もう戻れない恋を愛というんだ ~無口極道アルファと家出少年オメガの恋は、どんどん加速してゆく~

大波小波

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 かすかに、触れ合った唇。
 時が止まったようだった。
 固まって動けない慎也の唇を、果物と一緒に悠は食べた。
 甘い甘い、その唇。
 逃げられないよう、果肉は慎也の口の中へ、押し入れられた。
 それと同時に、悠の舌も。
 キス。
 これが、キスか。
 慎也が果肉を飲み込むと、悠の舌もまた去って行った。
「えへへ。やっちゃった」
「お前は……」
「あれ? 慎也さん、照れてるの?」
「そういうわけでは、ない」
 そういうわけではないが……。
(キス、というのも、悪くない)
 何より、その相手が悠だということが、いい。
(何だろう。この感情は)
 極道の家に生まれ、これまで生きてきた。
 少年時代は、その家庭環境のせいでずっと孤独だった。
 すり寄ってくる不良はいたが、誰も傍には置かなかった。
 恋なんて。
 愛なんて。
 知ることもなく、知りたくもなかったはずなのに。
 気づくと、悠が心配そうにこちらを見ている。
「ごめん。傷ついた?」
「いや」
 きっと恋愛に関しては、この少年の方が一枚も二枚も上手(うわて)なのだ。
 慎也は、指でそっと唇に触れた。
 少し、痺れている心地がした。

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