20 / 24
16歳の異世界転移
20
しおりを挟む
***
舐めていた。
油断していた。
そう言われてしまえば、否定のしようがない。
四肢全てを吹っ飛ばされた。
胴体もだ。
「なんなんだ、アイツ」
痛みは無い。
あるのは、動揺、戸惑い……否。
妙な興奮だった。
エドは興奮していた。
逆に殺されるかもしれなかった、あの状況を思い出す。
すると、それだけで心が踊った。
己の運命、その存在に感じたそのとは違う。
気分の高揚。
感情もなにも読み取れなかった。
何も無かった。
彼には、あの護衛には、何も無かったのだ。
虚無とも違う、完全な無。
そんなことがあるのだろうか?
答えは、ありえない。
存在しているからこそ、生きているからこそ。
それはありえない。
では、どういったことが考えられる??
エドは考えた。
生首になった状態で、考えた。
そして、やがて、それに行き着いた。
その考えに行き着いた。
まるで、それは、それは――……。
至った考えに、エドは笑った。
ありえないからだ。
でも、現実にそれは起きている。
あの護衛、偽物魔族。
内乱で天から地に落とされた、天使、あるいは神族の末裔。
それだけの存在のはずだ。
けれど、現実にはエドよりも上位の力を示した。
それは、つまり、あの偽物が、上位存在である神々と同じ力を持っているということだった。
エドは、笑った。
笑って。
笑って。
そして、嘲笑った。
どうやら、しばらくは退屈しないで済みそうだ。
そのことに、笑って、嘲笑った。
そんな彼の頭に影が差した。
見上げると、美しい女が立っていた。
綺麗な白髪、そして、着ているものも純白のワンピースだ。
その女が何者なのか、エドはすぐに理解した。
それは、本来ならすでに、この世界にはいない存在だった。
女は、軽く指を打ち鳴らした。
たったそれだけ。
たったそれだけで、エドの体が再生した。
「ふむ、さて、何が起きてる??」
どこか詠うように、夢心地のような声で女が問いかけた。
しかし、エドは動けない。
なぜなら、この女は文字通り女神だからだ。
それも、エド達本来の魔族や、天使達を生み出した上位の神々よりもさらに上の存在だ。
本来なら、エドのような魔族ですら見ることはおろか、言葉を交わすことすら出来ないはずの存在だ。
「…………」
エドは、答えない。
答えられない。
しかし、元より答えなど期待していないのか、女神はエドを見つめながら呟く。
「まるで話が違うじゃないか
あの人間が、謀ったか?」
あの人間。
それが誰のことを言っているのか、エドにはわからない。
まるで、わからない。
「いいや、ありえない。
それでも、と願ったのはあの人間だ。
どの世界でも、それは変わらないはずだ。
なら、なにか、把握しきれていない異分子か紛れ込んでいる??」
そんなことを言った後。
女神は、エドを見つめた。
そして、首を横に振った。
「お前との接触はもっとずっと後のはずだ。
なぜ、ここで接触した?」
問われたエドはしかし、答えを持ち合わせていなかった。
「そう、そうだ。
そもそも年齢が違うじゃないか」
女神は気にせす、そんな意味のわからないことを呟いた。
そして、エドへ手を伸ばしたかと思うと、その眼を二つとも潰してしまった。
衝撃はあったが、痛みは無かった。
そもそも、逃げるという選択肢すらエドには無かった。
だからされるがままとなっていた。
「まぁ、いい。
お前は、あの器にいつだって恋をするからな。
どの世界でも、あの器に恋をして、そして愛してしまうからな。
なればこそ丁度いい」
なんて言って、女神は潰したエドの眼を再生させた。
いや、新しい目を与えた。
監視するために。
器――アキラと、この世界になにが起きてるのか監視するために、エドに新しい眼を与えたのだ。
そこで、エドの意識はいったん途切れた。
つぎに目覚めた時、エドはこの世界のどこぞの町にある宿、そのベッドの上にいた。
もしも、エドが人間だったなら。
夢を見たのだろう、と結論づけたことだろう。
しかし、あの光景が夢でないことを、何となくエドは確信していた。
なぜなら、魔族は夢を見ないのだ。
そもそも睡眠を取るということもない。
体を起こし、ふと部屋に備え付けられた鏡台が目に入る。
この部屋には誰もいなかった。
誰がエドをここに運んだのかすらもわからない。
しかし、そんなことは些細なことすぎてどうでも良かった。
エドは鏡台に近づいて、その鏡に自分を写してみた。
そこには。
そこには。
灰色の髪をした少年が映っていた。
違うのは、目だった。
髪と同系色だったはずの目が、まるでガラス玉のような透き通った黄金色をしていたのだ。
これを喜んでいいのか、いまいちわからない。
なんとも微妙な顔つきになっていたエドに声が掛かった。
気配もなにもなく、その声は、エドに向けられていた。
振り向くと、今度は短い黒髪の見知らぬ女が、さっきまでエドが寝ていたベッドに腰掛けていた。
「思ったより早いお目覚めだったな?」
「誰だ、お前??」
女神とは違う。
人に近いが、でも人とも違う存在だった。
だからか、今度はエドは黒髪の女に声をかけた。
黒髪の女は、少し楽しそうに、面白そうに答えた。
「そうだなぁ、魔女かな。
そう、ハジマリの魔女だ。
この世界でも、シェリルと呼ばれている。
以後、お見知り置きを」
なんて言って、本当に楽しそうに黒髪の女――シェリルは答えたのだった。
舐めていた。
油断していた。
そう言われてしまえば、否定のしようがない。
四肢全てを吹っ飛ばされた。
胴体もだ。
「なんなんだ、アイツ」
痛みは無い。
あるのは、動揺、戸惑い……否。
妙な興奮だった。
エドは興奮していた。
逆に殺されるかもしれなかった、あの状況を思い出す。
すると、それだけで心が踊った。
己の運命、その存在に感じたそのとは違う。
気分の高揚。
感情もなにも読み取れなかった。
何も無かった。
彼には、あの護衛には、何も無かったのだ。
虚無とも違う、完全な無。
そんなことがあるのだろうか?
答えは、ありえない。
存在しているからこそ、生きているからこそ。
それはありえない。
では、どういったことが考えられる??
エドは考えた。
生首になった状態で、考えた。
そして、やがて、それに行き着いた。
その考えに行き着いた。
まるで、それは、それは――……。
至った考えに、エドは笑った。
ありえないからだ。
でも、現実にそれは起きている。
あの護衛、偽物魔族。
内乱で天から地に落とされた、天使、あるいは神族の末裔。
それだけの存在のはずだ。
けれど、現実にはエドよりも上位の力を示した。
それは、つまり、あの偽物が、上位存在である神々と同じ力を持っているということだった。
エドは、笑った。
笑って。
笑って。
そして、嘲笑った。
どうやら、しばらくは退屈しないで済みそうだ。
そのことに、笑って、嘲笑った。
そんな彼の頭に影が差した。
見上げると、美しい女が立っていた。
綺麗な白髪、そして、着ているものも純白のワンピースだ。
その女が何者なのか、エドはすぐに理解した。
それは、本来ならすでに、この世界にはいない存在だった。
女は、軽く指を打ち鳴らした。
たったそれだけ。
たったそれだけで、エドの体が再生した。
「ふむ、さて、何が起きてる??」
どこか詠うように、夢心地のような声で女が問いかけた。
しかし、エドは動けない。
なぜなら、この女は文字通り女神だからだ。
それも、エド達本来の魔族や、天使達を生み出した上位の神々よりもさらに上の存在だ。
本来なら、エドのような魔族ですら見ることはおろか、言葉を交わすことすら出来ないはずの存在だ。
「…………」
エドは、答えない。
答えられない。
しかし、元より答えなど期待していないのか、女神はエドを見つめながら呟く。
「まるで話が違うじゃないか
あの人間が、謀ったか?」
あの人間。
それが誰のことを言っているのか、エドにはわからない。
まるで、わからない。
「いいや、ありえない。
それでも、と願ったのはあの人間だ。
どの世界でも、それは変わらないはずだ。
なら、なにか、把握しきれていない異分子か紛れ込んでいる??」
そんなことを言った後。
女神は、エドを見つめた。
そして、首を横に振った。
「お前との接触はもっとずっと後のはずだ。
なぜ、ここで接触した?」
問われたエドはしかし、答えを持ち合わせていなかった。
「そう、そうだ。
そもそも年齢が違うじゃないか」
女神は気にせす、そんな意味のわからないことを呟いた。
そして、エドへ手を伸ばしたかと思うと、その眼を二つとも潰してしまった。
衝撃はあったが、痛みは無かった。
そもそも、逃げるという選択肢すらエドには無かった。
だからされるがままとなっていた。
「まぁ、いい。
お前は、あの器にいつだって恋をするからな。
どの世界でも、あの器に恋をして、そして愛してしまうからな。
なればこそ丁度いい」
なんて言って、女神は潰したエドの眼を再生させた。
いや、新しい目を与えた。
監視するために。
器――アキラと、この世界になにが起きてるのか監視するために、エドに新しい眼を与えたのだ。
そこで、エドの意識はいったん途切れた。
つぎに目覚めた時、エドはこの世界のどこぞの町にある宿、そのベッドの上にいた。
もしも、エドが人間だったなら。
夢を見たのだろう、と結論づけたことだろう。
しかし、あの光景が夢でないことを、何となくエドは確信していた。
なぜなら、魔族は夢を見ないのだ。
そもそも睡眠を取るということもない。
体を起こし、ふと部屋に備え付けられた鏡台が目に入る。
この部屋には誰もいなかった。
誰がエドをここに運んだのかすらもわからない。
しかし、そんなことは些細なことすぎてどうでも良かった。
エドは鏡台に近づいて、その鏡に自分を写してみた。
そこには。
そこには。
灰色の髪をした少年が映っていた。
違うのは、目だった。
髪と同系色だったはずの目が、まるでガラス玉のような透き通った黄金色をしていたのだ。
これを喜んでいいのか、いまいちわからない。
なんとも微妙な顔つきになっていたエドに声が掛かった。
気配もなにもなく、その声は、エドに向けられていた。
振り向くと、今度は短い黒髪の見知らぬ女が、さっきまでエドが寝ていたベッドに腰掛けていた。
「思ったより早いお目覚めだったな?」
「誰だ、お前??」
女神とは違う。
人に近いが、でも人とも違う存在だった。
だからか、今度はエドは黒髪の女に声をかけた。
黒髪の女は、少し楽しそうに、面白そうに答えた。
「そうだなぁ、魔女かな。
そう、ハジマリの魔女だ。
この世界でも、シェリルと呼ばれている。
以後、お見知り置きを」
なんて言って、本当に楽しそうに黒髪の女――シェリルは答えたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる