フェイク・ハニー ～御曹司の擬似恋人になったのは、お金のため！ だのに僕、本気になってる……！？～

5

「兄ちゃん、お帰り！」
「ただいま。あぁ、疲れた」
　中学1年の弟に返事をし、都はそのままキッチンへ入った。
　そこにはすでに、中学2年生の弟が立っている。

「あれ？　部活は？」
「辞めようかな、なんて思って」
　何でだよ、と都は弟のジャガイモをひったくった。
「コーチに褒められた、って喜んでたじゃん！」
「うん……。でも俺、いっつも兄ちゃんに頼ってばかりだし」

　目の前の兄が、体まで売っている、とは知らないはずだ。
　しかし、都は焦った。
　焦ったし、悲しくなった。

「何のために、兄ちゃん頑張ってるんだよ。せめて、兄ちゃんの分まで部活やりなよ！」
「兄ちゃん」
「ああもう！　ジャガイモの皮も満足に剥けないで、生意気言うな！」
「兄ちゃん。……お爺ちゃんとお婆ちゃんのところに。田舎に、引っ越さない？」

　その話か、と都はジャガイモを置いた。
　弟たちは、他県の祖父母にとても懐いている。
　しかし、都は複雑な気持ちだ。

（確かに、もう母さんを当てにしないで田舎に来なさい、って言ってくれてるけど）

　なにせ、自分らを放っている母方の祖父母だ。
　彼らもまた、いつ都たち兄弟を放り出さないとも限らない。

「もう少し。もう少しだけ、待とう。母さん、明日にでも帰って来るかもしれないし」
「兄ちゃん……」
　それきり何も言わず、弟はキッチンから出ていった。
「玉ねぎ、目に染みるなぁ」
　都は涙をこらえながら、玉ねぎをざくざく切っていった。