白魔道師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~

世見人 白図 (ヨミヒト シラズ)

文字の大きさ
19 / 40
1章 死神の白魔法

18 当事者 ⑥

しおりを挟む
25

攻撃は至ってシンプルだ。単調というかまあ並の使い手なのだろう。
”砂の戦士”の攻撃を軽々と避ける事は容易だった。しばらくは様子を見る為に攻撃もせず只管に躱わす、それだけだった。暇つぶしにはなる。龍である俺の体は勿論大きいわけだが、地下牢もとい元ダンジョンはそこまで大きく広々としたものではなく正直狭い、がそれでも縦横後ろと躱わす事が出来ている。大袈裟にでは無く、なるべく余計な体力を使わず最小限避ける様に、それ程余裕なのだった。素人とも言わず達人にもあらず。

「他愛も無い、飽きたわ」

大きな尾を軽く回転を入れ横殴りに”砂の戦士”・・・いや、”砂の塊”に叩きつけると呆気なく砂は崩れ落ち、旗はその場でカランと音をたて地面に落ちた。
あまりにもあっけない幕引き、期待していた以上に虚しく残念な気持ちでしか無い。
いっそどこかへ売り飛ばし大金を手にするか、こんなものあった所でなんの役にも立たない。それにしても箱を開け、これが現れた時の魔力は一体なんだったのか・・・。

再び落ちた杖を手に取ろうとすると、今度は先程現れた生意気にも人の形を成した”砂の塊”が同じ様に現れた。三体になって。

「数を束ねた所で俺の相手にならない事は明白だ。役立たずの武器風情が生意気にもこの俺にまだ挑むか?舐められたものだ・・・腹立たしい」

三位一体、正にそんな動きだった。一つが旗を手に取り、二つ三つが俺から見て左右に勢いよく別れ走り出し、真ん中には杖を持った一つ目の”砂の塊”が襲いかかるフリをし二つ目に旗を投げ、右にいた二つ目の”砂の塊”勢いそのままその旗で俺の腹を殴り更に後方へと回り三つ目に旗を渡したのだろう、飛び上がる三つ目は旗を受け取り首を目掛け叩き付けてきた。

「雑魚が!痛くも無いわ!」

一つ目の”砂の塊”を掴もうとしたがそれが失敗だった。勢い良く握り潰し少し動揺した所に二、三発攻撃を受けてしまった。そうだ、相手は砂だ。実体はあって無い様なもの。
握り潰した砂を払い、背の方にいる”砂の塊”に目掛け炎を放つも少し焦げ付く位で、畳み掛けようと二つの”砂の塊”は乱舞の如く互い違いに旗を手に持ち体に竿を叩き付けてくる。
痛みはあまりないが、あまりのしつこさと鬱陶しさに頭に来た。もうこんな道具ごと壊してくれる。

「鬱陶しいわ!!」

魔法を重ね、炎を放つ。ステンドグラスを砕きばら撒いた様に美しく、妖艶な丹碧の炎。
瑠璃・回禄ルーラーヘイゼン”、母の得意な魔法だった。

全てを焼き払い、触れた物を切付け焦がす。切り口から瞬く間には激しい炎が襲い焼きつける。
傷口は焼け回復すら許さず、灼熱の炎を浴びれば焼き爛れた場所溶けたガラスの様に固まり、結晶化し脆くなる。
美しく、酷く残酷な技だ。
勿論砂にも有効だった。"砂の塊"達は全身美しい結晶になり砕け散った。
しかしそれでも尚、旗は形を保ち変形すらせずそのまま地面に落ちた。
その事に少し驚きはしたもののどこか少しそんな気はしていた。その底無しの魔力の行方、それはまさにこの旗自身の耐久力にあると考えたからだ。

「まさか、次から次へと現れるのかこれは・・・どうすれば止まるんだこの旗は」

底無しの魔力に砂の兵隊。恐らく死ぬ迄戦い続けなければいけないのか?ふとそんな事すら考えていた。
無闇矢鱈に力を使う方が効率が悪い、一つだけ打開案があるがそれまで避け続けるのも無理がある。
大した攻撃では無いが疲弊し、同じ様な部位を何度もダメージを受ければいつしか大きな痛手となる。

打開案、それは至って単純でサニアによる箱への封印だ。
恐らく本人は力に気付いていないが箱を元にあった場所に戻れという一喝で元へと戻す事が出来るはず。
この”砂の塊"達からはあまり感じないが、あの旗はとんでもない魔力が未だ有している。
あの得体の知れない力を再び箱に封印するのは悔しいが無理だ。

だが彼女のいる町へと行きこの姿で呼ぶ訳にはいかない。
ただひたすらに彼女がこの場所ダンジョンへと訪れるまで待つしか無い。
しかしそれまで何時間こいつを相手にしなければいけない?途方も無いそんな作業ごめんだ。

再び旗の周りに砂が竜巻の様に集まりだし、"砂の塊"は6体程数を作り出し目の前に現れる事になった。

「いい加減飽きたが相手をするのも懲り懲りだな・・・」

致し方ない、これだけはしたくなかったが余計な体力を使うのも面倒だ。逃げる。
"砂の塊"に背を向け地下牢の出入り口へと走り出す、元より深くまで入っていないので出口はすぐそこにあった。
難無く外へと出ると日は暮れ始め、辺りは薄暗い。絶好のチャンスと言わんばかりに飛び立つと頭上には俺の何倍ものある砂で出来た大きな魚が何匹も空を泳いでいた。

「なんだ次から次へと!!」

襲い掛かる魚達、避けるにしてもあまりの大きさに逃げる間も無く地面に叩き落とされてしまう。
近くの海へと急ぎ飛び立つと頭上にいる砂の魚達は空から俺を目掛け泳いで来る。
あの砂の質量、重さにしたらとんでもない。そんな物遥か自分より頭上にいる高さから勢い良く地面に落とされる物なら、流石の俺でも痛手だ。

長い封印から何年も眠りから起きほんの一ヶ月と少し、まともに体も動かさず全力を出していない万全の状態でもない体ではいつもの
調子は出るはずもなく、思う様にスピードも出なかった。
海の丁度体が入るくらいの深さの所までは飛び急ぐ事は出来た、その時には自分を覆う影は大きくなり上を見上げると数メートル先には大きく口を開けた巨大な砂の魚がもうすぐそばまで来ていた。

「この・・・・!!」

着水し、海へと潜る。まだ浅いが飛行よりも遅くなるがまだ泳いで逃げれる。必死に翼を水かきの様に動かしある程度の距離を稼いだと同時に目に見える限りの深い所まで潜ろうとしていた瞬間。
水中からも響く程の轟音と衝撃、背中には砂の塊が落ちた衝撃が大きく伝わる。
辛うじて逃げた海の中、砂の塊による衝撃は少しだが落ち自身にもろにぶつかることを避けれた。しかしその衝撃たるや深く潜る俺を更に海の底へと叩きつける程、まともに受けた時を考えると少し冷や汗をかく。

次々に落ちる大きな魚を模した砂の塊はしばらくすると止んだ。それを見計らい水面へと上がるともう夜になっていた。
しかし住処にしていた地下牢ダンジョンも今や”砂の戦士”というか出来損ないの砂の塊に占領されている。
またあそこに戻り相手をする気はさらさら無い。

「さあどうしたものか・・・、海で過ごすのも気分は良くないな・・・。体もだいぶ鈍っている事、しばらく空でも飛んで体を慣らすか・・・夜だし高い所を滑空していれば人目にもつかんだろ」

それから俺は暫く海の遥か上へと羽ばたき空から一面砂の世界を眺めていた。何もない、ただただ暇で仕方ないと思っていたがあながちそうでも無かったのだ。
目覚めてからの期間、時折見せていた砂が集まり他の生物や物体に似せ現れていた現象、サニアが何だと言っていたそれがいつもより遠くからでも見られたからだ。大きさや種類、種族関係無く見られるそれは多少の暇つぶしにはなっていた。

しばらくして思い出した体を小さくする魔法を使えると。今更だが体を小さくし更に人目を避ける事が出来る、しかしこの魔法とにかくしんどい上に全体的な能力は下がるのであまりやりたくは無いが文句も言っていられない。

こんなにも彼女を待ち遠しく思い、朝が恋しい日はなかっただろう。そしてこれからも無いだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

処理中です...