聖獣キアルラ、本日も主が規格外です

kei

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猫(聖獣)、撫でられて真実を知る

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最初は、違和感だった。

アリーが私を撫でると、
――痛みが、薄れる。

いや、正確には違う。

(痛みが“消える”んじゃない)

魔力の流れが、本来あるべき位置に戻されている。

(……待て)

それは治癒魔法ではない。
回復でも、強化でもない。

(これは――)

私は、聖獣だ。
長命で、魔力の流れは複雑で、人間の魔法では干渉できない。

例外は、ただ一つ。

(……魔力調律)

しかも、完全な形での調律。
この時代で、それが扱える人間は――

(魔塔主ほどの魔力がある者、だけだ)

私は、背筋が凍る感覚を覚えた。



その日、私はわざと、少しだけ魔力の流れを乱した。

露骨すぎない程度に。
怪我の後遺症を装って。

(これで、“普通の撫で”なら、何も起きない)

アリーは、いつも通り、何も言わずに私の側に座った。

小さな手が、背に触れる。

――ゆっくり。
一定のリズム。
撫でる、というより――

(……なぞってる)

背骨に沿って。
脇腹の古傷を避けて。
魔力の節目を、正確に。

(……確定だ)

私の魔力が、何の抵抗もなく、整えられていく。

意識してやっている様子はない。
詠唱もない。
集中の気配すらない。

(無意識、だと……?)

私は、思わず息を呑んだ。
アリーは、何も変わらない。

ただ、少しだけ――
安堵したように、目を伏せた。

(……この人間)

自分が何をしているのか、理解していない。
理解していないのに、“正解”だけをなぞっている。

(……化け物か)

いや、違う。

(違うな)

これは――
壊されて、削られて、それでも残った“本質”だ。



その時。

「――そこまで」

低い声。

私は、はっとして顔を上げた。

乳母の夫――元騎士団長が、部屋の入口に立っていた。

剣は帯びていない。
だが、完全に警戒態勢。

アリーは、撫でる手を止めた。

「……?」

乳母も、すでに室内にいる。
いつの間に。

(……挟まれた)

騎士団長は、私ではなく、アリーを見て、静かに言った。

「お嬢様。今日は、ここまでにしましょう」

アリーは、一瞬だけ戸惑い、それから、こくりと頷いた。

「……うん」

その瞬間。

空気が、変わった。

乳母が、窓を閉める。
騎士団長が、扉を閉める。

(……ああ)

これは、隠す側の動きだ。

乳母は、私を見た。

いつもの柔らかな笑みではない。
だが、敵意もない。

「……このことは、誰にも話しません」

断言。

「屋敷の者には、すでに“徹底”しています」

騎士団長が、低く続ける。

「見たこと。
感じたこと。
――忘れるように、と」

(……黙認、じゃない。管理、してる)

私は、ゆっくりと尻尾を揺らした。

(……なるほど)

この屋敷。

危うい令嬢がいて、それを全力で守る大人がいて、
そして――

(“魔塔主級の才能”を、静かに囲って、隠している)

アリーは、何が起きているのか分からないまま、私を見て、首をかしげる。

「……きもち、よくなかった?」

(……違う)

(致命的に、逆だ)

私は、ゆっくりと、彼女の手に額を擦りつけた。

(……もういい。観念した)

乳母と騎士団長が、その様子を見て、目を細める。

「……この仔」

乳母が、静かに言った。

「本当に、お嬢様の“側”に来るべくして来ましたね」

(逃げ場、完全封鎖)

胃が、
とても、 
とても痛い。

(……恩返し
 終わる気が、しない)

だが――

アリーの撫でる手が、もう一度、そっと、私の背に触れた。

今度は、調律は起きない。
ただの、撫でる手。

(……それでも)

私は、目を閉じた。

(……まあ)

(主が無自覚最強なら、胃痛くらいで済むなら……)

その日。

私は、“守る対象”を間違えたことを、完全に理解した。

――守られるべきは。
世界の方だ。
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