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第3話 回収サービス
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逃げるといっても、天井にびっしり生えているような巨大ネジレグモから逃げることなど不可能であった。
たちまち“玄武の理”メンバーは全員がつかまり、糸でグルグル巻きにされて壁に貼り付けられた。
どうやらすぐには食べず、保存食にする習性があるらしい。
幸か不幸か…。
しかも、小さいもの優先という倫理観もお持ちのようで、先ほど生まれたばかりの子グモたちに食わせようと、大人の蜘蛛たちは誘導していた。
少しずつメンバーたちの足元に子グモたちが登っていく。そのゾワゾワとした感触は人を発狂させるに十分だった。
今、《ネジレジレ宮殿》最深部は恐怖のるつぼと化していた。
「さて、そろそろ回収させてもらいますよ。ウチ、回収サービスもやってるんで」
いきなりだった。
体中を這っていたはずの子グモが全メンバーの体から跡形もなく消えたのは。
「ウチはサービスも満点なんでね」
ゲンマ・クズキリだった。
ママチャリにまたがり、大きなデリバリーバックを背負い、高い崖から一同を見下ろしていた。ニヤリと微笑みさえ浮かべている。
「危ないっ!」
貼り付けにされたままゴーゾーが叫んだ。ゲンマのうしろにキリキリと蜘蛛が降りてきていたのだ。
人間の顔の部分が醜く笑い、長い牙を剥き出しにした。
だが、次の瞬間には消えていた。
まるで手品のようであった。
残りのすべての蜘蛛、何百匹もいるそれらがすべて敵意を剥き出しにして、ゲンマ目掛けて襲いかかった。
上下左右、すべての角度から。
寸毫の逃げ場もなかった。
そんな中、ゲンマはゆっくりとした所作でデリバリーバックを開けた。
それだけだった。
「【回収】」
ゲンマが唱えると、まるでデリバリーバックに自ら飛び込んでいくかのように、蜘蛛たちは吸い込まれていった。
跡形もなかった。
“玄武の理”メンバーたちは魔力糸から解放された。気が抜けたように地面に崩折れた。
ゲンマ・クズキリは何でもないことのように頭を下げた。
「食べ残しも回収しときやしたー!またのご愛顧お待ちしてまーす!」
ゲンマはママチャリにまたがり、自転車をコギコギ去っていった。微妙にキイキイ音が鳴っていた。
「…生き残ってよかったな」
ゴーゾー・ミナモトは“玄武の理”メンバーたちに言うともなくつぶやいた。
「…そうっすね」
召喚士の若造が力なく答えた。
ゲンマは帰り道にステータスを開いて確かめた。
「よっしゃ!人助けでボーナスポイントゲットだぜ!」
成果は上々だった。
「見てろよ~!ワールドイーツ!この株式会社リアルワールドイーツが業界ナンバーワンになる日は近いぜッ!」
ゲンマは立ちこぎで《ネジレジレ宮殿》をあとにしたのだった。
たちまち“玄武の理”メンバーは全員がつかまり、糸でグルグル巻きにされて壁に貼り付けられた。
どうやらすぐには食べず、保存食にする習性があるらしい。
幸か不幸か…。
しかも、小さいもの優先という倫理観もお持ちのようで、先ほど生まれたばかりの子グモたちに食わせようと、大人の蜘蛛たちは誘導していた。
少しずつメンバーたちの足元に子グモたちが登っていく。そのゾワゾワとした感触は人を発狂させるに十分だった。
今、《ネジレジレ宮殿》最深部は恐怖のるつぼと化していた。
「さて、そろそろ回収させてもらいますよ。ウチ、回収サービスもやってるんで」
いきなりだった。
体中を這っていたはずの子グモが全メンバーの体から跡形もなく消えたのは。
「ウチはサービスも満点なんでね」
ゲンマ・クズキリだった。
ママチャリにまたがり、大きなデリバリーバックを背負い、高い崖から一同を見下ろしていた。ニヤリと微笑みさえ浮かべている。
「危ないっ!」
貼り付けにされたままゴーゾーが叫んだ。ゲンマのうしろにキリキリと蜘蛛が降りてきていたのだ。
人間の顔の部分が醜く笑い、長い牙を剥き出しにした。
だが、次の瞬間には消えていた。
まるで手品のようであった。
残りのすべての蜘蛛、何百匹もいるそれらがすべて敵意を剥き出しにして、ゲンマ目掛けて襲いかかった。
上下左右、すべての角度から。
寸毫の逃げ場もなかった。
そんな中、ゲンマはゆっくりとした所作でデリバリーバックを開けた。
それだけだった。
「【回収】」
ゲンマが唱えると、まるでデリバリーバックに自ら飛び込んでいくかのように、蜘蛛たちは吸い込まれていった。
跡形もなかった。
“玄武の理”メンバーたちは魔力糸から解放された。気が抜けたように地面に崩折れた。
ゲンマ・クズキリは何でもないことのように頭を下げた。
「食べ残しも回収しときやしたー!またのご愛顧お待ちしてまーす!」
ゲンマはママチャリにまたがり、自転車をコギコギ去っていった。微妙にキイキイ音が鳴っていた。
「…生き残ってよかったな」
ゴーゾー・ミナモトは“玄武の理”メンバーたちに言うともなくつぶやいた。
「…そうっすね」
召喚士の若造が力なく答えた。
ゲンマは帰り道にステータスを開いて確かめた。
「よっしゃ!人助けでボーナスポイントゲットだぜ!」
成果は上々だった。
「見てろよ~!ワールドイーツ!この株式会社リアルワールドイーツが業界ナンバーワンになる日は近いぜッ!」
ゲンマは立ちこぎで《ネジレジレ宮殿》をあとにしたのだった。
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