もう戻れない恋を愛というんだ ～無口極道アルファと家出少年オメガの恋は、どんどん加速してゆく～

1話 恋人になってやってもいいよ？

　その日は雨だったが、歓楽街は相変わらずの賑わいだった。
　そんな中、傘もささずに慎也はコートの襟を立てて、街を歩いていた。
　あてもなく、ふらふらと。
　そこらの店に入れば、すぐにVIP扱いしてもらえる権力と財力を持っていたが、彼はそうしなかった。
　彼らが好きなものは、慎也の背景。
　自分自身が好かれているわけではないと、慎也は承知していた。
「冷えてきたな。もう、引き上げるか」
　誰にも聞こえない独り言をつぶやいた、その時だ。
　不意に背後から、パシャパシャと水たまりを踏む、駆け足の音が聞こえて来た。
「お兄さん、僕と遊ばない？」
　そして強引に、腕を絡ませてきた少年。
　慎也はそのシチュエーションに、既視感を覚えた。
「……お前は」
「へへ。やっと会えた！」
　悠は、最高の笑顔を彼に向けた。
　だが慎也は、相変わらずの無表情だ。
　それでも心の内では、ちゃんと悠のことを覚えていた。
（一週間ほど前の、野良猫じゃないか）
「もう、ここで商売をするなと言っただろう」
「してないよ。今が初めて」
　返事もせずに、慎也は歩き始めた。
　悠も、腕をほどかないまま歩く。
　雨は冷たかったが、悠の心は温かかった。
　会いたくて会いたくて、仕方が無かった人と、ようやく会えたのだ。
　にこにこと笑顔で、慎也の広い歩幅に、必死でついて行った。