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 今夜は好きなだけ飲め、と石川は上機嫌だ。
 だが、丈士の胸は今一つ晴れなかった。
 以前なら、喜んでいるはずだ。
 普通に就職して、普通に働いて、普通にサラリーを貰って。
 そんな人生はまっぴらだ、と選んだ道のはずだった。

 どうせ生きるなら、大きく生きたかった。
 莫大な資産を得て、思うがままに生きたかった。
 それが、近ごろ揺らいでいる。
(七瀬のせいだ)
 彼に、自分のやっていることを、ハッキリ『悪』だと宣言されてから、前に進む足が鈍っている。

 丈士は、差し出された酒を一気に干した。
(人間誰だって、多かれ少なかれ悪事を働いてるんだ)
 そう思うことで、自分の気持ちに蓋をした。
 酒を飲むことで、紛らわせた。

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