フェイク・ハニー ～御曹司の擬似恋人になったのは、お金のため！ だのに僕、本気になってる……！？～

5

　雄翔の優しい笑顔が、心に浮かぶ。
　それは、ふんわりと温かなはずなのに、都の胸をきりきりと締め付けた。

「ダメなのに。僕なんかが、雄翔のこと好きになったりしたら、ダメなのに！」
　家柄が違う、家庭環境が違う、経済力が違う、そして何より。

「オメガの僕が、アルファの雄翔を好きになったりしたら、迷惑だよね……」

　雄翔だって、何でも屋の疑似恋人だから、僕と付き合ってるだけなんだから。
　僕で練習して、ホントの恋人ができた時に、上手にエスコートすることが目的なんだから。

　泣けてくる。
　涙が、止まらない。
　でも。

「明日、ハッキリ言おう。もう、これ以上雄翔の傍にはいられない、って」
　それが、雄翔のためだと思った。
　潔く身を引こう、と都は決意した。
　その夜は、涙で枕を濡らしながら眠った。

　雄翔は屋敷の自室で、浮かない顔をしていた。
「今日、せっかく都と結ばれたのに……」
　童貞だった俺に、その体を捧げてくれたのに。
　夕食の席で、父に言われたのだ。

『雄翔。もうすぐ社会人になるのだから、将来のことも考えないといけないぞ』
『俺は、まだ大学生だよ？　それに、もうすぐ留学することになってるし』
『美知瑠（みちる）さんと、近いうちに席を設けよう。そろそろ、正式に結婚もしなくてはな』
『そんな！　第一、会ったことも無い人だよ！？』

　この春に渡された、一枚の写真。
　そこに写る人物が、自分の婚約者だと初めて知らされた。
「あの時は、特に何とも感じなかったけど」
　家同士の利益になる、結婚。
　神谷家の役に立てるのならば、受け入れるつもりだったのに。
「もう、ダメだ。それは、できない。都。都が。俺は、都のことが……」
　雄翔はその夜、なかなか寝付けなかった。