12 / 12
第12話 オーク族の王ファルコ
しおりを挟む面通しと言われるとなぜか気楽だと思い、流理は各種族の王とやらに会いに行くことにした。
「おかしくないですか?」
アベルが不満顔で流理に抗議した。
「え?」
「なんでお食事会は渋って、面通しにはちょっとウキウキしてるんですか」
「なんだろう?血が滾る?」
流理は中学時代に、友人が他校の不良に捕らえられて、それを単身助けに怪しげな倉庫へと乗り込んで行ったことを思い出した。
「……心配です。ついていきます」
流理はジッとアベルを見て、それから「ふふっ」と吹き出した。
アベルはさすがに気を悪くしたようで「足手まといにはなりませんから、どうかお気になさらず」とスネたように言った。
「おっと、ゴメンよ。バカにしたわけじゃないんだよ。ただ心配されるのが新鮮でさ」
流理はアベルの頭に手を置いて「頼りにしてるよ」と微笑んだ。
アベルは「……ハイ!」と赤面しながらも、うれしさをこらえきれない笑顔で元気よく返事したのだった。
「う~む、アベルきゅんは普段は猫ちゃんのようなクールさがあるのに、ルリの前だと子犬のようにコロコロ表情が変わるのぅ……ゲヘヘ、アリじゃな」
アカーシャはヨダレをふいて、一行は出発したのだった。
「いやー、まさか空飛ぶとは思わなかったね」
流理は一服しながら言った。目の前には大きな洞窟があり、そこにこれから入っていくらしい。しかし、なにはともあれ一服が必要だった。
紫煙が空に吸い込まれていくのを目で追って、この空をアカーシャに担がれてひとっ飛びして来たんだなあと思うとなんだか感慨深かった。異世界にいるなあ、と今さらのようにしみじみと思ったものだ。
「ね、アベルくん」
流理はタバコを携帯灰皿に押し付けて、アベルに同意を求めた。
「え、ええええ、おも、おもわなかった、です、ね……!」
アベルは震えていた。無理もない。空を飛んでいる最中、ジェットコースターよりもすごいGが常にかかっていた。
「だいじょうぶかい?」
「だ、だいじょうぶ、です……!ただ、アカーシャちゃんの肩も手も小さいなあって……」
「ああ、うん、そうだよね」
Gよりも怖かったのは、座席部分の不安定さだ。竜の王らしい人外の力強さでガッチリつかんでくれているのだが、アカーシャはいかんせん小さい。もみじのような小さな手がふたりの太ももをホールドするのだが、片方の足にしか届いていなかった。
「いやー、でも肩車なんてされたの久しぶりだったよ。ついでに言えば、ダブル肩車なんて初めてのことさ」
アカーシャは小さい体でふたりを両肩に担ぎ、空を飛んだのだった。
「アカーシャちゃん、ありがとう。疲れてないかい?」
「余裕なのじゃ!帰りも任せるのじゃ!」
アカーシャは意気揚々と請け負ってくれたのだった。
「うう、もう勘弁して……」というか細い声がアベルから漏れたが、気づいていないようだった。
「おやおや、人間臭いと思ったら、案の定ですか」
いきなり背後から巨大な影がヌッと現れた。
振り向くと、スタイリッシュな黒い衣装とサングラスで身を固めた集団がおり、その先頭にいるのは一際大きな二足歩行の豚だった。
「オーク族の王、ファルコじゃ」
アカーシャが教えてくれる。
「へえ、人間臭いとは初対面からご挨拶じゃないかい。招待されたから来たというのに、オーク族の王とやらはずいぶん礼儀正しいんだねえ」
流理が皮肉を込めて言った。
「まったく…」ファルコはサングラスをクイッと上げると「すばらしい臭いだと言わざるを得ませんね。もっと近くであなたのフレグランスを嗅がせて頂けませんか?」と鼻息も荒く宣った。
サングラスからのぞく目はマジだった。うしろに居並ぶ家来たちも同じく鼻息を荒くし、ウンウンと頷いていた。
流理とアベルが一斉にアカーシャを見た。
「オークたちは臭いフェチなんじゃ」
アカーシャは何でも無いことのように朗らかに答えた。
「竜の王アカーシャよ。あなたもお人が悪い。このように芳しい方々ならば事前に言ってもらわねば……!まったく、鼻も眩むばかりですぞ。そちらの少年は得も言われぬノーブルな香り、そしてそちらのお嬢さんは異国情緒たっぷりなスパイシーな香り」
「ノーブル…」
「スパイシー…」
アベルと流理は思わず自分の服を嗅いだ。
「まるで究極と至高のマリアージュ……。おっと、失礼。あまりの芳醇さについつい不躾になってしまいました。あなたが盟約を守りしものですね、お嬢さん」
「ん?どうやらそのようだね。よくは知らないんだけどね」
「ハハハッ!よくは知らぬうちに均衡を守ってくれたというわけですか。なかなか豪気な方だ。改めまして、私はファルコです。以降お見知り置きを」
「うん、よろしくね」
「して、そちらのノーブルな少年はルリさんのツガイですかな?」
「は、はいぃ!?」
アベルは驚きのあまり大きな声を出した。
「おや?ちがう?なにやらあなたさまから出ているただならぬ臭いがルリさんに向かっているもので、てっきり」
「うわー!うわー!なに言ってるんですか!」
「臭いというか、フェロモンは想いを表しますからな。あなたのフェロモンがまとわりつくようにルリさんに……」
「だー!ちがうちがう!ボクはアルドラド王国の第二王子、アベル・アルドラドです!本日は偶然ながら諸王にお目通り叶う機会と知り、ルリさんにお供した次第です!」
「おや、そうでしたか。ゼーダ王は元気ですかな?」
「父を知っているのですか?」
「ええ。王になられる時、古き盟約を結びなおすのです。もしかしたら、アベルさんにもそういう機会が訪れるかもしれませんね」
「いえ、兄がいますから。兄が伺うことになると思います」
アベルはきっぱりと言った。
「ふむ、そうですか。いろいろお有りのようだ。本日は浮世のことは忘れ、楽しんでいかれるとよいでしょう」
「楽しむ?」
アベルはどういうことかと疑問顔になった。
流理もなにやら思っていた面通しとはちがうかも、と思い始めていた。
「さ、そろそろ中に入るのじゃ!」
アカーシャが先頭に立ち、一行は巨大な洞窟のなかへと入っていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる