白魔道師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~

世見人 白図 (ヨミヒト シラズ)

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1章 死神の白魔法

21 当事者 ⑨

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パラパラと先程までより天井から砂が溢れ、壁からは砂がサラサラと魔力の影響で舞い上がり、亀裂げ所々見え音を立てながら広がる。
急ぎ飛び立つ中、幾重に群がる”砂上の夢”達。
道を阻もうと次々に襲い掛かるそれは先ほどまでに律儀に見せていた砂で出来た兵士は現れず、魔物や草木、魚に人とまるでバラバラに形も歪に作られ俺に向かってやってくる。

「なんだ?もう丁寧にあの緻密に形作られていた兵士は見れないのか?俺はあれが好きだったから残念だよ」

無様にも襲いかかりは体当たりや覆い被さろうと飛び掛かるだけの砂の塊。小さく体を縮めたのは単純にこの地下牢ダンジョンが自分の体のサイズからして極めて狭く、遠くまで行ってしまったサニアに追いつく為には走るには遅く、次々に砂の塊達が襲い掛かるたびに相手をしなければならない。
ならば総合的な戦闘力を削いででも体を縮め、翼を使い飛翔し敵の制止を躱わす事に専念する他無い。

この地下牢ダンジョン、暇な時に奥の方まで覗きに行ったりはしたがサニアが以前言っていた通り、この地下牢ダンジョンはもう使われておらずこの地域の住民達により倉庫に使われようとしていた。
それもあってか雑にだが簡単に改築されていた、地下はそこまで深く無く元々はもっと深くまであったのだろう、
この地下牢ダンジョンの奥にある行き止まりの壁は近い場所に新たに作られていたのだ。

そしてその壁まで直ぐそこだった。フラフラと走るサニアに更にその先にいる旗を持つ”砂の戦士"が視界に見え始め、さらにその奥には地下牢ダンジョンの行き止まりの壁が見えていた。

「サニア!!その先は行き止まりだ!!追い詰めろ!!」

フラフラと走る彼女の姿はもう体力の限界なのだろう、それでも足を必死に動かす彼女に追いつくのは彼女が視界に入ってすぐの事だった。

「おい!しっかりしろ!今あいつの暴走を止められるのはお前だけなんだぞ!!」

息も絶え絶えの中どんどんと走るペースも方向も乱れるサニアは壁にぶつかりその場で膝を崩し、嘔吐する程にはもう限界が来ている。
視界の先にはひと足先に地下牢ダンジョンの行き止まりである壁につきそうになる”砂の戦士"。
どの道これ以上先に進む事は出来ない、サニアを少し休め奴を仕留め旗を奪い返す事を先行する。

”砂の戦士"のいる方遥か頭上、地下牢ダンジョンの天井すれすれの所まで翼を広げ飛び上がる。

「もう手加減などせずとも良いんだぞ?よくも逃げ回ってくれたな、たかだか魔法で出来た杖の小旗風情が」

壁に寄りかかり旗を構える”砂の戦士"、しかしそんなものは何ら意味をなさない。
奴の頭上から体の大きさを元の大きさへと戻し、その大きさと重さを利用し勢い良く降下し、避ける暇をも与えず勢いをそのままに”砂の戦士"踏み潰した。
踏み潰され四散した砂の塊に、足元へ落ちた旗を手に取り項垂れる彼女の元へと投げると、ガランと音を立て彼女の前に落ち、彼女は箱を脇で挟み拾い上げ俺の方を向き不安そうに青ざめた顔見せた。

「サニア!!それを封印しろ!!」
「わ・・・分かんないよ!」
「その箱に物仕舞い込む様に強く念じろ!!」

一生懸命に旗を額に当て念じる彼女、そして背後に大きな流砂が波の様に彼女を覆い込もうと襲い掛かる。
しかし、あの旗が彼女を狙う事など想定内。彼女に旗を投げた時点で既に魔法で作った結晶の氷柱、それを槍を投げる要領で力強く投げ飛ばし大きな流砂は打ち砕ける様に蹴散らすと、驚いた様子で彼女は背後を振り返りよろけながらつまづく。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

怯えながら体を震わせるサニアの姿は精神的、体力的にも限界に近い。このままでは封印に集中も出来ないだろう。

「サニア!!立て!!」

一喝する俺の方を見る彼女は涙を溢し手にしっかりと持った箱と旗をグッと抱き締めながら立ち上がり、俺の方へと走り出し、その背後からは再び新たに魚の形を成した砂の塊が逃げる彼女の背に向かっていた。
まるで矢の如く彼女に襲いかかろうとする砂の魚達。
刹那の判断、今彼女を守るのは不可能。あの魚に似せた砂を潰すには彼女事攻撃しなければならない。
身を挺して守るも間に合わない、どうしようも無い。

彼女の背中に向かい速度を上げ飛び掛る魚達は鈍い音を部屋中に響かせ、彼女の肩を目掛け次々にぶつかる。
その拍子に散った魚達、そしてぶつけられたその勢いのまま倒れる彼女は必死に手に持っていた物を離す事無く、グッと堪えた様子で抱き締めたまま直ぐに立ち上がった。

「根性あるじゃねえか・・・」
「リフレシアー!!」

潰れた叫び声が部屋中を響く、視線の先は俺の背後に向けたもの。焦るその姿と必死の咆哮は自身に向けたものだと理解する事に一瞬遅れを取った。背後の気配を感じ取った時にはもう手遅れ、そう思わせる程の部屋の天井限界まで大きく波打つ大量の流砂が音も無く背後から大きく津波のように俺を覆った。

「な・・・!?」
「リフレシア!!リフレシ・・・」

大量の砂に瞬く間に包まれる一瞬、俺はこれが彼女に伝えられる最後の一瞬だと感じ、咄嗟に過ぎる言葉を彼女に向け言った。

「俺はお前を信じている。頼んだぞサニア」


サニアの大粒の涙流し叫ぶ姿が視界から徐々に消え、声は虚しく視界と共に閉ざされ暗光を一切通さない暗闇の中へ閉じ込められる。
まるで壁の中へと埋められた様な感覚。身動きは取れない状況、無闇矢鱈に魔法を使い破壊しても良い、しかし視界が開けない今攻撃の方向によってはサニアを巻き込んでしまう。
打開策は彼女の封印を信じる事。閉ざされたこの砂の塊、力が、魔力が徐々に抜けていく感覚。そしてこの砂の中の居心地に既視感があった。

封印されていたあの時の様に、そうあの箱に眠っていた時の様な、そっくりだった。まるで封印されているような感覚。
魔力はこの様にして人間を襲い奪っていたのだろうか、吸い上げる力は龍である俺だからこそ無事に違いないが
何の能力にも長けない普通の人間なら数分と持たない。
力が徐々に奪われる中そんな状況でも頭は冷静だった。普通じゃない、今更だがあれは”魔道具”なのか?”魔道具”は通常魔力を動力として動く、それにしては本来の”魔道具”ではあり得ない程に力が強大であり何よりあの自立し、人を関与させず動く様はまるで知性の高い魔獣。

もって後十数分、彼女の封印が上手くいかなかった時、その時は大きく魔力を身体中から放ち身体中に覆う砂を攘うしかない。その時サニアにもきっと大きく被害を受ける。それ以前に彼女が無事かも分からない。
覆い尽くした大量の砂だけが動いてるわけではない、部屋の壁や落ちている砂、漂舞う砂埃さえも集い彼女に襲い掛かるだろう。自身に残された力を計算しタイムリミットを決め力を貯めた。

そんな束の間の事だ、バラバラと何かが落ちる音が耳元から響き聞こえだすと同時に視界は徐々に薄く光を通し、砂がパラパラと崩れだす。徐々に体の自由は解かれていく中視界は完全に晴れ、体に纏わりつく砂を攘うと目の前には血だらけの彼女が箱から手を離し座り込んでいた。
その光景に言葉も出ずそっと彼女の顔を覗くと微かに息を吐き虚の目を必死に開けながら小さな声で言う。

「リフレシア・・・出来た」
「ボロボロだな、だが良く出来た」
「リフレシアを助けなくちゃって・・・必死になってたら・・・」

彼女はそんな言葉を残しパタリと横に倒れるがしっかりと息は出来ていた、とりあえずは死なずに済んだと言うところだが呼吸は荒く危険な状態には違いはない。彼女の目の前にある血だらけの箱と彼女自身拾い上げ背に乗せ急いで地下牢ダンジョンを後にした。
出入り口直前には地下牢ダンジョンは地響きと共に大きく崩れ、跡形もなく入り口のあった場所は砂に埋もれ、地下牢ダンジョンのあった場所には大きな円錐の窪みが出来直ぐ様に流砂は徐々に窪みに流れ込みついには跡形もなく砂の地平と化していた。

「これでついに隠れ家も無くなったな、さてどうするか・・・なんていうのも愚問だな」

血だらけになった彼女をオアシスで簡単に綺麗にし、不慣れな回復魔法を使うがやはり完全には傷の回復は出来なかった。隣でスヤスヤと眠る彼女を横目にあの旗が封印された箱を眺め考えた。

「さて、どうしたものか・・・」

いや、悩む事など何もない、もうここには長居出来ない。そしてこの箱を持ったままここから離れたのちどうするのか。
彼女が起きるまでの数時間色々と考える。
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