100万回生きたデイジーは復讐にも飽きたので自由に生きることにした(一人称バージョン)

Yapa

文字の大きさ
8 / 20

第8話 デイジー、人間関係を頑張る

しおりを挟む
「第一回〈どうぶつの歯医者さん〉経営会議!いぇ~い!」

「ぱちぱちぱち」

わたしのはしゃぎにルーファスが手をたたいてくれたわ。クロはマイペースに体をなめて毛づくろいしていたわね。



場所は行きつけのカフェ〈アドリアネ〉のカフェテラス。空が青い。

そこでわたしは気づいたの。



「あれ?ルーファスって今日学校ないの?制服だけど」

「あ、はい、サボりです!」

元気よく答える。



「え?そうなの?いいの?」

「いいんですよ。あんまり意味を感じないし」

「ふ~ん、そうなんだ。…魔法学園ってどんな感じなの?」

「ん~、感じでいうとつまらない感じですね」

「へ~、どんなふうに?」

「なんかダンゴムシ同士がマウント取り合ってる感じです。たいしてちがわないのに」

「うぉい!めちゃくちゃいうな!美少年!」



ルーファスはきらきらと笑顔を輝かせたわ。

「だって、事実ですから!」

「…こいつ、なかなか闇が深いんじゃないか?」クロがゴクリと息をのむ。

「ええ、やっぱり油断ならないわね…」

「やっぱり?」



聞いてたルーファスが小首をかしげていたわ。

「なんでもないの。こっちの話」

わたしは百万回くらい死んでるの!とか、そのうち5000回は未来のあなたに殺されたのよ!と言ったところで信じないだろうし。

頭がおかしいと思われてせっかくのルーファスアイスクリーム屋さん計画がとん挫するのがオチだわ。



まあ、言ってみてもいいのだけれど、めんどくさいのでこの手の話はルーファスにはしないことにしたの。クロも刺激が欲しいとかまえに言ってたけど、なんだかんだ黙ってるみたいだしね。



「ま、ルーファス君の闇は置いといて」自分でも呼び捨てなのか、君付けなのか安定しないな~と思う。「経営会議ですよ!」

「あ、はい。なにを話し合うんですか?」



「そうね…このコーヒーが400ドシア」わたしは手元にあるコーヒーを両手で包みながら、ルーファスに聞いたわ。「わたしの魔法は、いくらくらいだと思う?」

「そうですね…。それは本当にとてもむずかしいですね。というのも、比較対象がありませんから」



「結構この都は大きいと思うんだけど」今いる都〈ゼファニヤ〉が〈バクス〉〈テオドラ〉に次ぐ、この国第三の規模を誇る都だったわ。たしか。「わたしみたいな魔法使いはほかにいないの?」

「いませんね」



「え~と、たとえばお店開いてなくても?治癒術院の片隅でサービスとしてやってるとか、それこそ歯医者でやってるとかは?」

「ないです。治癒術で治せるのはその場で負った傷だけで古傷だとか病は治せません。歯医者は人間の歯医者はいますけど、基本的に虫歯を抜くだけですよ」

ルーファスはペンチでつまんで歯を抜く仕草をしてみせたわ。



「そうなんだ」

古傷は治せないという言葉を聞いて、わたしは反射的に一瞬自分の手を見ちゃった。今は火傷の痕は白手袋に覆われているのにね。

「ええ、そうです。だから、比較対象がないんです。お師匠さまの魔法ってめちゃくちゃレアなんですよ!」

ルーファスはやや興奮気味に言ったものよ。



「へぇ…。わたしレアだったのかあ」

わたしの胸中は複雑だったわ。そのレアな魔法のせいで虐待され、苦しみを繰り返してきたのだから。素直に喜んでいいものかわからない。

「さきほどの質問からすると、お師匠さまって魔法学園には通ってないんですよね?」

「うん」

正確にいうと、通わせてもらえなかったのだけれど。



「わかります。ボクのような氷系の魔法ならよくある魔法なんで教えられますけど、お師匠さまの魔法はなかなか教えられる人いないでしょうね…」

「そっかあ。で、値段なんだけど」

「あ、ごめんなさい。う~ん、これはもうお師匠さまの言い値で良いんじゃないですか?」

「え?言い値って、その場の気分で決めるってこと?」

「あはは、まあ、そうですね。あとはお師匠さまがどのくらいお金が欲しいかですよ」

「う~ん…」



困った。正直お金には困っていない。ぶんどった財産が山ほどある。だから、どのくらいお金が欲しいかと言われても困る。

「あの、お聞きしてもいいですか?」とルーファス。

「うん、いいよ」

「お師匠さまはなぜお店を始めようと思ったんですか?」

「え~と、それはねえ」



わたしはその質問でなぜ自分が〈どうぶつのお医者さん〉をやろうと思ったか思い出したの。もちろん、街ゆくペットを見てビジネスチャンスだと思ったというのもあるけど、その前に仕事をしてお金を稼いでみたいとふと思ったのよ。

それは本当にほんの思いつきだったわ。



「なんでもやってみよう期間だからかなあ~」

「え?なんですかそれは?」

「ん~、なんていうのかな。わたしね、実はあんまり街とか来た事なかったんだけどね」

「はい」

「来てみたら、すごくいいところだなって思ったの。みんな楽しそうだし、活力があって、あっ!そうそう、行ったことないけどお祭りみたいって思ったの。それで、わたしも参加してみたいって思ったんだと思うな」



クロがあくびまじりに「思うなってなんだ」とツッコむ。

「いいの。あらためて考えて言葉にするとそんな感じってこと」



「ふ~ん…」ルーファスは目を細めてわたしを見つめてきたわ。「お師匠さまって恵まれてるんですね」

「え?」

「お祭り気分で普段お店を開いてる人なんていないですよ」

「そ、そうなんだ…」

「そうです」



わたしは衝撃を受けた。

自分は恵まれていたのか。

あの地獄のような日々が。

苦しい記憶が頭の中で明滅し、気分が悪くなった。

「あの家は賃貸ですか?それとも持ち家?食費や生活費は月にどのくらいかかってますか?」

急速に心が冷えていくのを感じたわ。



「…もういい」

「え?」

「なんかつまんなくなっちゃったから、もういいよ」

「…もういい、とは?」

「お店も弟子ももうやめたってこと」

「…あの、さっきの発言がそんなに気に障りましたか?」

「べつに」

「ごめんなさい。謝ります」

ルーファスは一気にしょげてしまった。ついさっきまで楽しそうにしていたのに。

それを見て心が痛んだ。自分がしたこととはいえ、ルーファスにこんな顔をさせたかったわけでもない。



「…人間関係ってむずかしいなー!」

「え?」

急な大声にルーファスはビクッとなってたわ。

「ううん。あの、こちらこそごめんね。わたし、はっきり言ってバカだからさ。こういうふうになることあるの。こういうふうって言われても困ると思うけど…」わたしは頑張って言葉にしようとしたの。「なんか、今はルーファスの言葉に勝手に自分の思い出押し付けて、八つ当たりしただけだから…」

「…じゃあ、お店やめるのも、お師匠さまやめるのも、なし?」

「うん」

「よかったぁ~!」



ルーファスは心底ホッとした様子で笑ったわ。

わたしも少なからずその笑顔を見てホッとしちゃった。

「あの、でも、こちらこそ本当にごめんなさい」ルーファスは真剣な顔で謝った。「ボクこそいろんな事情もあるのに勝手に決めつける言葉で最低でした。反省します!」

「いいよ~。もうこの話題なしね」



「はい!それにしてもびっくりしましたよ。お店開くのって書類をギルドに提出するだけでも一苦労じゃないですか!」

「…ギルド?」

「え?まさか登録してないんですか?」

「…してない」

「それはまずいですね。役人来ちゃいますよ」

「…やっぱりめんどくさいかも」

わたしは基本的にめんどくさいことが苦手で嫌いだわ。



「わかりました!お師匠様、ボクにそこらへんは任せてください。将来に向けて勉強済みですから!」

「おお~、たのもし~」

わたしがぱちぱちぱちと拍手して、第一回〈どうぶつの歯医者さん〉経営会議は終了したわ。





夜。わたしは家のベッドで大の字になって寝転がった。

そして片腕を目の上にのせた。

クロが頭の横に来てざらりと頬をなめてくれた。

「泣いてるの?」

「…ぇ」

「え?」

「…人間関係めんどくせぇ!」

超疲れた!家族辞めてから今日が一番つかれた!人間関係って、全然自由じゃない!

「でも、わたし、がんばった!クロ、もっと舐めて!」

クロは鼻でフッと笑うと「はいはい」と言ってざらりざらりと舐めてくれた。



「どうか、わたしの嫌な部分を削り取ってください~!」

「ばかやろー、お前の嫌な部分食べたら、オレが嫌なやつになっちゃうだろ!」

「いいじゃんかよ~!クロってそんなにいい奴でもないだろ~!」

「ひでえ言い草だな。オレは直接手を汚さない分クリーンだろ」

「卑怯者!」

「なんだとこいつめ!」



クロは両手で顔をおさえつけて、本気舐めをしてきた。

「ギャー!いたいー!」

「お前の悪いところ削り取ってやるよぉー!」

「ギャー!」

こうして夜は更けていった。



終わりよければすべてよし!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

処理中です...