毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

文字の大きさ
8 / 50

しおりを挟む
 聞けば、初顔の人、とくにモンスターを飼うのが初めてそうな人には声を掛けているらしい。
 
 「午後からは実技だけれど、タマちゃんは対戦経験はあるのかな?」

 「いえ、無いです」

 知識として、モンスター同士を戦わせる競技があるのは知っていた。
 それはテイマーの腕の見せ所らしく、どれくらいテイムしたモンスターを育てられたのか、という品評会も兼ねているらしい。

 「そっか、それじゃ今回は見学だね。
 あ、もしもそういうのを見るのが苦手なら、今のうちに言ってね」

 あたしは大丈夫だ。
 なっちゃんも、大丈夫のようだ。

 「良かった」

 講師さんは、どこか安心したように表情を緩ませた。
 そういえばこの人名前なんだっけ?
 あたしは講師さんが首から下げていたネームプレートを見た。
 略称か本名かはわからないが、【ジーン】とだけ書いてあった。

 「たまにね、難色を示す人ってのがいて。
 まぁ、わからなくはないよ。
 見ようによっては虐待に見えるらしいし」

 色々あったのだろう、イケメンの目が死んでいる。

 「大丈夫ですよ。子供の頃に蛇とカエルとっ捕まえて対戦させたりしたことあるんで」

 子供の頃って、結構残酷で残虐な遊びを平気で出来てしまうから不思議だ。
 一応言っておくと、今はしていない。
 本当だ。

 「カブトムシとクワガタの相撲も、よくやらせてました」

 あたしの言葉に、タマが涙目でガタガタと震え始めた。
 もしかして、無理やり参加者のモンスターと戦わせられたりするの?
 そんな不安な色が、タマの一つ目に宿っている。
 
 「へ、へぇ」

 イケメンがドン引きしている。
 これ、あれだな小学生の頃に自由研究で、お父さんに協力してもらって、水槽にいろんな虫を入れて、昆虫の無差別格闘相撲と称してその観察日記付けてたことは、言わない方が良いな。
 あとで、ばあちゃんに見つかって、それは蠱毒って呪法だからやらないようにって、凄い怒られたんだよなぁ。
 しかし、なんで、こんなエリートが、こんなド田舎で講座なんて開いてるんだか。
 都会で活動したほうが有利だろうし、稼げそうなものだが。

 「あ、そういえば」

 あからさまにジーンさんが話題を変えた。

 「タマちゃんって、何か芸は出来るの?」

 どこか確信を持って聞いてくる。
 なんだろう、もしかしてモンスター飼ってる人は芸を教えるのがデフォルトなのだろうか?
 まぁ、出来るけど。 
 あたしが肯定すると、ジーンさんが言った。

 「見せて貰ってもいい?」

 「……いま、ですか?」

 「そうだけど、あ、もしかして広いところや外じゃないと出来ない芸だったりする?」

 「いえ、そんなことは無いです」

 あたしが更にそう返した時、なっちゃんが目を輝かせてタマを見た。
 見ながら、

 「見てみたい!」

 そんなことを口にした。

 「まぁ、別にいいですけど」

 丁寧語だったのは、ジーンさんが居たからだ。
 あたしは、タマをポンポンと軽く叩くと頭の上に乗せた。
 そして、

 「じゃ、簡単なやつで。
 タマ、お手玉」

 あたしが言うと、鳴いて応えた。
 そして、ぴょんっと跳ねたのだろう。
 頭が軽くなったかと思うと、タンタンタン、タタン、とリズムよく、タマがはね始めた。
 家と違って姿見等の鏡が無いので確認できないが、いま、タマは、おそらく三匹程に分裂して、それこそお手玉のように入れ替わり立ち替わり、あたしの頭を使って飛び跳ね、グルグルと回っているはずである。
 なっちゃんが、瞳を輝かせてすごいすごいと手を叩く。
 一方、ジーンさんは真顔だった。
 ありゃ、受けが悪いな。
 なら、

 「タマ、桜吹雪」

 あたしは、手をぱんぱんと叩いて別の芸をするよう命令する。

 「テュケ!!」

 楽しそうにタマが鳴いて、それに応える。
 おそらく、分裂は元に戻ったはずだ。
 そのタイミングで、視界が薄ピンクいっぱいに彩られる。
 同時に、ポスンっとタマがあたしの頭の上に着地する。
 
 「おおう! 綺麗! 年中お花見できるじゃん!」

 なっちゃんにはご満足頂けたようだった。
 ジーンさんを見れば、驚いてはいた。
 でも、顔面蒼白だった。
 そんな彼から漏れ出た一言は、

 「嘘だろ」

 副音声があったなら、信じられない、と言わんばかりの口調だった。
 他にもあるけど、あれはお父さんとじいちゃん用の芸だからなぁ。
 うん、これ以上見せるのはやめよう。
 なんか嫌な予感するし。
 いや、もう遅いかな。
 これひょっとして、モンスター的には教えちゃいけない芸だった、とか?
 なんかそんな気がする。
 ジーンさん、講座の時とは打って変わって、なんと言うのだろう?
 そう、滅茶苦茶怖い顔をしているのだ。
 あー、こりゃ怒られるかな。
 でも知らなかったしなぁ。

 「タマ、終わり」

 言って、またあたしは、ぱんぱんと手を叩いた。
 途端に桜吹雪が消えた。
 同時に、他の参加者達からざわめきが起こった。
 なんだろ、なんか視線を感じる。
 それを気にしないようにして、あたしはジーンさんに感想を聞いた。

 「えと、こんな感じの芸ですけど。
 どうでした?」

 ジーンさんは、呆然としたまま動かない。
 仕方ないので、あたしはタマを頭から降ろして、なっちゃんへ訊いた。

 「どうだった?」

 「めっっっっちゃ、綺麗だった! サクラがぶわぁああってなって、あとこう、なんて言うのかなぁすっごい幸せな気分になれた!!
 タマ凄い!!」

 あたしの膝の上で、タマは得意げにテュケテュケ鳴いた。
 それをなっちゃんが、いい子いい子、と撫で撫でする。
 そこで、ようやくジーンさんが我に返って、少し震える声で聞いてきた。

 「これは、君が教えたの?」

 「いえ、なんかいつの間にかタマが出来るようになってました。
 せっかくなんで、それこそモンスターとかを対戦させる漫画みたいに指示に合わせられるようにならないかなぁって、遊んでたら今の形になりました」

 とくに隠すことでもないので、素直に言ったら、ジーンさんはまた顔を引き攣らせてしまった。
 そして、今度はしっかりと確認としてこう訊いてきた。

 「君、ほんとに育成初心者?
 なんともないの?」

 と。
 ちなみに、お父さんが仕込んだ芸で【タマタマブランコ】という、とても下品だけど、近所の子供には大ウケしたものがあるが出さなくて正解だった。
 しかし、なんともないとはどういう意味だろう?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。 前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。 でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。 新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。 ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。 りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。 ……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。 ※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...