毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

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 終着駅で電車を降り、ジーンさんとも分かれた。
 どうせなら一緒に行こうよ、というお誘いも丁重にお断りした。
 読者諸君なら理解してくれると思う。
 あたしはまだ刺されて死にたくないのだ。
 ジーンさんのファンからの視線に耐えられなかったし、その視線に本当に身の危険を感じたのだ。
 それに、トイレにも行きたかったし。
 県庁もある田舎都市の終着駅。
 都心のそれとは違うがそこそこ広い。
 ちなみに、私用で何度か来たことがある。
 なのでトイレの場所含め、駅構内の地図は頭に入っている。
 あたしがトイレに行こうとすると、声を掛けられた。
 今度は、女性から。
 それも、ばあちゃんやマリーと同じハイエルフ。

 「あ、あの、先程ジーン様とお話していた方ですよね?」

 「え、あ、はい」

 「反対の席でお話を伺っていたのですけど、今回、初めての参加だとか」

 「え、えぇ、そうです」

 戸惑いつつ、あたしは答えた。
 声をかけてきたのは、あたしと同年代くらいの女子だった。
 
 「なら、この駅も初めてですよね?」

 確認と言うよりも決めつけに近い言葉。いや、声音。
 あたしは曖昧に愛想笑いを浮かべる。
 そうしている間にもその子は、親切心ですよとばかりに駅の出口を口頭で伝えてくる。 
 全くの反対側だったけど。
 ついでに、そこから会場までの道のりも教えてくれた。
 全くのデタラメだったけど。
 とりあえず、そろそろ膀胱が限界だったので上辺だけのお礼を述べてあたしはその場を後にした。
 怖いよ!
 女って、なんでこんな怖いの?!?!
 あたしはただ勉強会に来ただけなんですけど!
 そして、沼ってて良かったオタク趣味!
 一般参加で、来てて良かった同人イベント!
 そう、私用というのは何を隠そう同人イベントの一般参加だ。
 この駅は、そのイベント参加のためよく利用しているのだ。
 というか、あの子、そういうこと全くの考えなかったんだろうか?
 あ、いや、あれか、勉強会は初参加って言うのを聞いて勘違いしたのか。
 だからって、善良な勉強会に来た人間を嵌めようとするか普通?

 あと、地図アプリって便利なものがあるのにそれを使えないような人間にでも見えたのだろうか?
 だとしたらかなり失礼だ。
 まぁ、その辺の真意はわからないけど。
 でも、これだけは言える。
 勉強会の時は目立たないよう、大人しくしてよう。
 なるべくジーンさんとは距離を置いておかないと。
 まぁ、念の為だ。
 ジーンさん、この前みたいな田舎の講習会だと、初心者に対して優しかったけど、そもそもあの人は特別ゲストだった。
 つまり、本来なら初心者向けの講義をする人じゃなくて、上級者向けの講義をする人なのではないかと思う。
 あと、距離を近くする理由というか、得というかが欠けらも無いというのもあるが。
 でも、損はある。
 さっきみたいな事があったんではたまったものじゃないからだ。
 あたしはとりあえずトイレへ向かい、用を足す。
 それから、イベントでは大変お世話になっている建物であり、今回の勉強会の会場にもなっている建物でもある場所へ向かうのだった。


 会場にたどり着くと、偶然にも先程親切にもここまでのデタラメな道のりを教えてくれたエルフの子がいて、目が合った。
 だが、あえてあたしは知らん顔をする。
 関わりたくなかったからだ。
 そのまま勉強会の腕章を付けたスタッフの人へ話しかける。
 そして、受付を済ませると勉強会の前に行われる開会式のことを説明された。
 なんでも、その開会式のあとに各教室に別れるらしい。
 いくつかの会議用の部屋を借りてるようだ。
 紙の案内を渡され、開会式の部屋へと通された。
 そこにはパイプ椅子がズラっと並べられ、もう既に座っている人もいる。
 あちこちで、電車の中のようにモンスターが飼い主に甘えていたり、のんびり欠伸をしていたりする。
 ザワザワとざわめきはあるものの、雰囲気自体は穏やかなものだ。
 良かった。 
 なっちゃん同伴で、初めて冒険者ギルドを訪れた時や、さっきの駅での事もあったから、また変な人に絡まれてマウント取られたり、意地悪をされるんじゃないかと不安だっただけに、安心した。
 とくに白い目を向けられることも、好奇な目で見られることもない。
 よくよく会場内を観察すると、それこそ参加者の様々なスライムを見ることができた。
 頭に猫耳や犬耳、あるいは地面に近い部分にもふもふの尻尾が生えていたりするスライムがいる。
 かと思えば、頭は猿で、手足は黒と黄色のシマシマ柄の虎、体はずんぐりむっくりの狸、尻尾は蛇といういろいろ混ざりすぎたモンスターもいた。
 尻尾の蛇が、飼い主の袖を引っ張る。
 飼い主がそれに気づいて、全体的をなでなでした。
 猿の顔がとても気持ちよさそうに目を細めた。
 なんだアレ、可愛いな。
 なんて言うモンスターなんだろ?
 色々混ざってはいるけど、猿、いや、胴体は狸だから、化け狸とかかな?

 そんな風に色んなモンスターがいた。
 なんだここ、天国か。
 そうか、天国は勉強会にあったのか。
 こんな、もふもふ天国が広がっているなら休みが潰れても全然苦じゃない。

 さて、どうやら席は基本適当らしい。
 最前列から何列かは上級者向け、真ん中が中級者、そして後ろの方が育成初心者もしくはこの勉強会初参加の人用となっていた。
 あたしは一番後ろの端っこに座った。
 空いてて良かった。
 そこからは、タマをキャリーバッグから出して撫でたり携帯を弄ったりして時間を潰した。
 気づくと、人とモンスターがさらに増えていた。

 「あ、あの、すみません。隣りいいですか?」

 タマをもふもふしつつ、携帯で今日更新のウェブ小説をチェックし読んでいた時、そう声を掛けられた。
 見れば、おどおどした褐色肌のエルフ、眼鏡を掛けたダークエルフの少女があたしを見ていた。
 あたしより少し年下、マリーと同い歳くらいの子だ。
 その腕には、先程別の人が連れていた正体がよくわからないモンスターと同種らしき子供を抱いていた。
 あたしは言われて、タマを入れていたキャリーバッグをすぐ隣の椅子に置いていたことに気づいた。

 「あ、すみません!
 どうぞどうぞ」

 あたしは謝って、キャリーバッグを足元へ動かす。
 ダークエルフの子は、ペコペコ頭を下げて隣の席に座った。
 こういう場所に慣れていないのか、それとも人見知りなのか。
 その子は、居心地悪そうにしている。
 こういう場所に慣れていないのは、あたしもだけど。

 「あの、その子、可愛いですね。
 なんて言う名前なんですか?」

 あわよくば、このダークエルフの子と親しくなって、この子のペットをもふもふさてせてもらおう、と考えたあたしはそう声を掛けた。
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