毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

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 「ココロ、またアンタに手紙来てたよ」

 高校から帰宅したあたしに、母がそう言って寄越したのは冒険者ギルドからの親展のお手紙だった。
 執拗い。
 本当に執拗い。
 あたしは手紙の中身に見当をつけつつ、それでも念の為に開いて確認した。
 
 「またか」
 
 うんざりと吐き捨てるあたしに、同じように中学から帰ってきたマリーが手紙を覗いてくる。

 「なにこれ、モンスター、の飼育講座のお知らせ?」

 「そ、格安で参加しませんか?
 っていうお誘い」

 「行かないの?」

 「現状困ってないし」

 「飼育に関する悩みは?」

 「特になし」

 「でもさ、ただのお知らせの手紙にしちゃ、普通に多くない?
 気の所為?」

 妹の言葉に、あたしは大きく息を吐き出した。
 そう、このお知らせは頻繁に来ているのだ。
 ぶっちゃけ、ウザイ。
 
 「たぶん、気の所為じゃない」

 明らかな勧誘の臭いがプンプンする。
 金づると思われてやしないだろうか。
 たぶん思われてる。
 拾ってすぐの診断の時に、自分の名前で獣医さんに見せたからかなぁ。
 あたしの名前できてるもんなぁ。
 
 「あれかなぁ、姉ちゃん、無責任な飼い主扱いされてタマのこと捨ててないか確認するために、こういう講座に出やがれってことなのかなぁ」

 やめろ。
 想像とはいえ、ほんと、そういうのやめろ。

 「個人情報はちゃんと管理してほしい」

 「小遣い稼ぎに誰かが横流ししてる可能性、絶対ありそう」

 やめろ。
 そういうこと言うな。
 ありそうで怖い。

 「でも、そういう飼い主仲間作っておくとなんかあった時相談しやすくない?」

 「そういうもんかねぇ」

 言いつつ、あたしはタマを見た。
 タマは現在昼寝中である。
 そして、昼寝をしているタマを、チーとムーの二匹が左右からそれぞれ囲み、目を細め、前足でパンを捏ねるようにフミフミしている。
 ついつい、パン職人の朝は早い、とかナレーションを付けたくなってしまう。
 なんだこのモフモフ空間。
 天国か?
 天国は意外と近くにあった。
 そして、この天国はあたしが作った。
 つまり、あたしこそが神である。Q.E.D.。
 などとアホなことを考えつつ続けた。

 「今どき、困った時は動物病院のホームページとか検索すれば書いてあるし。
 相談用のWeb掲示板もあるし」

 「病院のホムペはともかく、掲示板って、どこの誰とも知らない人達の巣窟じゃん。
 書かれたことがホントかウソかって分からない人にはわからないし」

 「ま、そうなんだけどね」

 「もしかしたら、有名な冒険者とかに会えるかもよ?」

 「生憎、興味ない」

 一部の分野で有名でも、世間的には無名、なんてよくある話だ。

 「姉ちゃんがよく読んでる漫画とか小説みたいに、意外な才能、この場合はテイマーとかの才能が開花して、出世街道まっしぐらとかになったりするかも」

 ほんと、想像力豊かだな。
 そういえば、一年前の小六の時まで白馬にまたがった王子が迎えに来てくれるとか本気で考えてたもんな。こいつ。
 今どきなら白馬より、大型バイクかお高い車で迎えにくるのが現実的だ。
 というか、大型バイクで来てもらいたい。
 その方が、ヒーローみたいでカッコイイ。
 あと、馬も牛と同じで餌代めっちゃかかるだろ、とか言ったら取っ組み合いの喧嘩になった。
 さすが吸血鬼の血が入ってるだけはある。
 こいつ、子供の頃から取っ組み合いの喧嘩になる度に首を噛もうと狙ってきたからなぁ。

 「HAHAHA」

 あたしは乾いた笑いしか出なかった。


***


 「一日一通は必ず来るとか、怖すぎる」

 あたしは、昨今の諸々の事情で遊具が撤去され、あたしが子供の頃よりかなり殺風景になってしまった公園のベンチに座り、呟いた。
 膝の上にタマを乗せ、撫でつつ待ち合わせをした、なっちゃんが来るのを待った。
 端的に言うと、結局冒険者ギルドで定期的に開催されている講座というか、ワークショップというかに参加することを決めた為だった。
 しかし、一人で行くには度胸がいる。
 なので、なっちゃんに頼んで一緒に参加してもらうことにしたのだ。
 今日開催予定の講座、そのチラシには家族や友人を誘ってお気軽にご参加くださいと書いてある。
 役所の管轄下なので、変な宗教の勧誘会場とかではないはずだ。
 でも、やたら高い布団とか壺とか売られても困るし。
 両親や祖父母は休日出勤や畑や家事があるから、付き合ってもらえなかった。
 少しは娘が変な集会に参加しないよう、注意してくれてもいいのに。
 これだって相談したら。
 母には、

 「お行儀よくね」

 父には、

 「帰りに、適当なマグカップ買ってきてくれ」

 祖父には、

 「農協連中との飲み会となにが違うんだ?」

 祖母には、

 「あ、じゃあお弁当つくるね。
 水筒の中身はいつもの麦茶でいい?」

 と言われてしまった。
 お母さん、あたしは貴方の中で何歳扱いだよ?
 お父さん、また割ったのか。自分で買え。
 じいちゃん、少なくともお酒は出ないかなぁ。
 ばあちゃん、いつもありがとう。おにぎりと麦茶でお願い。

 と、それぞれ丁寧に返答してしまったあたしもあたしだが。
 脇に置いたカバンの中にはばあちゃんが作ってくれた、アルミホイルに包まれたおにぎりと、それとは別におかずを詰めてくれた弁当箱と筆記具が突っ込んである。
 乱雑に突っ込んだ中身には、ビニール袋がある。
 ビニール袋の中身は、念の為にタマのお弁当である雑草が入ってる。
 SNSをチェックし、更新を追っているWeb小説をチェックし、時折タマを撫でて時間を潰していると、なっちゃんが現れた。

 「おっすー」

 なっちゃんがそう声をかけてきたので、
 
 「よっすー」

 学校でするように、あたしも返した。

 「今日は付き合ってもらってありがとねー」

 「いいってことよ」

 そうして、あたし達はギルドへ向かうのだった。
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