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本編

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「おう、わかった。もう、こっちに着いたんじゃな?ああ、三十分後にな」

室内はコーヒーで良い匂いが漂っている。
窓を眺めていたハンセンは耳に当てていた左手を離して両腕を腰で組んだ、そして後ろを振り返ってユージンの顔をしばらく眺める。

「じーさん、なんで俺呼び出されたの...もう、お説教はくらっただろ?認知症で忘れちまったか?」
「阿呆、違うわい。実はの、先日わしらギルドマスターに招集がかけられたんじゃ、シェールスギルド以外な。招集をかけたのはこのグリモアで指折りの貴族なんじゃが、どうやら依頼らしくての。なんでもここ最近名高い貴族達を中心に何者かが暗殺を行っていてな。」
「そんなもん俺達冒険者には関係ないだろう。この国にも警備団ぐらいあるだろ、そいつらに守ってもらえよ。」
「本来ならそうなんだが、どうやら暗殺を行っているのは冒険者らしくてな。まあ、大体そんなことするのはシェールスギルドの連中とわかるんだが。その貴族の言い分を聞いたらゴールド冒険者が対抗戦後に三人抜けたことをつついてきてのぅ」

三人というのはトト、ベンジャミン、クロウドの事だろう、彼らはもともとガリアの国から監視役としてグリモアに送られてきたのでガリアとの平和条約が結ばれてからはガリアに戻っていた。

「つまり、抜けた三人がギルドという縛りを逃れて好き勝手やってるんじゃないのかって言っているわけか。」
「そういう事じゃ、おっとそろそろ時間じゃ。他のゴールド冒険者には言ってあるからのぅ、あと少しで奴らもここにくるぞ。」
「あ?ゴールド冒険者の話し合いなら俺は邪魔だな、ここいらでおいとまさせて貰うかな。」
「なに言っとるんじゃ。おぬしも参加するにきまっとろう?」
「は?じいさん、おれカッパーの冒険者だぜ?」
「は?おぬしは既にゴールドじゃろうが。

「へ?」

「聞いとらんのか?」
「初耳だわ!!」
「おう、それはすまんかったのぅ。こちらの手違いじゃ。」

「え?!俺ゴールド冒険者になったの?!」

「当たり前じゃろ、ゴールド一位のガディ・ホーフェンを倒したんじゃから。」
「...マジか」
「マジじゃ、ちなみにランキングも一位じゃ。」

「対抗戦なんか出んるんじゃなかった...」

三十分程たった頃にマリアとカーリーが部屋に入り、そしてセリカ、ガディと入ってきた。

「時間ぴったりじゃな感心感心。」
「つーか、爺さん。こいつらここのギルドじゃないだろ?」
「なにを言っとる、こやつらは全員対抗戦後にここのギルドに入ってきたんじゃ。」

「は?」

ゆっくりと首を回して強者たちへ視線を向けた。

「よろしくな!兄ちゃん!」
「な、仲良くしてやっても良いわよ!」
「よろしくッス!」

こちらの視線に気付いて各々手をあげて応えてくる。

「なんで...」

「いや、だって兄ちゃんがいるとこに入ればいつでも戦えるだろ?」
「わ、私はここに友達がいて...スカウトされたから...別にここに特別気になる人がいるとかじゃなくてね!その...」
「自分もマリア先輩にスカウトされまして、お世話になるッス」

「なるッスじゃねーよ、爺さん俺このギルド抜けるわ。そうだな憤怒とか暴食のギルドに入ろ、ゴールドになったことだし、どこでも入れてくれるだろ...」

「いや、ちょっと待たんか!」
「そうだぜ兄ちゃん、いや...相棒!」
「お前と特命係に入った覚えはねぇ!失せろ!」

「ちょっとせっかくあんたのため...じゃなくて同じギルドに入ったんだからその...仲良くしましょう...じゃなくて!だから!」
「めんどくさい!」

「あ、嫉妬《インウィディア》のギルドとかオススメッスよ、あそこのご飯美味しいんスよ!」
「ギルドマスター、私も抜けるわ。そしてダーリンと同じギルドに入るわ。」
「ええ?!先輩やめちゃうッスか?!じゃあ自分も着いてくッス!」

「勘弁してくれ!」

「まあ、辞める辞めないの話はさて置き、話をはじめていいかの?」

全員が長テーブルへ着き、ユージンも渋々空いた席へ着いたところでハンセンが話し始める。

「それでは、皆既に耳にしていると思うが今回の仕事は色々と厄介じゃ。そこで今回の任務にはゴールド冒険者のみで行うことになる。」
「具体的にはどんな?シェールスギルドの連中の尻尾をつかむ?」
「いや、今回は依頼のあった貴族の提案で護衛の任につく。」
「おいおい、護衛つってもよぉ、貴族なんか両手で数え切れないほどいるぜ?」
「それだけだったらまだ策はあるわ。でも、このグリモアの中だけじゃなくローマの至るところで暗殺が起きたら流石に手に負えないわよ。」

「その通り、だがひとつ手がある。」

「どういうことッスか?」
「実は今まで被害にあった人物の共通点が見つかった。」
「共通点...」
「被害にあった者達は全員このギルド協会をあまり良しとしていない者達だった。」
「ギルドに怨みを持ってるとか?」
「それもあるが最近過激に活動を進め始めたシェールスギルドが原因というのが一番じゃろう。シェールスギルドはここ最近でかなり人数が増え、様々な商業関係者達にも足を伸ばしているとの事じゃ。貴族からすれば自分達のパイプを自分達が知らない間に勝手に悪用されて何か不祥事が起きれば全ての責任は自分達に返ってしまうというのが困るのじゃろう。そんな害獣のような無法者共をいつまでも放ってはおかないじゃろう。」
「つまり、俺達は貴族とシェールスギルドの奴らの争いごとに巻き込まれた訳だ。」

「それで?解決策は?」

ハンセンは下に落としていた視線をあげてユージンの方をみてにやっと笑うと先程より軽やかな声で言った。

「お前達の誰かがおとりとして貴族になるんじゃ。」
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