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 黒がいい、と言い張る哲哉をなだめ、池崎はネイビーのサマーニットを用意した。
「こちらの方が、お顔映りがいいですから」
「そういうものか」
 趣味の範疇を越えた美術を嗜んでいるのに、ファッションには疎い哲哉だ。
 しぶしぶネイビーを身に着けたが、池崎の真意を、用意のできた玲衣を見て知った。
 彼もまた、ネイビーのシャツを身に着けていたのだ。
(これではまるで……!)
(哲哉さまと、ペアルック!?)
 シャツの形は違うが、色で二人は結ばれている。
「では、行ってらっしゃい!」
 池崎だけが、満面の笑みだった。

 無言で車を運転する哲哉を、玲衣はちらちらと見ていた。
(哲哉さま、怒ってらっしゃらないかなぁ)
 普段から無口な哲哉だが、玲衣は心が冷える思いだった。
 そんな哲哉が、前を向いて運転しながら彼に言った。
「玲衣は、その。嫌ではないか? 服装が」
「え?」
「私と揃いのカラーで、恥ずかしくはないか?」
「いいえ! むしろ……」
「むしろ?」
「う、嬉しい、です」
 そうか、と信号で停まった哲哉は、内心ほっとしていた。

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