただけ。
最初の鍵を手に入れた、【パーシヴァル】がどこの誰なのか、何歳なのか、ということはわからなかった。
なにしろ、パーシヴァルなんて名前はよくある名前だからだ。
このことは、すぐに発表された。
一大ニュースだ。
号外の新聞が発行され、王都のあちこちでばらまかれた。
「パーシヴァルって誰だよ?」
「チクショー!!俺が見つけるはずだったのに!!」
「凄腕の冒険者かな??」
王都のあちこちで新聞を手にした者達の、悲鳴やら感嘆やらが上がった。
まさにお祭り騒ぎとなったのだった。
***
僕は、ノコギリを手にしたまま、また三十分かけて商店街まで戻ってきた。
とはいっても、鍵とご褒美のせいでしばらくあの場所で呆然としていたのだけど。
鍵とご褒美は、鞄の中に突っ込んだ。
誰かに見られでもしたら、普通に強盗されてしまうからだ。
僕は館長さんに会おうと思った。
最初の鍵を手に入れたことを伝えたかったのだ。
その道中、商店街どころか、あちこちで色んな人達が新聞を手に騒いでいた。
なにか、大きなニュースがあったらしい。
でも、騒がしすぎて誰が何を言っているのかまるでわからなかった。
僕は、記念館へと戻ってきた。
そして、驚いた。
人集りが出来ていたのだ。
見たところ、記者のようだった。
記念館の従業員の人が適当にあしらっている。
入れそうにない。
どうしたものかと悩んでいると、肩をポンポンと叩かれた。
振り向くと、館長さんがニコニコと笑顔で立っていた。
「こっち」
館長さんは短く言うと、僕の手を引っ張って裏口まで連れてきた。
そこから記念館の中へと入る。
そして、事務所の奥、応接室へと通された。
事務所では数人の従業員が書類仕事をしていた。
その横を通り過ぎる。
応接室のソファに、テーブルを挟んで僕と館長さんは腰を下ろした。
「おかえりなさい。
鍵は見つかった??」
館長さんが聞いてきた。
僕は、ここ数年で久しぶりに笑顔を浮かべると、鞄から鍵を取り出した。
それを見て、館長さんがパチパチパチと拍手してくれた。
「おめでとうパーシヴァル」
嬉しかった。
小学校の時も、そして冒険者学校に入ってからも、僕はドン臭くて。
駆けっこでも、テストでも絶対一位なんて取ったことなんて無かったから。
「ありがとうございます」
僕が返すと、館長さんはお茶を出してくれた。
それから、今起きていることを教えてくれた。
僕の名前がスコアボードに出たこと。
そのことで新聞の号外が出ていること。
号外によって、世間が大騒ぎになっていること。
正直、全然実感がわかなかった。
僕は鍵を握りしめた。
実感はなくても、鍵はたしかに僕の手の中にあった。
それから館長さんは、スコアボードについて説明してくれた。
どうやらスコアボードは、名前と手にした賞金が出る仕様らしい。
どこの誰か、というのがわからないのはありがたかった。
これだけの大騒ぎになっているのだ。
最初の鍵を手に入れたのが僕だとわかったら、どんな扱いを受けるかなんて、簡単に想像できた。
自慢したい欲が、無いわけじゃなかった。
でも、きっと、皆が口にすることは決まっている。
嘘つきのズル野郎、だ。
ネガティブ過ぎるって言われるかもしれない。
でも、実際に僕は言われている。
本当は正解だったことを、そうと知らなかったってのはあるけど、嘘つき呼ばわりされたんだ。
きっとなにかズルをして、鍵を手に入れたんだと思われるに決まっている。
それが怖くて仕方なかった。
だから、館長さん以外には、この世界の誰にもこのことは言わないと決めた。
明かすのは、それこそ聖杯を見つけてからでもいいわけだし。
「それと、これも言っておくわね。
貴方が見つけた鍵は誰にも奪えないんだけど、賞金は別。
だから、見つからないように気をつけてね」
「わ、わかりました」
とりあえず、下手に銀行に預けることも出来ない。
どこで手に入れたんだって言われたら、終わりだからだ。
それにもしかしたら、そこから僕のことがバレるかもしれない。
どこかに隠した方がいい。
でも、どこに隠そう。
次の鍵を探す前の課題が出来てしまった。
とにかく、しばらくは鞄に入れて持ち歩いている方が安全かもしれない。
いい隠し場所を見つけるまではそうしよう。
どうせ、冒険者学校の方も儀式が終われば三年生はほぼ行かなくなる。
なぜなら、あとは卒業を待つだけだからだ。
儀式を終えると、就活が中心になる。
冒険者として本格的に活動する者も出てくる。
とにかく、今日はもう下宿に帰ろう。
本当にこの数時間でいろんな事が起きすぎた。
僕の頭の処理能力は、すでに超えてしまっている。
下宿に帰ると、さすがに、何か言われるかなとも思ったけど、特に何も無かった。
皆、ニュースのことは知っていた。
でも、
「お前と同じ名前の奴がみつけたんだって!!」
と興奮気味に教えてもらっただけだった。
アーサーとジェニーは帰ってはいなかった。
僕はニュースを教えてくれた下宿仲間へ、適当に返すと自室へ引っ込んだ。
ノコギリも持ったままだった。
さすがに変に思われたかもしれない。
でも、下宿仲間はなにも言ってこなかった。
夕食の時間まで、まだ少し余裕があった。
自室に入ると、へたりこんだ。
鍵をもう一度手に取ってみた。
夢じゃない。
やっぱり、夢でもなんでもない。
未だに心臓がバクバクしている。
深呼吸して落ち着こうと試みた。
その時に、ふと思い出した。
掲示板に鍵をみつけたことを書いていなかった。
考察厨さんにお礼すら言っていなかった。
僕は、ギフトを使って掲示板を表示させる。
そして、自分の建てた掲示板へ書き込みを行ったのだった。
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三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
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最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
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ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
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「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
農民レベル99 天候と大地を操り世界最強
九頭七尾
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【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。
仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて――
「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」
「片手で抜けますけど? こんな感じで」
「200キロはありそうな大根を片手で……?」
「小麦の方も収穫しますね。えい」
「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」
「手刀で真空波を起こしただけですけど?」
その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。
日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。
「これは投擲用大根だ」
「「「投擲用大根???」」」
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