社畜少年の異世界交流記

一樹

文字の大きさ
23 / 24
16歳の異世界転移

23

しおりを挟む
 その日の深夜。
 ウィルは、元々空き部屋であり、今日からアキラの部屋となった扉の前に来た。
 アキラは寝ているはずだ。
 だからこそ、今確認しておかなければならない。

 ノックもなにもなく、ウィルは部屋の扉を開けた。
 家具も何も無い、殺風景な部屋。
 その中心で、布団を敷き眠っているアキラを見る。
 そして、話しかけた。

「おい、いるんだろ??
 出てきたらどうだ、化け物」

 ウィルの言葉に答えるかのように、カッとアキラの瞼が開く。

「ククク。
 おい、俺を知ってるのか?
 天使風情が、俺を知ってるのか??」

 起き上がりながら、アキラの中にいる存在。
 実質、アキラを延命させている存在――魔神が彼の口を借りて、そんなことを言ってくる。

「お前、何者だ??」

 ニヤニヤと、ウィルを品定めするかのように見てくる。

「記憶を読めるだろう?
 勝手に読め、化け物。
 それで理解しろ。
 その上で、聞きたいことがある」

 ウィルの言葉に、ニヤニヤはそのままに魔神は彼の記憶を読んだ。
 そして、一瞬でウィルが何者なのかを理解する。
 笑みが深くなる。

「は、ははは!!
 こいつぁ、おもしろい!!
 お前、逆行者か!!
 この世界を何度もループしてるな?!」

「言い方なんてどうでもいい。
 聞きたいことがある」

「あぁ、いいぜ?
 面白いことは好きだ。
 なんでも答えてやるよ」

「なんで、今、こちらに来た?」

「はぁ?」

「お前が、いいや、アキラがこっちに来るのは三年後。
 19歳の時だ。
 それも、役所職員が彼を迎えに行くという流れでこっちに来るはずなんだ。
 それは、どの世界でも変わらなかった。
 なのに、何故いまここに居る?
 誰がお前たちをこっちに来させた?
 誰に導かれた?!」

「知るかよ。
 気づいたら、こっちにいた。
 この甥っ子の記憶を読む限り、わかるのはそれだけだ」

「アキラの父親、お前の弟が関与してるんじゃないのか?!」

「さてね、俺を甥っ子に入れて流れるはずだった命を繋ぎとめたのは、たしかにこいつの父親で俺の弟だ。
 ま、代償で狂気に飲まれこいつを殺し続けることになったのは皮肉としか言えないけどな」

「なら上位存在――女神か?」

「だから知らないって言ってるだろ。
 でも、甥っ子を殺しに狼が出てきたタイミングは良かったな。
 まるで図ったみたいだ」

「狼?」

 魔神は、こちらに来た時のことを説明した。
 ウィルが顔をしかめる。
 魔神は続けた。

「エド達がけしかけたんじゃないのか?」

「エド?
 あぁ、あの小生意気な小童のことか。
 違うな。
 そんなことする理由がない。
 自分たちでやればいいからな」

「じゃあ、一体誰が……」

「やけに、甥っ子に執心だな。
 あぁ、なるほど、お前ほかの時間軸でコイツと家族だったのか。
 それも、あははは、子供まで作ったと。
 こりゃ傑作だ!!
 その未来の家族を捨ててでも、こいつを人にしておきたいのか!
 お前も大概狂ってるな!!」

「うるさい」

「あぁ、いいねぇいいねぇ。
 その狂気、嫌いじゃねーよ」

「僕は狂ってなんかいない!!」

「どうだか。
 愛は人を狂わせるからな。
 狂わせて狂わせて、そして壊すんだ。
 壊れた甥っ子と狂人のお前。
 中々お似合いじゃねーの。
 いいぜ?
 お前の狂気は中々美味い。
 だから、協力してやってもいいぞ?
 この、お前が愛してやまない甥っ子を人として人生を過ごせるように。
 それが、お前の考える救いなんだろ?」

 魔神の言葉を受けて、ウィルは彼を睨んだ。

「だが、はたして俺がこうして中にいる時点で、こいつは【人間】と言えるのかね?」

「アキラは、人間だ」

「死んでも蘇る。
 何度も父母に殺されて、蘇ってきた。
 普通の人間じゃない」

「それでも、アキラは人間だ。
 人間、なんだ」

「まぁ、たしかに今のままなら老いて衰えることが出来るだろうな。
 死んでも蘇ることさえ除けば。
 人間だろうな」

「…………」

「話はそれだけか?」

「僕に」

「うん?」

「僕にアキラを殺させないでくれ」

「……それは、別の時間軸、別の世界の話だろ」

 魔神は話は終わりだ、と布団に潜り込んだ。
 それを、苦々しい顔つきでウィルは見つめるのだった。
 聞こえてくるのは、アキラの穏やかな寝息である。
 息を吐いて、ウィルは部屋を出た。
 自室に戻り、高ぶった感情を落ち着かせるためにゲームを始めた。
 ゲームをしていれば、何も考えなくていい。
 余計なことを考えなくていいから、楽だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...