白魔道師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~

世見人 白図 (ヨミヒト シラズ)

文字の大きさ
32 / 40
1章 死神の白魔法

31 ビヨンド ユア ワーズ

しおりを挟む
37

「さっきも言ったけど、私はこれ以上必要以上に戦いたくない・・・」
「戦えないんだろ?戦意喪失ってところか?腰抜け」
「勿論戦う意志がないと言えばそうだけど、体の傷がまだ痛むのもあって全然動けない。これ以上戦えば間違いなく無事では済まない。私はこの荷物を届ける役目がある」

目線にあるリオラの荷物。それを追う様に彼女の目線はリオラの荷物の方を見る。

「お前にとってこれがどれだけ重要なものかは知らんが、俺にとってこいつはどうでもいい。なんなら今、お前が俺と行動を共にする上で、思い悩む様な障害になる邪魔なものなら消してもいい。俺にとってあいつは直接的ではないにしろ手下を殺した一人には違いないんだからな」

本気の冗談ではない事を目が示している。彼女にとって気に食わない相手である事には変わりない、そして本当にそうだったに違いない。
けれどここで引き下がる訳にはいかなかった。

「リオラという人がどういう人だったかは関係ない。その人を大切に思っていた人が彼の形見を待ってる、だからその人が生きた証として残した物をどんな危険な場所でも回収して私達が届ける。それが私の仕事だから、リオラさん・・・”[スターキャリアー]リオラ”だってそうだったはず」

「なんだ?その言い方だとリオラとかいうやつのこと知っていたのか?」

詰め寄る彼女に押し負けぬよう答える。

「知らない、スターキャリアーは仕事の都合上ほとんど面識はないけど、危険な上に他の仕事に比べれば死ぬ事だって人一番多い仕事・・・、私はそんな仕事をしていた”[スターキャリアー]リオラ”を尊敬している」

その言葉に腹を立てた彼女の反抗するように口調は少し強く当たるようになる。
当然と言えば当然だ。

「誰かを私欲の為に殺そうとしていてもか?お前はそんな奴すら尊敬に値するのか?」

意気揚々と語った言葉をすんなりと跳ね除ける様に彼女の言葉は私の思いと裏腹に鋭く貫く。分かりきったそんな事に言葉として返す事が出来なかった。
その一瞬の間にリフレシアは「ほらな」と何か呆れた様な表情を見せ、

気が付けば勢いよく私は打たれていた。
その一瞬の出来事に不意をつかれ何が起こったか理解が出来ない私に彼女は表情一つ変えずに言う。

「お前のそのどっちつかずの言葉にもうウンザリだ。お前、自身に信念は無いのか?」
「・・・ある」
「じゃあお前はリオラという馬鹿が間違いを犯していない、サニアが悪いと思うか?」
「それは・・・」

「じゃあ殺されたサニアが正しくて、リオラが悪いんだな?
お前の尊敬するそいつはただ私欲で殺した大マヌケだ、誰が為とか胡散臭い屁理屈は抜きだ。
そいつが本性だったんだ。いいか、お前の思う平等も中立も結局お前が無関心なだけなんだよ、誰にも寄り添えない、誰にも干渉せず自分だけが傷つかない。お前は卑怯者だ。それともお前は誰かを殺した時そう言い訳出来るように言ってるのか?」

「ちがう!!」

「違わないな。お前、誰にでも良い顔しようとして誰も傷つかない様にして、結果それに誰も救われず誰かを傷付けてるんじゃないのか?誰に好かれたいんだ?お前はどうなんだ?お前は誰にでも正義があって悪はない、皆平等だと思ってるのか?中立のつもりなんだろうがお前は自分自身の言葉も考えもないただ一歩引いて遠くから中立気取って、そんな奴が偉そうに説教か?本当にお前そう思っているのか?誰にでも愛想良くしていればお前は誰からも好いて貰えているのか?」

その言葉は私に的確に抉る様に刺さった。
誰にも嫌われない様に誰からも好かれる様にしようと心がけた。まるで分かったように言い聞かせる様に中立で正当化しながら。何度も自分の中でそれで納得していたらいつかそれが普通になっていた。
誰も傷付けないつもりが、誰かを傷つけ自分は傷つかない様にしているだけ、違う。本当は周りに見えるもの全てに愛され、許されたいなんて烏滸がましい事を未だに願っていた。


「私は・・・そんなつもりじゃ・・・」

何を焦っているのだろう、私は必死に弁解しようとした。しかし私は私の中で今まで答えた持ち合わせの自分の言葉が嫌に成程繰り返され、そのどれもが彼女の言う言葉に刺さり、返す言葉はそれ以上続けて出て来ない。口は動く、けれど声が、言葉が出ない。

「・・・お前、人間になりたかったって言ってたよな?その後お前、容姿だけで嫌われる事はあっても、好きでいてくれる人はいる、だから今は魔獣である事を否定したくない。けど人間であればもっと生きやすかった。だったか?お前はどっちなんだ?獣で良かったのか?人間になりたかったのか?」

「それは・・・人になりたかったのは昔の事で・・・」
「今はどうなんだ?自分で矛盾した事を言っているの気がついていないのか?」

即答出来い。それが今の私を表すには十分な程、無様に。
私は考える間もなく彼女に再び頬を打たれ、追い打ちをかける様に問いかけられる。

「寝てるのか?それとも俺の質問が理解できなかったのか?」

言葉も無い。言われるがまま、今の彼女に返す言葉等、私にそんな事を自信を持って語れる程の発言力なんて今は皆無に等しい。
やるせないその気持ちはいつか怒りに変わり燃え上がる様にお腹が熱くなりふつふつと心臓は強く動き、私は遂に声を出し言う。

「私は・・・きっと間違える」

つい口に出た言葉はそんな情けない言葉。恥ずかしくて誰にも話したくない、まるで自分を表す様な。

「間違える?何をだ?」
「私の信じた、私の思いも行動も間違え続けた・・・だから私はもう分からない、私の選んだことはきっとまた誰かを傷つける」
「だからどっちつかずなのか?そんな言い訳を・・・」
「言い訳でも嘘なんかでもない!!!」

怒鳴ってしまった。感情的に彼女に言葉をぶつけると少し驚いた様子を見せる彼女はため息をつく。呆れた様な哀れむ様なそのどこか見下したとも見える態度に私は投げつける様にいつの間にかさっきまで声も出せなかったのが嘘の様に息をするのも忘れ声を荒らげていた。

「私は魔獣がもっと世界で認められ愛される世界にしたかった!平和になれば、私が頑張れば認められると思った!けど、どれだけ頑張ってもダメだった!誰にも嫌われない誰かの役に立ちたかった!!でも・・・でも・・・」

急に言葉が溢れる。誰にも吐き出せなかった言葉。
これ以上言うべきではない、そう思っていたのに、私には閉じ込めた何かが溢れる様に言葉になって漏れ出て止められなかった。
打ち明けその結果死ぬ事となっても良いとさえ思う程。

「私達は・・・"最厄の龍ピリオド"を、あなたのお父さんを殺した。世界が支配される以前の様に平和にすればきっと私の夢を、私達の夢は叶うと誰もが思った。けど現実はそうじゃ無かった・・・誰一人として・・・皆何も叶わなかった・・・。平和にも平等にもならなかった・・・」

いつしか徐々に冷静さを取り戻し、呼吸を荒らげさせながら吐き出した言葉。我に返り息を整えながらふと自分が言った言葉に少し後悔と罪悪感を覚え、彼女の顔を直視出来なかった。その折に彼女は大きくため息をつきながら頭を掻き少し落ち込んだ様子を見せていた。

「そうか、お前達に父は敗れたのか・・・。こんな半端で弱いやつにな・・・」

「・・・、強かったよ。ピリオド」

必死の擁護の一言に彼女は少し苦笑いを見せる。

「負けたなら意味の無い慰めだな、それにその程度のやつだったという事だ」
「・・・え?」
「お前のせいで俺はとんでもない勘違いで大きく"間違い"だったと恥じる羽目になった」
「どういう事・・・・?」

大きく「ハァ・・・」と言葉混じりの息を吐きその場に座り込むと彼女は少し俯きながら自身について話始める。

「俺は長く父と離れていた、それは俺が弱く幼かったからだ。偉大だと讃えられ、教えられていた父に認められたかった。それだけの為に本当に大切にしなければいけない者達を、共に過ごすべき時間さえも犠牲にしてだ。父が討たれた時、俺は初めて気付いた。あれとの繋がりなど血だけ、共にした時間さえも無い。親子とはなんだったのか疑問すらあったな。
力に固執し損失感だけが残り、本当に俺という存在を大切にしてくれていた者達を思いを踏みにじり、それに気が付き振り返れば俺の周りにはもう誰もいなかった。残ったのはこの行方知れずの力だけだ。

俺も周り見ずだ。力を手にし、それで何をしたかったのか等、犠牲にした物に比べれば下らないな。俺の最大の"間違い"だ」


私に投げ掛けた言葉は自身に対しての戒めの言葉でもあったのかもしれない。
彼女に打たれヒリヒリとする頬を撫で気がついた、手加減されている。
彼女なりの不器用な優しさなのだろうと受け止めた。
久しぶりだった。こんなに誰かに私と言う存在を見て話をしてくれる人がいた事。
突然の彼女の告白、境遇も立場も違う。


彼女は"最厄の龍ピリオド”の娘、この世を滅茶苦茶にした龍の一匹。

私はその龍を倒したパーティの一匹、しかし成し遂げた功績は結果として私の夢を潰える形となった。


正義と思い動くもの達が集い各々の自らの夢を乗せ、希望を胸に打ち倒した"災厄"は私達の誰もが信じていた結果にはならなかった。

本当に"最厄の龍ピリオド”を倒して良かったのだろうか?と思ってしまう程に、その時から私は分からなくなっていた。
度々そんな事思い返していていた。


彼女のその気持ちや言葉はきっと嘘ではない、そう感じさせる目の輝きはあの時感じた鋭く冷たい威圧感のある目はもうどこにも無かった。私は彼女の言葉に嘘のない言葉で返す。
それは礼儀であり彼女が教えてくれた事、無下にしてはならない。
覚悟を持って私は今の思いをハッキリと口にする。

「・・・ごめん、でも私は"最厄の龍ピリオド”を倒した事を間違っていないと思ってた。間違ってたとは思わない・・・。
怒らないで聞いて欲しい、けれど結果的に龍の支配が潰えた事によって、各国は土地争いの戦争が多発して、差別も被害者も死者もどんどん酷くなっていった・・・こんな事になるのならもっと龍達や反対勢力である魔獣達とも平和的に解決出来ればこうはならなかったのかもしれないなんて思っていると何が正解で何がダメなのか私にはやっぱり分からない・・・」

「分かるものか愚か者が、小説や御伽噺の世界の住人では無いんだ。偉大な俺ですら間違えを犯した、常に正解の答えなど選べる訳がない、中立である事が決して悪だとは言わん。だがな、お前には向いていないんだよ」


2匹というべきか、2人というべきか。
今日の出来事は疲れるには十分だった、私は彼女の隣に並ぶ様に座りひと息つく。静寂の中、部屋には私達の声だけが響く。

「なんで急にあんな事言ったの?」
「お前がどっちつかずでウザかったから説教してやろうと思った。まあ周りが見えていない所はまるで俺を見てるみたいでお前の事言えないなと思ったら何故か口に突いて出て話てた、それだけだ」

恥ずかしさを隠そうとしているのか見栄を張る彼女はそう言いながらもどこか落ち込んでる様にも見えた。

「ごめん、けど私嘘をついてた訳じゃないんだ。分からなくなってた、あなたに言われるまで。ありがとう」
「まあ部下の世話も出来ると分かれば俺の下に就くのも安泰だと分かっただろ?」
「でもやっぱり部下は嫌かな」
「何故だ」
「大変そうだから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...