毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

文字の大きさ
23 / 50

23

しおりを挟む
 「それって」

 あたしが、ジーンさんへ問いただそうとした時、黒煙が消え、リリアさんの指示が飛んだ。

 「火竜サラマンダー!! 猪突猛進ダイレクトアタック!!」

 火竜が突っ込んでくる。

 「タマ! これ、なーんだ?!」

 あたしは咄嗟にしゃがみこんで、指を一本立ててタマに見せた。
 それだけで、さっきまでべそをかいていたタマの注意をそらすことができた。
 良かった、こいつが単純で。
 あたしは、突っ込んでくる火竜との距離に注意しながら、左右に腕ごと振る。
 大丈夫、この距離ならイける。
 タマの瞳孔が開いて、あたしの指を注視する。
 火竜が、タマへおそらく技名からして体当たりする為に力強く跳躍した時、あたしはそれに合わせて体を勢いよく起こす、同時に腕も思い切り上へ振り上げた。
 指を追いかけて、タマが見事にジャンプする。
 そこに火竜が突っ込んできた。
 そして、火竜は見えない壁に激突し、目を回してしまった。
 その上に、タマがポスんっと着地した。

 「テュケ?」

 先程と違う感触に、タマが不思議そうにする。
 同時に、ほかの勉強会参加者達がシン、と静まった。
 それらを見て、ジーンさんが苦笑した。

 「なるほど」

 あたしは、ジーンさんを睨む。

 「楽しんでないで、ちゃんと助言してくださいよ!
 あたしもタマも、こんなこと未経験なんですよ!?」

 「ごめんごめん。
 そうだなぁ、じゃあ、この子にトドメをさそっか」

 イケメンが怖いことを口にした。

 「あ、違う違う。ほんとに命をとるとかじゃないよ。
 今はまだ気絶してるだけだから、ちゃんと相手を倒したって判定に持ち込みたいんだ。
 体力ゲージ、まだ残ってるみたいだしさ」

 は?
 体力ゲージ??
 そんなの、どこにも見えないんですけど!!?
 戸惑うあたしの顔を見て、ジーンさんが実に楽しそうにニコニコする。
 うわぁ、ムカつく。
 なんだこの人。

 「うん、詳しい説明はあとでちゃんとするから。
 とりあえず、タマちゃんも物理攻撃出来ないかな?
 体当たりとか、噛み付いたりとか」

 「そんな、急に言われても」

 焦るあたしの脳裏に、何故か今朝の出来事が浮かんだ。
 何気ない、日常のそれ。
 物理攻撃になりうる、それ。
 本来の用途とは、別の形での使い方だけど。
 あたしは、叫んだ。

 「タマ! 目覚まし!!」

 意外と響いたあたしの声。
 観客、つまり他の勉強会参加者達が意味がわからなかったからか、今度はざわめきが起こった。

 『そんな技、あったっけ?』 

 『いや、知らん』

 『多分無いよ、あのスライムのステータスにそんな技出てないし』

 『それじゃ、ブラフ?』

 『かもね。素人が無い頭搾って口からデマカセ言ってんでしょ』

 そんな呟きやら、会話が流れてきた。
 しかし、タマはそんなこと気にすることなく、あたしの指示に従う。
 
 「テュケ!!」

 そういえば、この芸ちゃんと見るの初めてなんだよなぁ。
 お母さんからは、飛び跳ねてお父さんを起こす芸だって聞いてたけど。
 タマが元気よく返事をして、跳んだ。
 そして、空中でタマは三倍ほど大きくなった。
 その体積のまま、落下して火竜を押し潰したのだった。

 「テュッケ♪ テュッケ♪ テュッケるる~♪」

 ぼっふん、ぼっふん、とタマがリズミカルに火竜の上でジャンプする。

 これ、ここ最近毎朝やられてたのか、お父さん。

 ダンピールの体の頑丈さすら圧倒する押し潰しだ。
 火竜、死んでなきゃいいけど。
 いや、死んだかな?
 ぺったんこになってそう。
 え、この場合あたしって過失致死させたことになるのかな?
 それとも事故死?
 あ、でも格闘技の試合の場合、舞台上で死んだら罪には問われないって聞いたことあるから、たぶん大丈夫。
 あたしが罪に問われることは、ない、はず。たぶん。
 いやいや、まだ死んだと決まったわけじゃない。

 「テュケるる~!」

 きっちり五回で、タマはジャンプするのを止めた。
 ムフっと得意げな笑いを浮かべつつ、タマがその大きくなった体を見えない壁に擦り付けてくる。
 撫でて撫でて~、と言ったところか。

 「お、勝負着いたね」

 ジーンさんの、そんな弾んだ声が隣から聞こえてきた。
 そこまで来て、あたしは気づいてしまった。
 事実は創作物よりも奇なりって、こういうことを言うんだろうな。
 途中からパニックになってた、あたしも悪いけど。
 気づけば、好奇な目もそうだが、なにか異端で異質な、そう、まるで嫌われ者の魔女でも見るような、そんな迫害の色を宿した教室中の視線があたしに突き刺さっていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

処理中です...