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しおりを挟む「一月往ぬる二月逃げる三月去る、とはよく言ったものだなぁ」
「章さん。三月は、まだ去ってないよ」
数日前から入院し、手術に備えていた志乃は、章とそんな軽口を叩いていた。
静かに口をつぐんでいると、恐怖が足元から這い上がってくるのだ。
全身麻酔で行われる、手術。
(もし。そのまま目を覚まさなかったら、どうしよう)
そう考えるたびに、志乃は章に話しかけ、その手を握っていた。
しかし、いよいよ看護師が現れた。
手術室に、向かうのだ。
志乃は、お守りのように指にずっと着けていたエンゲージリングを、外した。
「はい。章さんに、預けるね」
「戻って来た時は、マリッジリングを用意しておくよ」
看護師が少し目を離した隙に、二人は短いキスをした。
短いが、永遠の誓いのキスだ。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
一度だけ振り返り、手を振った後、志乃はドアの向こうへ消えた。
「志乃くん。どうか、無事で」
残された章は、ただ一心に神に祈り始めた。
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