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1話 正吾と朋

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 朋がお茶の支度を終えた頃、正吾はやって来た。
 背が高く、肩幅が広い。
 短く刈った黒い髪に、白いものが混じり始めた、壮年のアルファ男性だ。
 彫りの深い精悍な顔立ちだが、朋を見る目は穏やかで優しかった。

「朋。元気か?」
「はい」
 正吾は必ず、まずは元気か、と訊ねる。
 朋はそんな彼の第一声が、好きだった。
「コーヒー、淹れますね」
「うん。……おや? カメがいるな」
 朋が考えていた通り、正吾はカメのぬいぐるみをさとく見つけた。
 隠しておこうかとも思ったが、悪いことをしたわけでもないので、飾ったのだ。

「水族館に、行きました」
「そうか。水族館か」
 ソファに深く腰掛け、正吾はかいがいしく動く朋に声を掛けた。
「私も、お前をそういったところに、連れて行ってあげるべきなのかな」
「好きになさってください」
「うん」
 決して甘えてこない朋を、正吾は可愛く思っていた。
 他にも愛人はいるが、誰もがべたべたとしなだれかかり、気に入られようと振舞ってくる。
 朋は唯一、そんなところのない、稀有な子だった。

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