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しおりを挟む朋の淹れたコーヒーを美味しく飲み終えた正吾は、バッグから通帳を取り出した。
「これを、朋に」
「今月分は、僕の口座にちゃんと振り込まれてましたよ」
「別口だ。受け取ってくれ」
朋がその通帳を開くと、数えきれないほど0の並んだ数字が記入してあった。
「こ、こんな。僕、これは受け取れません」
通帳を差し返す朋の手を、正吾は優しく握った。
「実は、またガンのやつが再発してなぁ」
「えっ」
正吾はこれまでに、二度ガンを克服したことがある。
ただ、今回は勝手が違っていた。
「もう、体中いろんなところに転移しててな。脳まで、やられちまった」
「そんな」
今度ばかりは、年貢の納め時だ。
そう言って、正吾は笑った。
「朋に残してあげられるのは、これくらいなんだ。受け取ってくれ」
「正吾さん」
「大学で学んでもいいし、これを元手に事業を始めてもいい」
私の気持ちだ、と言う正吾の笑顔は、清々しい。
とてもガンを患っているようには、見えなかった。
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