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しおりを挟む「あ……!」
「じゃあ、ね。さよなら!」
駆けだした志乃は、どんどん小さくなってゆく。
見送ることしかできない章の頬は、じんじんと痺れていた。
チョウのように軽やかな。
だが、抜けない逆棘を持つミツバチの針のような、志乃のキス。
頬の熱さは、全身に広がり染みわたった。
「志乃くん」
言葉にすると、彼の名は甘く響く。
そして、胸を掻きむしる。
「近いうちに。うん。近いうちに、きっと」
また彼を指名しよう。
そう心に決めて、章は車を停めている駐車場へ、ふらふらと歩いた。
大人しく待っていた愛車に乗り込み、シートに体を預け、深く息を吐く。
「そういえば。デートは、延長もできるんだった!」
何という、迂闊!
離れてこんなに辛いなら、延長を申し出れば良かったんだ!
「でも……」
延長の条件は、スタッフの同意が必要だ。
自分がその気でも、麻衣は嫌かもしれない。
「何か、疲れてる風だったしな」
章は、水族館のクラゲドームで、うたた寝していた彼を思い出した。
「また、今度。今度があれば、いい感じだったら、延長をお願いしよう」
そう気持ちを切り替えると、エンジンをかけた。
これで、章の初デートは、終了した。
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