毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

文字の大きさ
27 / 50

27

しおりを挟む
 午後の講義も概ね順調に終わった。
 結局、【言霊使い】のことは誰にも相談しなかった。
 まぁ、まだ初回だし。
 これから参加していって、講師の方々もそうだけれど、グレイさんみたいに色んな大人の人に話を聞いたりして情報を集めてからカミングアウトでいいだろう。
 どうせ、そんなに使う機会など無いだろうし。
 使い方よくわかってないし。
 さて、帰るか、とあたしがタマをキャリーケースに入れてそれを両手で持ち上げる。
 こっちの方が安定するな、やっぱり。
 教室を出ようとした時、今度はエリスちゃんと目が合った。
 なにやら思い詰めたよう表情であたしを見ている。
 何か言いたければ言ってくればいいのに。
 いや、それが出来れば言い方は悪いけどリリアさんみたいな人の手先になんてならないか。
 あたしは、そのまま教室を出てエレベーターへ向かった。
 ありゃ、混んでるなぁ。
 それに、なんだろう?
 空調、換気扇効いてないのかなぁ、人混みがユラユラ陽炎みたいに揺れている。
 仕方ない、階段で降りるか。
 うん、これもダイエットのためだ。
 運動しよう。運動。
 あたしは、エレベーターのとなりにある階段へ足を向けた。
 その時、明らかにこちらに向かって走ってくる足音が耳に届いた。
 あたしの脳裏に、咄嗟に妹ズの顔が思い浮かんだ。
 普通に考えればこんなところにいるわけはないのだが、そう考え直すよりもあたしの体と口は動いていた。

 「マリー!! エリーゼ!! 階段で遊ぶんじゃないの!!
 姉ちゃんはアンタらと違って、普通の人間なんだから、落ちたら大怪我だけじゃなく死んじゃうでしょ!!」

 最近、上の妹の方はこういうイタズラはしなくなったけれどエリーゼはイタズラ盛りだ。
 ひょっとしたら徒党を組んだか?! と、この時のあたしの頭は判断した。
 走ってくる足音は一つだったのに、なんでそう考えたのか自分でもちょっと謎だ。
 あたしは横に飛び退いて、ここには居ないハズの妹たちへそう叫んだ。
 と、今まであたしが居た場所へエリスちゃんが何故か腕を突き出し突っ込んできて、悲鳴を上げながら階下へ転がり落ちていった。

 「へ? ちょ、なにやってんの、エリスちゃーん!!??
 階段で遊んだら危ないでしょーーーー??!!」

 当たり前だが、場は騒然となった。
 

 しかし、救急車を呼ぶことは無かった。
 なんと他の教室の参加者――帰り支度をしていた、あの言動がおかしい治癒術師ヒーラー軍団が現れてエリスちゃんを治癒して行ったのだ。
 その際も、

 「ほほぅ、これは見事なお点前で」

 「頭割れて中身出てら、誰かー、回復術士と反魂術士いたら来てくれー!
 いい練習になるぞー」

 「あ、やります!! 初めてなんで是非やらせてください!!」

 と、普通の倫理観でいうならドン引きなハイテンション会話がなされた。
 なんだろう?
 治癒術師ヒーラー界隈は、命のやりとりが多すぎて倫理的な感覚麻痺者が多いのだろうか?

 まぁ、無事エリスちゃんは治癒され数分後には元気な姿で立っていた。
 顔は真っ青だったけど。
 あと、あたしを見てかなり怯えてたけど。
 頭が割れて中身が出てた割には普通に見えたから、うん、これは元気な姿と言っていいだろう。

 さて、読者諸君。
 ここで問屋が卸さないのは、想像できただろうか。

 その場にリリアさんが現れ、エリスちゃんと二人してあたしを名指して批判してきたのだ。
 曰く、あたしがエリスちゃんを突き落としたらしい。
 自分の目で見ていたのだそうだ。両腕であたしがエリスちゃんを突き落とす様を。
 あたしが携帯で動画を撮影していないと確信してるな。
 まぁ、してないけど。
 でも、よくやるわ。
 そんなに、あたしが気に食わないか。
 そーかそーか、そーですか。
 こういう時、感情的になってはいけない。
 あたしは、自分の頭の中が冷えていく感覚を味わった。
 その場にたまたま居合わせた野次馬達の視線があたしに向けられる。
 突き刺さる。

 よーくわかった。
 もう容赦しねーからな。

 「それ、おかしいですよね?」

 あたしは、マリーとの喧嘩でもそうだけど、昔五つ上の兄(当時十歳)を泣かせたこともある口喧嘩に持ち込むため、そう言った。
 そして、ずっと抱えていた、タマを入れたキャリーケースを掲げて、大声で矛盾点を突いた。
 両腕が塞がってるのに、それを突き出すなんて芸当出来るわけないだろ。
 アホか。
 あたしの腕は二本だけだ。
 声に、感情は入れない。
 そう、この大声はこの場にいる人達へ聞かせるための、パフォーマンスだ。
 演説に近いかもしれない。
 キャリーケースの中にいるタマは、『高い高いしてくれるの?!』と楽しそうにテュケテュケ鳴いている。
 悪いな、タマ、今回は高い高いはないんだ。
 それを無視して、あたしは淡々と説明する。
 なんなら、野次馬の一人を招いて、手品師がショーをする時のように現場検証を手伝ってもらう。
 HAHAHA。漫画、アニメ、小説問わず、推理物読み込んできたスキルがこんなところで役に立つとは。
 推理物の探偵役主人公って高確率で人集めてトリックの粗を披露した後で、犯人つるし上げるからな。
 あの、推理物あるあるをパクらせてもらった。
 ついでに、リリアさんとエリスちゃんの自作自演の犯行動機も全部バラす。
 動画のことも、全部言う。
 彼女達が保身のために、これだけの大芝居を打ってミスったとバラす。
 エリスちゃんには悪いが、世の中には勧善懲悪というものがあるんだ。
 主に時代劇なんかがわかりやすいだろうか。
 嫌々ながらでも悪者に手を貸した奴は、死ぬ運命にある。
 
 イキってる?
 だからどうした。
 こちとら殺されかけたんだ。
 容赦なんて絶対しねえ。
 
 「最後に、これだけは言っておきます。
 あたし、今すんごい怒ってるんですよ。
 それこそ」

 アンタらみたいなのは、さっさと死んでしまえ。
 そう思ってる、そう言おうとした時。
 あたしの口を塞ぐ手があった。

 「はい、そこまで」

 ジーンさんだった。

 「ふがっ!」

 邪魔するな、最後まで言わせろ、イケメン!!
 もがくあたしに、ジーンさんが耳打ちする。

 「さすがに、今この場で受講者から殺人犯を出す訳にはいかないんだ」

 は?
 言うだけだ。
 あたしが手を下すわけじゃない。
 この二人とは違う。
 そこまで考えて、ハタ、と気づいた。
 今、【言霊使い】の能力使ってた?
 気づいて、肝が冷えた。
 それと同時に、そう思うならもっと早く止めに出てこい、とも思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...