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 ホテル・アスカのロビーで、一杯2000円のコーヒーを飲みながら、章と志乃は待った。
 こういった、一流ホテルのロビーは、表の人間と裏の人間が交差する社交場だ。
 財界人に、政治家。
 銀行証券に、不動産屋。
 うさんくさい連中の顔が、そこここに見られる。
 そして、最も油断ならない人間が、二人の元へとやって来た。
 小茂田だ。
 遅れたことを謝りもせず、彼はソファの傍らに立った。
 すぐに座らない彼を不思議に思っていると、その後から悠然と現れた男が傍に近づいた。
「遅くなって、すまない」
 その身から放たれる、圧倒的なオーラに、章と志乃は思わず立ち上がっていた。
 誰だ、この人は。
 事務所では、見なかった顔だ。
 警戒する章に、男は名乗った。
「加瀬、と言います。よろしく」
 そして、自然な所作でソファに掛けると、続いて小茂田もようやく座った。
 一連の流れから、章は悟った。
(志乃くんの事務所社長が、遠慮する。ということは……)
 加瀬は、小茂田より地位が上の人間だ。
 それは、つまり。
(本当に、裏の極道が表に出てきた、ということか)
 加瀬が差し出した名刺には、何の変哲もない企業名が書いてある。
 彼は、そこの専務だ。
 しかし、本性までは名刺に記されてはいない。
 章は緊張して、敵の出方を待った。
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