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しおりを挟む雨音に混じって、かすかに聞こえてくるのは、蛙の鳴き声。
東屋の屋根から流れる、水音。
差している傘に落ちる、雨粒の音。
それだけではない。
注意深く五感を研ぎ澄ますと、様々な匂いも感じられた。
水の匂い、緑の匂い、土の匂い……。
響也は自然と、笑顔になっていた。
「なるほど。麻衣の言いたいことは、解ったよ」
「ね。雨の日って、結構素敵でしょう?」
二人は東屋の下に腰掛け、傘を畳んだ。
「君と一緒にいると、毎日が楽しいな」
「僕も、響也さんといると、楽しいです」
絶え間なく雨の落ちる曇り空も、何だか明るく思えてくる。
麻衣と共にいると。
「ああ! 何だかワクワクしてきたよ!」
もう、じっとしておられずに、響也は東屋の下から駆け出した。
雨の中、陽気に古い曲を歌いながら、軽快にステップを踏む。
「あっ。僕、こんなシーン観たことがあります!」
「知っているのか、麻衣」
響也が口ずさんだのは、もうずいぶんと昔のミュージカルで歌われた曲だ。
有名ではあるが、若い麻衣が知っているのは、意外だった。
最後の締めくくりに、若木に手を掛け、響也は天を仰いだ。
雨粒が、どんどん顔に落ちて来る。
それでも構わず、この喜びを歌い上げた。
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