クール系元ヤンお姉さんがお試しで異世界転生して救世主になり、美少年王子に愛される話

Yapa

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第1話クール系元ヤンお姉さんと天使

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「と、いうわけであなたは死んだのです!救世主として異世界転生するのです!」



 天使が勢い込んでそういった。



 どう見ても天使だった。フワフワのパーマがかった金髪、背中に生えた純白の羽、白いワンピース。宙にフヨフヨ浮いているし、おまけに天使の輪っかが頭のうえに付いている。



 うん、これは天使だ。



 赤坂流理はそう思った。



 しかし、思っただけだった。



 沈黙。



「それよりさ」



 流理はジャケットの内ポケットをガサゴソとまさぐる。



「な、なんでしょう?」



「タバコ吸っていい?」



 流理はすでにタバコを取り出し、口にくわえていた。口元にはわずかな微笑を浮かべている。



「ど、どうぞ」



「火、ある?」



「あ、はい」



 天使はひとさし指をピンとたてて、その先から小さな火を浮かべてみせた。



「ワオ」



 流理は小さく驚いてみせてから、口にくわえたタバコを火に寄せていく。長い髪をかきあげて。



 幼気な天使がスカジャンを着た元ヤンお姉さんに火をあげているのは、不思議と一幅の絵画のようでもあった。



「ありがと」



 さっきよりも深く微笑まれて、天使はうれしくなった。羽をパタパタさせる。



「えへへ、どういたしまして」



 ぷはー



 流理はゆっくりと、無心にタバコを味わっているようだった。



「あの~」



 天使が遠慮がちに声をかける。



「で、どうですか?」



「ん?ああ、悪いけどよしとくよ」



 流理はあっさりと答えた。



「ええっ、どうしてですか!?」



「救世主なんてガラじゃないしね」



「イヤイヤ!その落ち着き!ほかの人たちとくらべても適性バッチリですよ!」



「ほかにもいるんだろ?そんなに救世主とやらがいたら、逆に困るんじゃないかい?船頭多くしてナントカっていうだろ」



「いや、だれもが救世主になれるわけでもないんで……」



「ん?おかしな話だね。まさか知らない世界に放り込んで競わせようなんて腹なのかい?」



「まさか!そういうことじゃないんですけど……なんか、思ったよりもみんな私利私欲で動いちゃいまして……」



「ふ~ん」



 流理は一口タバコを吸った。



「弟がよくそういうアニメ観てたんだけど、アレだろ?異世界転生ってやつをすると、変な力与えられたりするものなんだろ?」



「はい」



「そうなると、人間だからね。変な力を与えられたら、使いたくなるものさ」



「はい……」



 天使はショボクレている。



 ぷはー



「……異世界に行かなかったら、私はどうなるんだい?」



「えっと、天国とか地獄とか行ったりします」



「ふ~ん、どうして異世界に行かなきゃ地獄行きだぞ~!って脅さなかったんだい?」



「え?」



「怖がって、だれもが異世界に行くのを選ぶだろ?」



「え~!しないですよ、そんなの!」



「どうして?」



「だって、ズルいじゃないですか!」



「ふふっ」



「えー、なんかおかしなこと言いました~?」



「別に。笑ってゴメンよ」



 流理は天使の頭をポンポンとなでた。綿菓子のようだと思った。



「救世主ってのは、具体的になにをするんだい?」



「行く気になってくれたんですか!?」



「話を聞くだけさ」



「いいです、いいです!それで充分です!えっとですね、救世主というのはその世界の安定者ということです」



「どういうことだい?」



「ハイ!具体的にいうと、その世界の魔素を吸って、一日一回祈ってもらいます!」



「なんだい、そりゃ。ずいぶん体に悪そうだね」



「あっ!そこは大丈夫なように体を作り変えるんで大丈夫ッス!」



「とんでもないことサラリというね、この子は」



「え?」



「体を作り変えられるなんて、ふつうイヤだよ」



「あっ!でも、見た目は変わらないですよ?自動で勝手に吸うし、それどころかいろいろ便利ですごい能力つけちゃいますし!」



「なんだか通販みたいになってきたね……」



 流理は、どうやら救世主というのは空気清浄機のようなものらしいと理解した。



「意外だね」



「なにがですか?」



「救世主なんていうから、てっきりどっかの戦争止めてこいみたいな話かと思ったよ」



「ああ、べつに人間専用の救世主ってわけじゃないですから」



「そうかい」



「まあ、なかにはそうなろうとする人もいるんですけど」



 天使はボソッとつぶやいた。



「ふむ。そうなると、べつに山のなかでひとり暮らしててもいいわけだ」



「はい」



「一日一回、祈る以外の仕事は?」



「ないです!それ以外はどこでなにしてようが自由です!」



「ふーん、衣食住は?」



「完備します!それどころかあらゆるものをご用意します!」



「とんでもない好条件だね……なんか裏ない?」



「ないです!」



「ほんとに~?」



「ほんとですよ~!」



「う~ん、そうだ。そもそも異世界っていうのはどんなトコなんだい?」



「流理さんの暮らしてた世界とあまり変わらないですよ。あっ、でも、文明度っていうのかな?それは中世くらいですかね?」



「かね?ってそこ重要なトコじゃないか」



「う~ん、人間の尺度ムズかしくて……」



「そもそも、人はいるんだよね?」



「ああ、似たようなのいっぱいいますよ」



「なんだい、似たようなのって……」



「あっ!そうだ!」天使は小さな両手をパチンとたたいた。「ちがいとしては、魔法が使えますよ!」



「へ~」



「さっき言ってた魔素っていうのを利用して使うんですけど、使うとにごってきちゃっていろいろ環境に影響でちゃうんですよ~」



「二酸化炭素みたいな話だね……」



「どうでしょうか……?」



「う~ん」



「お試しでもいいんで……」



「えっ?お試しでもいいの?」



「はい!それはもう!もし気に入らなければ即辞められますし、気に入ればずっと延長可です!」



「ずっと……。ずっとってもしかして、永遠ってこと?」



「できまぁす!」



「え、いや、それは逆にご遠慮願いたいトコなんだけど……、う~ん」



「……どうですかぁ?」



 流理は短くなったタバコを吸った。タバコの火はフィルターまできていた。



「うん。わかった。じゃあ、とりあえずお試しでやってみるよ」



「やったぁ!」



 こうして流理はお試しで新聞を取るがごとく異世界転生をすることになったのだった。



「あ、最後にもう一服」



「どうぞ~」



 天使が手慣れた様子で火をつけた。ほそながいタバコの先に赤い火が灯った。



「あっ、そうだ!これ、お渡しするの忘れるところでした!」

 

 天使は流理に紅い宝石のハマった指輪を渡した。



「なんだい、コレは?」



「欲しいものを念じてください。日用品レベルのものなら、たいてい出てきます!」



「ハ~、便利だね~」



 流理はこれでタバコに困ることはないな、と思った。



「じゃ、いってらっしゃ~い!」



 天使はなんともうれしそうな笑顔で、手をフリフリ、羽をパタパタさせていた。
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