フラン

大波小波

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 士郎はカフェの駐車場に止めてあったプジョーに秀実を乗せ、自宅マンションへ向かった。
 マンションは秀実の想像通り高価そうな物件で、スリッパさえも恐々履いた。
「父の残したものなんだ。税金がバカにならないから、もう売ろうかと思ってるんだけど」
 真田がうるさいから、大人しく住んでるのさ、と士郎は苦笑いした。
 秀実が何も言えないでいると、士郎はバスタオルを放って寄こした。
「まず秀実くんは、バスを使ってくれ。何があったか知らないが、しばらくお風呂に入ってないだろう?」
「すみません」
 そう。
 この二週間ほど、僕は住む家さえ失っていたんだ。
 脱衣所には、姿見と体重計が置いてあった。
 鏡に、裸の自分を映してみる。
 痩せて、あばら骨まで浮いている。
 体重計に乗る気は、しなかった。
 打たれたらすぐにダウンするボクサーみたいな、そんな目盛りを指すに決まってる。
 冷たいタイルに足を乗せ、熱いシャワーを浴びた。
「ああ……、生き返る……」
 髪を洗い、体を洗い、大きな楕円形のバスタブに身を沈めた。
 気持ちいい。
 心地いい。
 ああ、このまま……。
「秀実くん! バスタブで寝ちゃダメだよ!」
 士郎の大声で、秀実は我に返った。
「部屋着、置いておくからね」
 そう言い残し、士郎は脱衣所から出て行った。

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