毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

文字の大きさ
4 / 50

しおりを挟む
 程なくしてやってきたお巡りさんに男の子を預け、あたし達は散歩を再開した。
 タマをもっと撫でたかったのか、それとももう少しあたしが仕込んだタマの芸を見たかったのか、ちょっと男の子がぐずついたけれど、それ以外は概ね平和に事が済んだ。
 その日の夜に、交番から連絡がきた。
 男の子が無事親元に戻ったという連絡だった。
 簡単な会話の後、受話器を置くとマリーが言ってきた。

 「今更だけど、一人で街から歩いてきたってことじゃん。
 普通に交番まで歩かせても良かったんでないの?」

 どうやら、あたしと交番からの電話の内容を聞いていたようだ。

 「あの子、あたしらに会って完全に気が抜けたから。
 たぶん、無理だったと思うよ」

 「つーかさ、親は何してたんだろ?
 ちゃんと見てなかったのかな?」

 「……あれくらいの子って、うろちょろするもんなの。
 親だって神様じゃないんだから、ミスくらいするよ。
 車に轢かれなくてほんと良かったよ」

 「だとしても、体力ヤバくない?
 大人と小さな子供の足じゃ比較になんないでしょ」

 「それねぇ。
 たぶんあたしと同じで、でもあの子の方が能力的には全然優秀なんだと思うよ」

 「どゆこと?」

 「あたしと同じ混血の人間種族で、でも体力だけは両親どちらか、もしくは二人から受け継いでて、同じ歳の子よりもあったんじゃないかなってこと。
 両親がどんな種族かは知らないけどさ」

 1000年前ならいざ知らず、現代において混血なんてそんなに珍しくはない。 

 「あ、なるほど」

 マリーは納得したようだった。

 「ま、あくまで可能性の話だけどね」

 「なるほどー、たしかに姉ちゃんと違ってあたしは吸血鬼の血が少し出てるもんなー。
 夏の紫外線、超苦手だし」  

 紫外線が強いのは、夏だけじゃないんだけど。
 ま、黙ってよ。

 「月を見ると吠えたくなるし」

 「それは人狼族でしょ。吸血鬼は遠吠えはしないよ」

 まぁ、その血が欠片も入ってないとは言えないが。
 話はここまでだ。 
 あたしは居間で猫の玩具になってるタマのところまで行くと、猫たちから取り上げた。
 休みの日は、夜の散歩もするのだ。
 その気配を察してか、タマが逃げようとする。
 しかし、あたしはタマを逃がしはしない。
 しっかりホールドして、昼間同様に、散歩装備をさせる。
 そして、玄関に向かうと下の妹が起きてきて、声を掛けてきた。

 「姉ちゃん、どこ行くの?」

 声の方、つまりは後ろをふりむく。
 そこには、御歳五歳の吸血鬼の妹が立っていた。
 上の妹のマリーが太陽みたいな金髪なら、下の妹のエリーゼは月のような銀髪である。
 吸血鬼なので、目も赤い。

 「タマの散歩」

 「エリィも行く」

 「ダメ」

 「なんで?」

 「起きたばかりだから、ご飯食べてないでしょ」
 
 「行く。帰ってきてから食べる」 

 「……じゃ、ばあちゃんかお母さんに聞いてきな。
 タマの散歩ついて行っていいか」

 「わかった」

 父親には聞かないのかって?
 あの人は当てにならない。
 今は自室にて、チータラでワインを飲んでいる。
 ワイングラスなんて洒落たものは無いので、マグカップで飲んでいる。
 で、テレビでナイターの野球を見てるに違いないのだ。
 いつもそうだからわかるのだ。

 タマが、虚無の視線を向けてくる。
 しかし、無視する。
 お前の主はあたしだ。
 しばらく玄関で待っていると、着替えたエリーゼがトコトコとやってきた。

 「良いって」

 「ご飯は?」

 「帰ってからでいいって」

 「ほんとにそう言ったの?」

 「うん、お母さんいいって言ったよ。
 姉ちゃんの言うことちゃんと聞くようにって」

 「なるほど、それならいいよ。
 ほら靴履いて」

 「ん!」
 
 靴を頑張って履く、幼女吸血鬼を見ながらあたしが思ったのは、たった一つだ。
 言うことは別に聞かなくていいから、物理的にあたしの骨を折るような行動は慎んでほしい。

 あたしだって、さすがに痛いのがそう何度も続くのは勘弁したいのだ。
 エリーゼの準備が出来たので、あたしはテコでも動こうとしないタマを引き摺り、なんとか玄関からでた。
 エリーゼもそれに続く。

 外に出ると、満月だった。
 あたしが歩き出すと、タマも動き出した。
 それに合わせるように、エリーゼが蝙蝠の羽を出してふよふよ浮かびながらついてくる。
 歩け。

 「姉ちゃん姉ちゃん」

 「なに?」

 「なんで、タマの名前をタマにしたの?」

 「見てたら玉こんにゃく食べたくなったから」

 「毛むくじゃらなのに?」

 「でも、スライムでぴょんぴょん跳ねるから。
 コンニャクみたいだなって」

 「コンニャクは跳ねないよ?
 揺らすとプルプルするだけだよ?」

 「で、無性に玉こんにゃくが食べたくなったから」

 「姉ちゃん、タマのこと育ててるのって食べるためなの?」

 そこで、タマがビクッと体をふるわせた。
 どうやらこちらの話を完全に理解してるようだ。

 「んー、体重減らすため。
 ほら、こうやって散歩するのはダイエットになるから」

 「そうなんだ」

 「そうなんだよ」

 「そっか」

 妹は今度は地面スレスレまで近づき、タマへ手を伸ばす。
 あたしは立ち止まり、エリーゼがタマを撫でるのを見つめる。

 「タマ、太った?」
 
 「かもね」

 エリーゼも、この急速なデカさはやはり気になったようだ。

 「姉ちゃん姉ちゃん」

 「なに?」

 「知ってる? ペットって飼い主に似るんだって」
 
 おうおう、そりゃどういう意味だ。
 あたしは、言葉にする代わりにエリーゼの頭を教育的指導のために軽く小突いたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...