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第7話 デイジー、弟子をとる
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驚いて固まっているわたしの肩で、クロが舌打ちをしたわ。
「チッ!そう来たか」
猫って舌打ちできるのね。
そんなことよりも、わたしはハッとして「で、で、弟子ぃ!?」と声に出して驚いたの。
「はい!弟子です!お願いします!」
ルーファスはハキハキと答えてくる。なんかガンガン来る。もうそこはかとなく弟子モードだったわ。これはまずい。
「い、いや~、そんなわたし弟子とる身分じゃないですし…」
「ぜひデイジーさんがいいんです!」
グイと一歩寄せてくる。
「あっ!そうそう、それにおない年で弟子って変じゃないですか~」
「それでもデイジーさんがいいんです!」
グイグイっとさらに寄せてくる。
わたしはいつの間にか追い詰められて、家のドアにはりつけになっていたわ。
逃げ場がない。
顔がすぐ間近にあるのに、ルーファスは気にならないみたい。それも失礼な話だと思わない?
それにしても、まっすぐな少年に火が付くとこうなるの!?おそろしい…。昨日までのおとなしいルーファスは一体どこにいったの?
そんな疑問を発する余裕もなく、わたしは顔をそむけて逃げようとしたわ。だって、顔はすでに熱くて真っ赤だったんだもの。恥ずかしいよ…。
みんなご存じなことなのかもしれないけれど、美少年の顔の圧ってすごいのね…。
もう、無理…。
「わ、わかりました…」
「弟子にしてくれるってことですか!?」
「そうですぅ…」
わたしは負けたわ。それはもうあっさりと。
「あーあ、またルーファスに負けてるよ」
クロがボソッと言ったけど、しょうがないじゃない!ちなみにルーファスには聞こえていなかったみたい。
「やったー!」って無邪気に喜んでたから。ここらへんは可愛い少年って感じでホッとしたわ。
「て、勢いで師匠になっちゃったわけだけど」
わたしは紅茶を淹れてルーファスにふるまったわ。ちょっとお姉さん気分。
今は家のなか。
昨日ポーちゃんを診たテーブルのうえにティーカップを置いたわ。仕事用の台を買ったほうがいいのかしら?そうはいっても、わたしの場合、別に手術するわけでもないしなあ。
そんなことが現実逃避気味に頭をよぎりながら、とりあえずルーファスを座らせて、自分もイスに座ったの。
「いったい師匠っていうのはなにをしたらいいのかな?お師匠さんに教えてくれるかな、弟子君。それが最初の修行だ!」
「ノリノリじゃん」とクロ。
「ちがう。ヤケよ」
だけど、ルーファスは元気よく「はい!」と返事したわ。無垢か。
「お店の経営を教えてください!ボク、アイスクリーム屋さんになるのが夢なんです!」
「ちょ、まてまてまてまて」
わたしは思わず手を前にだして止めたの。ツッコみどころが多い。
「え?なんですか?」
ルーファスはきょとんとしている。無垢か。
「デイジー、こういうときは慌てず一個ずつ整理していくんだ」
「そうね、クロ。アドバイス感謝するわ」
わたしは自分を落ち着かせるためにも紅茶を一口すすったわ。
「え~と、まず、魔法使いの弟子じゃないんだ?」
「ええ、同系統の魔法使いなら師弟は意味ありますが、デイジーさんの魔法は残念なことにボクの魔法とはかけ離れていますから…。本当に残念です…」
ルーファスは心底残念だと思っているようだった。あなたは歴史上最強の魔法使いになるんだけどなあ。
「で、夢はアイスクリーム屋さんなの?」
「はい!」
「へ~」
夢が叶えば史上最強のアイスクリーム屋さんが誕生するだろうな。
でも、すくなくともわたしの知っている未来では、ルーファスがアイスクリーム屋さんをやっているという話は聞いたことがなかった。
それはどの未来でもそうだったように思う。
夢破れたのか、諦めたのか、変えたのか。
「ボク、氷系の魔法が使えまして。それを将来活かせればなと思ってるんです。アイス好きですし」
「可愛いなあ。ウチの弟子は可愛い!」
夢を語る笑顔に思わず声が出てしまったわ。
「師匠バカになるの速くない!?」
クロがすかさずツッコむ。
「ハッ!待てよ…!」
わたしは重大なことに気づいたの。
「よしっ!そういうことなら歓迎しよう!キミは今日からわたしの正式な弟子だ!オフィシャルデッシーだ!もう逃がさない!キミは一生わたしに刃向かうことは許されない!レッドドラゴンでもわたしがブルードラゴンといえばブルードラゴンだ!わかったな!?」
急にわたしは勢いに任せてしゃべりちらかしたわ。
クロは怪訝な顔をしたけど、無垢な美少年であるルーファスはむしろ身を引き締めるかのように直立不動になって返事したの。かわうぃい。
「はい!お師匠さま!よろしくお願いいたします!」
「むっ!いい響きだな!もう一度お師匠さまをたのむ!」
「お師匠さま!」
「もう一度だ!」
「お師匠さま!」
「よし!満足だ!」
「なんなんだ…」
クロが呆れていたわ。
「ルーファス君。いや、ルーファス、ちょっと耳をふさいでいたまえ」
「はい!」
「聞こえていないか?ルーファス?」
「え?なんですか?」
「聞こえているじゃないか。もっと奥までつっこみなさい」
「え?」
「こう、指をねじこむんだ」
わたしはジェスチャーでもっと奥まで指をつっこむことを指示したわ。
ルーファスは素直に従ったんだけど、なんだかほんのちょっとだけいけない気持ちになったのは内緒だよ?
「う~ぬ、こんなマヌケなポージングでも可愛いとは…ルーファスはやはり恐ろしいやつだな、クロ」
「オレはお前が恐ろしいよ」
「いやん、ひかないで。ちがうのよ、クロの旦那」
わたしはコソコソとクロに耳打ちしたの。これでも細心の注意を払う話題だもの。ちゃんと気を使ったわ。
「なんじゃ?申してみよ」
クロも一応小声で話してくれる。ノリがいい。
「実はね…ルーファスを弟子にして、アイスクリーム屋さんにしちまえば、史上最強の男なんて物騒なもんは未来から消せるんじゃないの?って思ったわけですよ」
「ふむ…少年の本来進むべき道を誤らせようってわけかい?」
「げへへ、よしてくだせえ旦那。あくまでも今のルーファスはアイスクリーム屋さんになりたいって言ってるんですよ?本来進むべき道なんてわからないじゃないですか。未来でも知らない限り。少年の応援をしたい、その一心ですよ、アタイは。げへへ…」
「ふむ、お主もワルよのぅ…しかし、なるほどのぅ。なかなかの妙案。いや、待てよ」クロはいったん納得しかけたもののツッコんだ。「でもお前、暴力しないって誓ってなかったかい?そうすればルーファスは最強になろうがなんだろうが、関係ないんじゃないのかい?それはお前、未来においては結局暴力沙汰になるってことなのかい?」
「ちがいますよ、旦那。そんなわけないじゃないですか。けど、未来は未定。予定は未定じゃないですか。本来はね」
「まあ、そうだな」
「なのに、なぜかわたしは大体ルーファスに殺られちゃうわけですよ。まるで確定事項のように」
「そうだな。まるでお前の未来、そこでドン詰まりみたいだもんな」
「その詰まりを解消するのには、二段構えにしとくのが望ましいってことですよ、旦那」
「一段目は非暴力、二段目はラスボスをアイスクリーム屋にしちまうってことかい?」
「そういうこと!」
「ふむ…」クロは肉球を口元にやって考えたわ。「…いいかもしれないな」
「でしょでしょ!」
二人の悪巧みを前に、ルーファス少年は指を耳につっこんだまま目をぱちくりさせていたわ。
「よし!ルーファス!」
ルーファスは耳に指をつっこんだままなので聞こえていない。よしよし、いい子だよ。ぐへへへ。
「もういい。そう。もういいんだ。ありがとう」
ルーファスは耳に入れていた小指をなぜかちょっと気にしていたわ。
「ん?なんだ?」
「いや、あの…」
恥ずかしそうに言い淀んでいたの。
「んん?なんだ?お師匠さまに言えないことでもあるのか?」
「いえ…そういうわけじゃ…」
「じゃあ、素直に申してみよ」
ルーファスはついに真っ赤になって白状したわ。
「その…耳垢が…」
どうやら小指の先に耳垢がついてしまったみたい。
「ん?そんなもの床に落としていいぞ?」
わたしは美少年でも耳垢でるんだなあ、と生命の神秘を感じていたわ。
「え、いや…」
「いいから、落としなさい」
厳然と言うと、ルーファスはまるで罪なことを強制されるかのように背徳感に頬をそめて、指先をわずかにうごかしたわ。
小さく、たおやかな指でした…。
「…ゴクリ」
「ヘンタイ!現行犯!」
クロがついにわたしの頭をぺチンと叩いたの。さすがに見逃せなかったらしいわ。
「ち、ちがう…!わたしはやってない…!」
わたしは言い訳したけれど、鼻息は荒いままだったわね。
「バカ野郎!弟子に手を出すなんて最低の所業だぞ!しかも弟子になってから数分でなんて世界記録でも狙ってんのか!?」
「そ、そんな最低な世界記録狙うわけないでしょ…!?」
わたしとクロが言い争っている間も、ルーファスの顔はまだ赤いままだったわ。照れ屋さんなのね。
けれど「ぷっ」と顔は赤いままにルーファスは噴き出したの。
「え?」
「どうしたの?」
クロとわたしが聞くと、ルーファスはハニカミながらも言ったわ。
「お二方はとても仲がいいんですね!クロさん、よくわからないけど心配してくれてありがとうございます!やさしいんですね」
「お、おう」クロはまさか話しかけられるとは思っていなかったらしくて、珍しく動揺していたわ。「ま、まあ、コイツがなんかしたらオレに言えよ?コイツはオレの下僕だからよ。ま、だから、オイラはお前の大師匠ってわけだな。シクヨロ」
後半はキャラブレブレになりながら、クロはルーファスに向かって二本爪を出して手をピッ!と振ったの。
「なにそれ!?」
いろんな意味で驚いたわ。
でも、ルーファスは一際元気よく「はい!」と返事していたわ。
「ちょ、ルーファス君!?」
こうしてわたしたちは師匠と弟子になったり、大師匠と孫弟子になったり、主人と下僕になったりしたわ。
新しい関係が始まったってわけね。なかなかドキドキするわ。
「チッ!そう来たか」
猫って舌打ちできるのね。
そんなことよりも、わたしはハッとして「で、で、弟子ぃ!?」と声に出して驚いたの。
「はい!弟子です!お願いします!」
ルーファスはハキハキと答えてくる。なんかガンガン来る。もうそこはかとなく弟子モードだったわ。これはまずい。
「い、いや~、そんなわたし弟子とる身分じゃないですし…」
「ぜひデイジーさんがいいんです!」
グイと一歩寄せてくる。
「あっ!そうそう、それにおない年で弟子って変じゃないですか~」
「それでもデイジーさんがいいんです!」
グイグイっとさらに寄せてくる。
わたしはいつの間にか追い詰められて、家のドアにはりつけになっていたわ。
逃げ場がない。
顔がすぐ間近にあるのに、ルーファスは気にならないみたい。それも失礼な話だと思わない?
それにしても、まっすぐな少年に火が付くとこうなるの!?おそろしい…。昨日までのおとなしいルーファスは一体どこにいったの?
そんな疑問を発する余裕もなく、わたしは顔をそむけて逃げようとしたわ。だって、顔はすでに熱くて真っ赤だったんだもの。恥ずかしいよ…。
みんなご存じなことなのかもしれないけれど、美少年の顔の圧ってすごいのね…。
もう、無理…。
「わ、わかりました…」
「弟子にしてくれるってことですか!?」
「そうですぅ…」
わたしは負けたわ。それはもうあっさりと。
「あーあ、またルーファスに負けてるよ」
クロがボソッと言ったけど、しょうがないじゃない!ちなみにルーファスには聞こえていなかったみたい。
「やったー!」って無邪気に喜んでたから。ここらへんは可愛い少年って感じでホッとしたわ。
「て、勢いで師匠になっちゃったわけだけど」
わたしは紅茶を淹れてルーファスにふるまったわ。ちょっとお姉さん気分。
今は家のなか。
昨日ポーちゃんを診たテーブルのうえにティーカップを置いたわ。仕事用の台を買ったほうがいいのかしら?そうはいっても、わたしの場合、別に手術するわけでもないしなあ。
そんなことが現実逃避気味に頭をよぎりながら、とりあえずルーファスを座らせて、自分もイスに座ったの。
「いったい師匠っていうのはなにをしたらいいのかな?お師匠さんに教えてくれるかな、弟子君。それが最初の修行だ!」
「ノリノリじゃん」とクロ。
「ちがう。ヤケよ」
だけど、ルーファスは元気よく「はい!」と返事したわ。無垢か。
「お店の経営を教えてください!ボク、アイスクリーム屋さんになるのが夢なんです!」
「ちょ、まてまてまてまて」
わたしは思わず手を前にだして止めたの。ツッコみどころが多い。
「え?なんですか?」
ルーファスはきょとんとしている。無垢か。
「デイジー、こういうときは慌てず一個ずつ整理していくんだ」
「そうね、クロ。アドバイス感謝するわ」
わたしは自分を落ち着かせるためにも紅茶を一口すすったわ。
「え~と、まず、魔法使いの弟子じゃないんだ?」
「ええ、同系統の魔法使いなら師弟は意味ありますが、デイジーさんの魔法は残念なことにボクの魔法とはかけ離れていますから…。本当に残念です…」
ルーファスは心底残念だと思っているようだった。あなたは歴史上最強の魔法使いになるんだけどなあ。
「で、夢はアイスクリーム屋さんなの?」
「はい!」
「へ~」
夢が叶えば史上最強のアイスクリーム屋さんが誕生するだろうな。
でも、すくなくともわたしの知っている未来では、ルーファスがアイスクリーム屋さんをやっているという話は聞いたことがなかった。
それはどの未来でもそうだったように思う。
夢破れたのか、諦めたのか、変えたのか。
「ボク、氷系の魔法が使えまして。それを将来活かせればなと思ってるんです。アイス好きですし」
「可愛いなあ。ウチの弟子は可愛い!」
夢を語る笑顔に思わず声が出てしまったわ。
「師匠バカになるの速くない!?」
クロがすかさずツッコむ。
「ハッ!待てよ…!」
わたしは重大なことに気づいたの。
「よしっ!そういうことなら歓迎しよう!キミは今日からわたしの正式な弟子だ!オフィシャルデッシーだ!もう逃がさない!キミは一生わたしに刃向かうことは許されない!レッドドラゴンでもわたしがブルードラゴンといえばブルードラゴンだ!わかったな!?」
急にわたしは勢いに任せてしゃべりちらかしたわ。
クロは怪訝な顔をしたけど、無垢な美少年であるルーファスはむしろ身を引き締めるかのように直立不動になって返事したの。かわうぃい。
「はい!お師匠さま!よろしくお願いいたします!」
「むっ!いい響きだな!もう一度お師匠さまをたのむ!」
「お師匠さま!」
「もう一度だ!」
「お師匠さま!」
「よし!満足だ!」
「なんなんだ…」
クロが呆れていたわ。
「ルーファス君。いや、ルーファス、ちょっと耳をふさいでいたまえ」
「はい!」
「聞こえていないか?ルーファス?」
「え?なんですか?」
「聞こえているじゃないか。もっと奥までつっこみなさい」
「え?」
「こう、指をねじこむんだ」
わたしはジェスチャーでもっと奥まで指をつっこむことを指示したわ。
ルーファスは素直に従ったんだけど、なんだかほんのちょっとだけいけない気持ちになったのは内緒だよ?
「う~ぬ、こんなマヌケなポージングでも可愛いとは…ルーファスはやはり恐ろしいやつだな、クロ」
「オレはお前が恐ろしいよ」
「いやん、ひかないで。ちがうのよ、クロの旦那」
わたしはコソコソとクロに耳打ちしたの。これでも細心の注意を払う話題だもの。ちゃんと気を使ったわ。
「なんじゃ?申してみよ」
クロも一応小声で話してくれる。ノリがいい。
「実はね…ルーファスを弟子にして、アイスクリーム屋さんにしちまえば、史上最強の男なんて物騒なもんは未来から消せるんじゃないの?って思ったわけですよ」
「ふむ…少年の本来進むべき道を誤らせようってわけかい?」
「げへへ、よしてくだせえ旦那。あくまでも今のルーファスはアイスクリーム屋さんになりたいって言ってるんですよ?本来進むべき道なんてわからないじゃないですか。未来でも知らない限り。少年の応援をしたい、その一心ですよ、アタイは。げへへ…」
「ふむ、お主もワルよのぅ…しかし、なるほどのぅ。なかなかの妙案。いや、待てよ」クロはいったん納得しかけたもののツッコんだ。「でもお前、暴力しないって誓ってなかったかい?そうすればルーファスは最強になろうがなんだろうが、関係ないんじゃないのかい?それはお前、未来においては結局暴力沙汰になるってことなのかい?」
「ちがいますよ、旦那。そんなわけないじゃないですか。けど、未来は未定。予定は未定じゃないですか。本来はね」
「まあ、そうだな」
「なのに、なぜかわたしは大体ルーファスに殺られちゃうわけですよ。まるで確定事項のように」
「そうだな。まるでお前の未来、そこでドン詰まりみたいだもんな」
「その詰まりを解消するのには、二段構えにしとくのが望ましいってことですよ、旦那」
「一段目は非暴力、二段目はラスボスをアイスクリーム屋にしちまうってことかい?」
「そういうこと!」
「ふむ…」クロは肉球を口元にやって考えたわ。「…いいかもしれないな」
「でしょでしょ!」
二人の悪巧みを前に、ルーファス少年は指を耳につっこんだまま目をぱちくりさせていたわ。
「よし!ルーファス!」
ルーファスは耳に指をつっこんだままなので聞こえていない。よしよし、いい子だよ。ぐへへへ。
「もういい。そう。もういいんだ。ありがとう」
ルーファスは耳に入れていた小指をなぜかちょっと気にしていたわ。
「ん?なんだ?」
「いや、あの…」
恥ずかしそうに言い淀んでいたの。
「んん?なんだ?お師匠さまに言えないことでもあるのか?」
「いえ…そういうわけじゃ…」
「じゃあ、素直に申してみよ」
ルーファスはついに真っ赤になって白状したわ。
「その…耳垢が…」
どうやら小指の先に耳垢がついてしまったみたい。
「ん?そんなもの床に落としていいぞ?」
わたしは美少年でも耳垢でるんだなあ、と生命の神秘を感じていたわ。
「え、いや…」
「いいから、落としなさい」
厳然と言うと、ルーファスはまるで罪なことを強制されるかのように背徳感に頬をそめて、指先をわずかにうごかしたわ。
小さく、たおやかな指でした…。
「…ゴクリ」
「ヘンタイ!現行犯!」
クロがついにわたしの頭をぺチンと叩いたの。さすがに見逃せなかったらしいわ。
「ち、ちがう…!わたしはやってない…!」
わたしは言い訳したけれど、鼻息は荒いままだったわね。
「バカ野郎!弟子に手を出すなんて最低の所業だぞ!しかも弟子になってから数分でなんて世界記録でも狙ってんのか!?」
「そ、そんな最低な世界記録狙うわけないでしょ…!?」
わたしとクロが言い争っている間も、ルーファスの顔はまだ赤いままだったわ。照れ屋さんなのね。
けれど「ぷっ」と顔は赤いままにルーファスは噴き出したの。
「え?」
「どうしたの?」
クロとわたしが聞くと、ルーファスはハニカミながらも言ったわ。
「お二方はとても仲がいいんですね!クロさん、よくわからないけど心配してくれてありがとうございます!やさしいんですね」
「お、おう」クロはまさか話しかけられるとは思っていなかったらしくて、珍しく動揺していたわ。「ま、まあ、コイツがなんかしたらオレに言えよ?コイツはオレの下僕だからよ。ま、だから、オイラはお前の大師匠ってわけだな。シクヨロ」
後半はキャラブレブレになりながら、クロはルーファスに向かって二本爪を出して手をピッ!と振ったの。
「なにそれ!?」
いろんな意味で驚いたわ。
でも、ルーファスは一際元気よく「はい!」と返事していたわ。
「ちょ、ルーファス君!?」
こうしてわたしたちは師匠と弟子になったり、大師匠と孫弟子になったり、主人と下僕になったりしたわ。
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