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1章 死神の白魔法
30 遺体
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「成程、死体を”そのまま残す”のが自分がまだこの土地にいる事を示す。それで死体を”破棄”、もしくは”消す”のが合流、もしくはその場所から離れた。死体の手を組むのが”作戦中止”のサイン・・・ねぇ・・・・。随分と凝った事するなと言いたい所だが、ただの死体だった場合誤認するだろ?そこらへんの区別はあるのか?」
「死体に特殊な香水をかけるから匂いで分かる。ただその香りも特殊調合された匂いでただの香水じゃなくて、ほんとに微かに香る程度だから部隊に長く在籍していないと分からないんだけど・・・。
最初あの遺体を見た時はその匂いが微かにして、後になって気がついた。あれの匂いは”カスレミレ”と同じ匂いだった。だから最初その匂いを嗅いだ時違和感を感じたんだけど、サニアさんのお父さんが”カスレミレ”を育てていた事もあって疑いは消えてしまったんだよね」
「それで予め最初に、亡骸の手を組ませてそのまま置いといたのか」
「一応ね、まさかとは思ってたけど。それに作戦中止を意味する遺体の手を組ませるっていうのはちゃんと意味があって安らかに眠れます様にって意味があるんだ」
「馬鹿らしい、死んだら何もならんだろ。だとして、今その亡骸がない今あいつは仲間と合流したと言う事だよな?”作戦中止”の合図は無視して」
「分からない、合流していたのなら二人・・・いや何十人の可能性もあるけどまとめてかかって私を襲えば良かったのに・・・」
「なあ、ところでお前そのサインを知っているのなら同じ所にいた同業者じゃないのか?」
「違うんだけど・・・なんて言えば良いか・・・。
彼は自らの部隊を”sEEkEr”って名乗っていた。確かに私は過去に部隊にいた事があるけど、そんな名前じゃない。随分と前に解体したのもある、だけど恐らく設立者は同じだと思う。遺体のサインが同じだった事やあの男の反応だと恐らくあってる」
「仲間なのかそいつら?」
とても分かり易く明確な質問、しかしそれだけで語れるほど設立者の彼の考えは分からない。すぐに返答を返すことが出来なかった。問い詰める様に彼女はもう一度聞き返された時、ちょうど良い答えを出すことが出来た。
「分からない、少なくとも今は敵には違いない。あなたにとっては」
「お前にとってはどうなんだ?」
「あなたの元へといる限りは敵だと思う。どちらにせよ”マグ・メル”でこの街の人たちを消したことは許してはいけない・・・、私が標的ではないにしろどうにかしたい気持ちはある・・・けど・・・」
「なら満場一致で敵だな。心置きなく潰せるじゃないか」
「私の敵かどうか分からなかった殺さずにいたの?」
「いや。・・・・まあそうだな。あとで揉めるのも面倒だし、これ以上ゴタゴタ言われる様なら殺しかねんからな。後で確認した方がまだ手間が無いと思ってな」
殺されるんだ・・・。これ以上何か言うのやめたほうが良さそう。
「合流した合図が遺体を隠す事なら。その仲間はなんであいつを助けなかったんだろうな?近くにはいたんじゃないか?」
「それもそうか・・・あなたが急に出てきたからかな?」
「そうだろうな、あそこまで力の差を見せつければ出て来たくもないだろうな」
「自分で言うんだそれ」
「さて、相手の人数も分からんときた、これからどうする?」
「とりあえずこの”マグ・メル”を封印しよう。今ならあなたも出来るんだよね?」
「邪魔さえ入らなければ恐らくな、こいつが動かす魔力はだいぶ封印出来たと思う、少なくとも全盛期の8割はないだろうな」
それを聞き私は改めてゾッとした。あの男に襲われている時だけでもあれ程までの威力で自在に動く砂に襲われ一命を奪われるまで追い込まれたのだから。きっと完全体の”フィアー・スター”なら一瞬で私は殺されていた。
「どちらにせよオアシスのあるところまで戻らないと箱も無いし」
「・・・・、ああそうか。忘れていた」
リフレシアはそう言うと外へと出ていき待ちぼうけいをする暇もないほどに早いうちに鞄と杖を持ち出して来て目の前に下ろした。見覚えのあるカバンに杖、それは私の杖と荷物、そして”リオラ”の荷物。
「これ・・・とって来たの?」
「そんな早く取りに行けるか、持ってきて近くに隠してたんだ。まあここから距離はある所だが」
「用意周到というか抜け目がないというか」
「素直に褒めろ、というか敬えバカ」
「ありがとう・・・杖まで」
颯爽とまず最初に杖を強く抱きしめていると不思議そうにリフレシアは顔を近づけ言う。
「そんなにそれ大事なのか?高いのか?」
「え?あぁ、うんそうだよ。別に高いものじゃないけど」
「強いのか?」
「全然」
「妙に嬉しそうだな」
「大事な物だったからつい・・・、この一件が終わったら探すつもりだったんだけど、良かった~」
「それ価値があれば売ろうかと思ったんだが、どう見ても古びた杖だったもんで折ろうか悩んだんだよな」
「言う必要ないよね?」
そう言いながら淡々と封印の準備を進めていた彼女は荷物から一つの箱を取り出し、早速”フィアー・スター”を片手に目の前に置いた箱を前で唱え始める。
「シーリングイン”フィアー・スター”!!」
その一言や動作には一見すれば詠唱や儀式などと言った類と呼ぶにはお粗末なただの叫び、しかし瞬く間に”フィアー・スター”と開けられた空の箱に夥しい量の魔法陣とそこに書かれた式が包み込む。
それはほんの一瞬の出来事、魔法陣に包まれた二つは宙へと浮かび”フィアー・スター”はどんどんとその形のまま縮小し始めその大きさは丁度箱に収まるほどにまでとなり、静かに箱の中へと入りパタリと音も立てず、入った箱はゆっくりと閉じられた。
ふわふわと浮かびリフレシアの手の中へと落ちてゆくと、先程までの魔法陣はサラサラと光の粒子と共に儚く散った。終始呆気に取られた、見入ってしまう。
「恐らくこれで良いだろう」
「す・・・すごい」
「掛け声はなんでも良いんだが・・・なんかそれっぽい方がこれを使う時イメージし易くてな」
「『戻れ』のほうが早くて良くない?」
「普段使いしそうな言葉は唱えると不味いだろ」
魔法の基礎、イメージ。それは魔法を唱える時の魔力を想像で形作り発動し放つ。
その時思い浮かべる魔法を唱える時わざと名前を付けるとイメージしやすくパーティなら連携も取りやすかったり、詠唱を必要とする魔法ですら名前を呼ぶ魔術師がいる程に重要な基礎。
勿論、呼ばない方が強い場合もあったりするが、かなり難しく上級者でも無ければ出来ない。
「そういう事なんだ・・・まあ普段使いする様な詠唱も魔法の名前ってないもんね・・・」
「しかしやっと封印出来たが、今度開けたらもう二度とやりたくはないな」
リフレシアが語るこの”マグ・メル”はこれが発動する際に要する魔力を少しづつ削る様に封印し、”フィアー・スター”本体の力を弱めていったと言う事。
つまりここまで”フィアー・スター”の力を封じなければ本体を封じ込められないと言う事。どれほどの力があるかは、あの弱らせている時点の本体である”フィアー・スター”が封印される際の魔法陣の膨大な量と式の情報量で一目分かる程に強大だと言う事・・・、あれでも封印出来ない。
「今度は絶対手放さないで守り切ろう。サニアさんの為にも」
「手放したところで今度は封印を解く術がないからひとまずは大丈夫だろうな」
「・・・その事なんだけど」
私は荷物の入ったリュックから一冊の本を取り出し彼女に渡した。それはサニアさんの父が死ぬ間際まで持っていた血がついた本。
「これがどうした」
「サニアさんにこの本渡そうか悩んだんだけど、お父さんの形見には違いないから渡すべきなんだろうけど・・・。迷ってて・・・」
「言い訳はいい・・・というかこんな事態だって言うのにこの汚い本を読めって言うのか?」
「私は少し読んだんだけど・・・最後まで読めなかった。リフレシアは本読める?」
「バカにするな、これくらい読める。・・・・まあ汚いから字が滲んで多少読めん所もあるだろうが」
彼女はパラパラと血の汚れで伏字となった箇所を端折り読み出すと、ページが進むにつれ進む手は次第にゆっくりとなりたまに巻き戻る様に本を読み進めていた。黙ったまま読み進める彼女の顔は真剣だった。
本を読み進める途中、終わり際に一つため息をし彼女は口をひらく。
「お前、読めないんじゃなくて読みたくなかったんだろ?よくこんなのサニアに渡そうとしたな」
「・・・ごめんなさい、やっぱりそうだよね」
「・・・・。お前、どこまで読んだ?」
「最初から5ページまで」
「まあそうだろうな」
5ページ目までの内容。それは人体実験とそれに伴う魔法陣に式、内容は人体実験による『マグ・メル人間兵器』の作り方とその実験経過報告書のまとめ。それ以降のページの内容は大凡予想がつく。
「ご丁寧に作り方に材料まで書いてあったぞ?実験結果に何人試したかまでな」
意地悪く彼女は言い、それが記載されているであろうページまで開きこちらに向けた。睨んで見せると彼女は揶揄い終え満足した様に再び本と向き合い言う。
「サニアは丁度10人目の成功作、その力は未だ不明。しかし成功以降も実験における度重なる失敗により死ぬ間際に見せた複数体は同一の力を見せた事からこの能力を有しているとされる。だそうだ」
淡々と読み進めるリフレシア。内容は驚愕的なものであったにも関わらず、大凡予想は出来ていた私は耳を塞ぎたい程にその内容は中々に酷いもので、途中からは右から左へと聞き逃す様に意識した。
ひとしきり読み終えた彼女は一息つき、苦々しい顔をしていたであろう私を見て少しニヤついていた。なんということもなく平然と本を読む彼女の姿も相まって、本当に人に読み聞かせられているのではないかと錯覚してしまうくらいにスラスラと本を読んでいる。
「リフレシアって凄いね」
「なんだ急に、褒めても本の内容は読み聞かせるからな」
本当に急に思い、出た言葉だった。何故なら普通に人と共に生きる魔獣でさえ文字の読み書きが出来ない魔獣は多い。言葉は発せても読み書きが出来ない魔獣なんてザラにいる。そんな中で人の世を脅かし人との共存を拒絶し生きた龍や魔獣が人の文化を取り入れていると言うのはとても考えにくい。
そしてあの魔獣と人が争っていた渦中にいたであろうリフレシアがなんの事もなく本を読める程に字を学んでいたなんて。正直凄いと思った。
「だって本読めるんでしょ?やっぱり龍位の上級魔獣になると文字を読めるの?私凄い苦労したから」
「バカかお前、俺だって苦労・・・いや、余裕だった。・・・・。まあ母が人間の作るものに関心のある方で書庫に本もあって母と良く読んでいたからな・・・・、言っていなかったか?」
「言ったっけ?」
「まあいい、ともかく本の内容だが。お前が嫌がるならもう少し読み進めるが。要するにサニア以降の実験で、もしかすれば封印の開け閉めが出来る存在をまた作り上げる可能性があるって事だな?」
「本の内容からすればそうなるね。この"マグ・メル"は現段階では私達以外に手渡せない、もうこの土地に収め再び隠す事が出来ない。
分かったことはサニアさんの父は非人道的な実験を繰り返す機関のもとで働いていてサニアさんを作っていて、以降も実験は続いている。その実験経過の延長線上でサニアさんの経過観察。それに”フィアー・スター”」
「どうやら俺達、とんでもないことに巻き込まれた被害者の会って所だな・・・、火中の栗とはまさにこいつの事を言っている様だ」
彼女は「こんな物がな」とクルクルと指先で器用に”フィアー・スター”の入った箱を回しながらため息をついた。
偶然とはいえ手にしたあれを”こんな物”と言えてしまうのは無知からくる物なのか、威厳ある龍としての貫禄から来る物なのか・・・。今現在仲間である彼女が頼りに思えてしまう・・・事実これを止める力は彼女にしか今はない。
「それにしてもサニアさんを作った組織、そしてあの男がいる”sEEkEr”。敵対している・・・でいいのかな」
「サニア自身はともかくとしてあの父親っていう男すらも知らなかった。ならその線が一番最初に考えうる可能性の話だな。まあ色々思いつくことはあるな、まあ考察の域は出ん。だがすぐに分かる方法がある」
彼女の鼻高々に提案する名案、それは誰もが考えうる一番の選択肢だが、一番に外れやすい選択肢。
「”sEEkEr”という奴らの人間が今この地にいるなら、とっ捕まえて洗いざらい吐かせればいい」
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