1 / 20
第1話 デイジー、10歳に死に戻る
しおりを挟む
「…あら、今回はずいぶん戻っちゃったのね。はじめてじゃないかしら?」
わたしは自分の小さな手を見つめてついついぼやいたわ。
「ねえ、わたしって今何歳かしら?」
わたしは今回の自分の年齢を知るために妹のキャロットに話しかけたの。わたしの後ろで尻もちをついて、キャロットはわたしを見上げていたわ。
わたしの背中にまたがって、お馬さんごっこを強要していたのよね。そこを急に立たれて、キャロットは転げ落ちたの。
「…はあ!?」
「あら、妹なのに、お姉さまにそんな口を利いてはダメよ。それに自分の足で歩きなさい。そんなんだから、おデブちゃんなのよ」
キャロットはわたしの妹だけど、わたしよりもずいぶんぽっちゃりしてる。わたしは鶏がらみたいにやせてる。
「なにいってんの?全然関係ないし!」
わたしはキャロットの言葉を無視して、ただ観察することにしたわ。話しても無駄そうだったから。
え~と、キャロットの見た目からすると、今のわたしは十歳くらいか。
「っつ」
急にヒザが痛んだの。
ロングスカートをたくしあげて見てみると、小さな膝からは血が流れていたわ。
「いった~!このバカ!」
わたしは思わず手を伸ばして、キャロットの頭を叩いてやったの。
「え…?」
信じられないという顔でわたしを見上げて、みるみる涙が目にたまってく。
「いやいや、泣きたいのはこっちだから。常識で考えて?」
わたしは思い出したわ。
この日は一家団欒の場で、キャロットが一時間もわたしの背中に乗って過ごしたんだった。イスやお馬さんとして。
お腹が減っても、わたしは何も食べることができなかった。夜中に膝が痛んでも、耐えて泣くことしかできなかった。
「…こいつめ!」
わたしはもう一発キャロットの頭を叩いておいたわ。当然の権利よね。
キャロットはついに大げさに泣き出しちゃった。
「ハイハイ、泣いたらいいわ」
わたしはキャロットの泣き顔になにも感じなかったわ。もう何千回も見ているもの。なんの価値も感じないわ。
ただ、キャロットが泣いたということは、このあと何が起きるか大体わかるのよね。
「おまえぇ!何してる!」
「あらあら、お兄様。鼻息が荒くてステキね」
キャロットが泣くと、兄のジェイソンが必ずといっていいほど庇いにやってくるの。
「麗しき兄妹愛ね」
わたしは自分もジェイソンの妹なんだけど、もうまるで他人事みたいな気分。
ジェイソンが肉体強化の魔法を唱えながらドスドス近づいてくるの。ジェイソンって獣っぽいの。ホントよ。ジェイソンの腕は普段の二倍、三倍にも膨れ上がって、これから暴力振るうぞ~!ってあからさまに臭いをさせるのよね。脇汗もすごいしね。嫌ね。
ただでさえガタイのいい十七歳の若者なのよ?通っている魔法学園でもランカーなんていわれていい気になってるの、だから魔法の威力も十分。ま、十位だけどね、ランク。
わたしは迫りくる脅威ってやつを前に、よそ見をしたわ。確認したいことがあったの。
ああ、やっぱりここは家のリビングよね。
父に母、執事にメイドもいるわね。
「オラァ!!!!!」
気づくとジェイソンの拳はわたしを殺す気で放たれていたわ。
なるほど。今回はここで終わるのね。太っちょの妹のバカげたお馬さんごっこに逆らったら、死の鉄槌が兄から降るというわけ。
なんて理不尽なのかしら。
わたしは必ず家族に殺された。父には炎魔法で、母には水魔法で、兄には物理攻撃で、妹には変身魔法で殺された。
とても酷い虐待を受けていたというわけ。なぜなら、名門貴族のマルグリット家において、わたしは魔法の才に乏しい欠陥品だったから。
それだけで、かれらにとっては、実の子供だろうが、姉妹だろうがまったく価値のない存在だったみたい。
いや、むしろ恥?マイナスな存在?
わたしはまるでその評価を受け容れて、いたずらに殺されては死に戻りを繰り返した。
99万回目まではね。
「ふっ」
わたしは軽い息吹を吐くと、迫りくる拳の前に細い腕を出したわ。
「あがっ!?」
ジェイソンの拳はわたしの腕をぬめりと滑るような動きをして、体ごと床に激突してしまったの。
言ってることわかる?
まあ、結果を言えば、石材の床に顔から突っ込んでしまい、ジェイソンは痛みに悶絶することになったってわけ。
「ふぐぅ!ふぅ~!」
ジェイソンは呼吸を不規則に止めたり、吐いたりして急激に襲ってくる痛みに耐えようとしていたみたい。
「ふふっ」
十歳の幼いわたしはついつい微笑んで、兄のジェイソンを見下ろしたわ。
「お兄様は苦しそうな顔が本当によく似合うわ」
10000回見ても、笑えるものは笑えるものね。
「まったく、すっかり性格悪くなっちゃって」
わたしの影の中から声がした。
ドンッ!とわたしは自分の影をふんだわ。今回はここにいるのね。
床に転がったジェイソンは悶絶してたのをやめて固まって、キャロットは固まってたのが反対にビクッとしたわ。
でも、わたしはそんな二人にはもう興味もなかった。
「うるさいわよ、クロ。出てらっしゃい」
影が一瞬球状に丸まったかと思うと、ポンッとはじけて飛んで、それはわたしの肩に乗っかってきた。
それはまるまるふとった猫っぽいもの。真っ黒な影のような黒猫で、額に青色の宝玉がついてる。
変わってるわよね。でも、一番変わってるのは、クロはしゃべるってことね。
「今回はずいぶん小さいな。ちょっと乗りづらいぞ」
「こちらからの感想を言わせてもらえば、いつもより重いし暑苦しい」
「じゃあ、いつもよりオレを感じられてラッキーだな」
「はいはい」
しかも、なかなかの減らず口。
「…気が狂ったの?」
おびえつつも、キャロットがつぶやいたわ。彼女もなかなか減らず口よね。
まあ、無理もないと思う。だって、かれらには、わたしが急に暴れだして、自分の影をふみつけて、独り言を言っているようにしか見えないだろうから。
クロはほかの人には見えないの。
そう考えるとホラーよね。
「あなたってわたしの孤独な心が生み出した幻影なのかしら?時々不安になるわ」
「不安にさせたか。罪な男ですまない」
「そうね。見ているだけで何もしてくれない。本当に罪な男よね」
「ずっとそばにいた…それだけで尊いだろう?」
「それって自分で言っていいセリフじゃなくない?」
その時ね。急に母のイザベラが頓狂な叫び声をあげたのは。
「な、ななななにをしているの!?」
あまりにいつもの日常とはかけはなれた光景だったからか、ようやく頭が動き出したみたい。
「お母さま、お酒はほどほどにしたほうがいいわ。いつもより反応遅くてよ」
「なにを言っているの!?いえ、答えなさい!あなたが、ジェイソンとキャロットになにをしているの!」
「…え~と、キャロットはお姉さまを一時間もお馬さんにして、膝をケガさせたのではたきました。二回。あと、ジェイソンお兄様は魔法で肉体強化した拳で殴ってわたしを殺そうとしたので、“理合”で床にいなしたところ顔から激突しました。痛そうですね」
わたしは一応感想も添えといたわ。親切かと思って。
だけど、あんまり理解されなかったみたい。イザベラの顔面は怒りで赤黒くなってった。
「こわ」
クロが耳元で感想をもらすと、コショコショとヒゲがわたしのほっぺたにあたった。
「ふふ」
思わず笑みもこぼれるわよね。
「なにを笑って…!!!!」
イザベラは袖口からつえを取りだして、空中に円を描くように振るったわ。
空中に水の玉がいくつも出現して、イザベラのつえの動きに従って、巨大で鋭い釘のように形を変えていく。
「あーあ、怒っちゃったよ」
「半分はクロのせいでしょ」
言っている間に水の巨大釘は、わたしに向かって放たれていたわ。せめて何か言ってからが礼儀じゃないかしら?
けど、わたしにとってはなんでもないわ。
両腕を前に出して、向かってくる巨大釘に合わせてクルンと円を描くように腕を回すの。
「わっ!」
「きゃっ!」
そしたら、水釘は天井や壁、ジェイソンやキャロットの目の前の床に突き刺さったわ。最後の一本は、真逆の方向にお返ししといたの。やっぱりお礼って大事じゃない?
イザベラ本人に最後の水釘は向かっていったわ。
「ひっ!?」
イザベラは魔法を解けばいいのに、とっさのことで反応できなかったみたい。
イザベラの体が自らの魔法に貫かれたか!?と見えた瞬間、大量の水蒸気が発生して水釘が蒸発しちゃったの。残念。
「…“理合”と言ったか?」
水蒸気のなかから、父のロンが現れたわ。
ロンの手には青い炎の残り火が灯ってた。
ロンは当代随一と言われる炎魔法の使い手だった。その炎で妻の水釘を一瞬で蒸発させて、串刺しになるところだった妻を守ったの。
「かっこいい~」
クロが軽口をたたく。
「たしかに炎魔法って花火みたいできれいだよね」
わたしも炎魔法のきれいさにだけは同意しといたわ。
「あ、あなた…!」
イザベラは夫にすがりつこうとした。
だけど、今のロンの興味は、死にかけた妻にはなかったみたい。手で冷たくペイッ!て制してたわ。視線はめずらしくわたしに注がれてた。
「質問に答えよ。“理合”と言ったか?」
「ええ、お父様。言いましたよ」
わたしは素直に答えたわ。
ロンは興味深げに、うれしそうな笑みを向けて来たわ。
「ほう…。我らが祖、リー・マルグリットの秘法はお前に受け継がれたというわけか。いつ発現した?」
「発現?」
「魔法というものは、神の恩寵の如く突然発現するものだ。そのくらい知っていよう」
「…ああ、そういうことでしたら、これは魔法じゃないですね」
「なに?」
「たゆまぬ努力の結果ですわ。気が遠くなるほどの。それも、気が狂うほどの…」
わたしは思いを馳せた。
百万回目の生、今に至るまでの道のりを。
わたしは自分の小さな手を見つめてついついぼやいたわ。
「ねえ、わたしって今何歳かしら?」
わたしは今回の自分の年齢を知るために妹のキャロットに話しかけたの。わたしの後ろで尻もちをついて、キャロットはわたしを見上げていたわ。
わたしの背中にまたがって、お馬さんごっこを強要していたのよね。そこを急に立たれて、キャロットは転げ落ちたの。
「…はあ!?」
「あら、妹なのに、お姉さまにそんな口を利いてはダメよ。それに自分の足で歩きなさい。そんなんだから、おデブちゃんなのよ」
キャロットはわたしの妹だけど、わたしよりもずいぶんぽっちゃりしてる。わたしは鶏がらみたいにやせてる。
「なにいってんの?全然関係ないし!」
わたしはキャロットの言葉を無視して、ただ観察することにしたわ。話しても無駄そうだったから。
え~と、キャロットの見た目からすると、今のわたしは十歳くらいか。
「っつ」
急にヒザが痛んだの。
ロングスカートをたくしあげて見てみると、小さな膝からは血が流れていたわ。
「いった~!このバカ!」
わたしは思わず手を伸ばして、キャロットの頭を叩いてやったの。
「え…?」
信じられないという顔でわたしを見上げて、みるみる涙が目にたまってく。
「いやいや、泣きたいのはこっちだから。常識で考えて?」
わたしは思い出したわ。
この日は一家団欒の場で、キャロットが一時間もわたしの背中に乗って過ごしたんだった。イスやお馬さんとして。
お腹が減っても、わたしは何も食べることができなかった。夜中に膝が痛んでも、耐えて泣くことしかできなかった。
「…こいつめ!」
わたしはもう一発キャロットの頭を叩いておいたわ。当然の権利よね。
キャロットはついに大げさに泣き出しちゃった。
「ハイハイ、泣いたらいいわ」
わたしはキャロットの泣き顔になにも感じなかったわ。もう何千回も見ているもの。なんの価値も感じないわ。
ただ、キャロットが泣いたということは、このあと何が起きるか大体わかるのよね。
「おまえぇ!何してる!」
「あらあら、お兄様。鼻息が荒くてステキね」
キャロットが泣くと、兄のジェイソンが必ずといっていいほど庇いにやってくるの。
「麗しき兄妹愛ね」
わたしは自分もジェイソンの妹なんだけど、もうまるで他人事みたいな気分。
ジェイソンが肉体強化の魔法を唱えながらドスドス近づいてくるの。ジェイソンって獣っぽいの。ホントよ。ジェイソンの腕は普段の二倍、三倍にも膨れ上がって、これから暴力振るうぞ~!ってあからさまに臭いをさせるのよね。脇汗もすごいしね。嫌ね。
ただでさえガタイのいい十七歳の若者なのよ?通っている魔法学園でもランカーなんていわれていい気になってるの、だから魔法の威力も十分。ま、十位だけどね、ランク。
わたしは迫りくる脅威ってやつを前に、よそ見をしたわ。確認したいことがあったの。
ああ、やっぱりここは家のリビングよね。
父に母、執事にメイドもいるわね。
「オラァ!!!!!」
気づくとジェイソンの拳はわたしを殺す気で放たれていたわ。
なるほど。今回はここで終わるのね。太っちょの妹のバカげたお馬さんごっこに逆らったら、死の鉄槌が兄から降るというわけ。
なんて理不尽なのかしら。
わたしは必ず家族に殺された。父には炎魔法で、母には水魔法で、兄には物理攻撃で、妹には変身魔法で殺された。
とても酷い虐待を受けていたというわけ。なぜなら、名門貴族のマルグリット家において、わたしは魔法の才に乏しい欠陥品だったから。
それだけで、かれらにとっては、実の子供だろうが、姉妹だろうがまったく価値のない存在だったみたい。
いや、むしろ恥?マイナスな存在?
わたしはまるでその評価を受け容れて、いたずらに殺されては死に戻りを繰り返した。
99万回目まではね。
「ふっ」
わたしは軽い息吹を吐くと、迫りくる拳の前に細い腕を出したわ。
「あがっ!?」
ジェイソンの拳はわたしの腕をぬめりと滑るような動きをして、体ごと床に激突してしまったの。
言ってることわかる?
まあ、結果を言えば、石材の床に顔から突っ込んでしまい、ジェイソンは痛みに悶絶することになったってわけ。
「ふぐぅ!ふぅ~!」
ジェイソンは呼吸を不規則に止めたり、吐いたりして急激に襲ってくる痛みに耐えようとしていたみたい。
「ふふっ」
十歳の幼いわたしはついつい微笑んで、兄のジェイソンを見下ろしたわ。
「お兄様は苦しそうな顔が本当によく似合うわ」
10000回見ても、笑えるものは笑えるものね。
「まったく、すっかり性格悪くなっちゃって」
わたしの影の中から声がした。
ドンッ!とわたしは自分の影をふんだわ。今回はここにいるのね。
床に転がったジェイソンは悶絶してたのをやめて固まって、キャロットは固まってたのが反対にビクッとしたわ。
でも、わたしはそんな二人にはもう興味もなかった。
「うるさいわよ、クロ。出てらっしゃい」
影が一瞬球状に丸まったかと思うと、ポンッとはじけて飛んで、それはわたしの肩に乗っかってきた。
それはまるまるふとった猫っぽいもの。真っ黒な影のような黒猫で、額に青色の宝玉がついてる。
変わってるわよね。でも、一番変わってるのは、クロはしゃべるってことね。
「今回はずいぶん小さいな。ちょっと乗りづらいぞ」
「こちらからの感想を言わせてもらえば、いつもより重いし暑苦しい」
「じゃあ、いつもよりオレを感じられてラッキーだな」
「はいはい」
しかも、なかなかの減らず口。
「…気が狂ったの?」
おびえつつも、キャロットがつぶやいたわ。彼女もなかなか減らず口よね。
まあ、無理もないと思う。だって、かれらには、わたしが急に暴れだして、自分の影をふみつけて、独り言を言っているようにしか見えないだろうから。
クロはほかの人には見えないの。
そう考えるとホラーよね。
「あなたってわたしの孤独な心が生み出した幻影なのかしら?時々不安になるわ」
「不安にさせたか。罪な男ですまない」
「そうね。見ているだけで何もしてくれない。本当に罪な男よね」
「ずっとそばにいた…それだけで尊いだろう?」
「それって自分で言っていいセリフじゃなくない?」
その時ね。急に母のイザベラが頓狂な叫び声をあげたのは。
「な、ななななにをしているの!?」
あまりにいつもの日常とはかけはなれた光景だったからか、ようやく頭が動き出したみたい。
「お母さま、お酒はほどほどにしたほうがいいわ。いつもより反応遅くてよ」
「なにを言っているの!?いえ、答えなさい!あなたが、ジェイソンとキャロットになにをしているの!」
「…え~と、キャロットはお姉さまを一時間もお馬さんにして、膝をケガさせたのではたきました。二回。あと、ジェイソンお兄様は魔法で肉体強化した拳で殴ってわたしを殺そうとしたので、“理合”で床にいなしたところ顔から激突しました。痛そうですね」
わたしは一応感想も添えといたわ。親切かと思って。
だけど、あんまり理解されなかったみたい。イザベラの顔面は怒りで赤黒くなってった。
「こわ」
クロが耳元で感想をもらすと、コショコショとヒゲがわたしのほっぺたにあたった。
「ふふ」
思わず笑みもこぼれるわよね。
「なにを笑って…!!!!」
イザベラは袖口からつえを取りだして、空中に円を描くように振るったわ。
空中に水の玉がいくつも出現して、イザベラのつえの動きに従って、巨大で鋭い釘のように形を変えていく。
「あーあ、怒っちゃったよ」
「半分はクロのせいでしょ」
言っている間に水の巨大釘は、わたしに向かって放たれていたわ。せめて何か言ってからが礼儀じゃないかしら?
けど、わたしにとってはなんでもないわ。
両腕を前に出して、向かってくる巨大釘に合わせてクルンと円を描くように腕を回すの。
「わっ!」
「きゃっ!」
そしたら、水釘は天井や壁、ジェイソンやキャロットの目の前の床に突き刺さったわ。最後の一本は、真逆の方向にお返ししといたの。やっぱりお礼って大事じゃない?
イザベラ本人に最後の水釘は向かっていったわ。
「ひっ!?」
イザベラは魔法を解けばいいのに、とっさのことで反応できなかったみたい。
イザベラの体が自らの魔法に貫かれたか!?と見えた瞬間、大量の水蒸気が発生して水釘が蒸発しちゃったの。残念。
「…“理合”と言ったか?」
水蒸気のなかから、父のロンが現れたわ。
ロンの手には青い炎の残り火が灯ってた。
ロンは当代随一と言われる炎魔法の使い手だった。その炎で妻の水釘を一瞬で蒸発させて、串刺しになるところだった妻を守ったの。
「かっこいい~」
クロが軽口をたたく。
「たしかに炎魔法って花火みたいできれいだよね」
わたしも炎魔法のきれいさにだけは同意しといたわ。
「あ、あなた…!」
イザベラは夫にすがりつこうとした。
だけど、今のロンの興味は、死にかけた妻にはなかったみたい。手で冷たくペイッ!て制してたわ。視線はめずらしくわたしに注がれてた。
「質問に答えよ。“理合”と言ったか?」
「ええ、お父様。言いましたよ」
わたしは素直に答えたわ。
ロンは興味深げに、うれしそうな笑みを向けて来たわ。
「ほう…。我らが祖、リー・マルグリットの秘法はお前に受け継がれたというわけか。いつ発現した?」
「発現?」
「魔法というものは、神の恩寵の如く突然発現するものだ。そのくらい知っていよう」
「…ああ、そういうことでしたら、これは魔法じゃないですね」
「なに?」
「たゆまぬ努力の結果ですわ。気が遠くなるほどの。それも、気が狂うほどの…」
わたしは思いを馳せた。
百万回目の生、今に至るまでの道のりを。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる