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1章 死神の白魔法
32 ガールズマイティ
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「ねぇリフレシア。やっぱり私この荷物届ける為にとりあえずトリル・サンダラから出たい」
「あのなあ、俺は俺がしたい事をする。お前は俺に黙ってついていろ!」
「あなたはじゃあどうしたいの?」
「さっきも言ったが"sEEkEr"とかいうあいつでもあいつの仲間でもいいがとっ捕まえて洗いざらい吐かせる。ここまで来たんだ、あいつを殺して逆さにしてこの地に突き刺す」
「あのね、必要以上の戦いは避けたいのは本当だよ。それは私が戦えないから、それに私はあなたにもう誰も殺して欲しくない」
不満げな顔をするが私は目を逸らさず真っ直ぐと彼女の目を見て言う。
「これからあなたが旅をするのなら出来るだけ敵は作るべきじゃない、だからこそこれ以上あなたが不利な状況にしたくない、手荒な真似をあなたにしてほしくない」
「だがもうあいつらには目をつけられてるんだぞ?ただで済まないのならこっちから迎え撃ち、返り討ちにする以外無いだろう?お前もまともに戦えないんだろ?」
「勿論あの男含め仲間は私達を消しに来ると考えられる。けれどここから出てカラットへと戻れば何とかなる・・・と思う」
「カラット?なんだったか・・・お前の所属してるとかなんだか?・・・、ともかくお前そこまで言うんだ。手はあるのか?」
「あなたをあの"sEEkEr"っていう部隊から今後手を出させないようには多分出来る」
「随分と自信がある様だが、そもそもどうやってこの砂の土地から出るんだ?俺が元の姿へ戻って空から脱出でもするか?」
「・・・出来ればそれが一番避けたい、龍の姿がまた世間に広まれば混乱が起きる・・・それこそあなたは一生追われ続ける」
「だがこのままみすみすあいつらが逃してくれるとも思えんがな、言った通りこの町を抜ければ後は見渡しの良い砂の世界だ。あいつ遠距離の武器を持っていただろ?格好の餌食じゃないか」
「もし逃げられないのならその時はもう・・・戦うしかない」
「結局そうなるんじゃないか。まあ俺は強いからな、元の姿でなくとも十分戦えることはあの男との戦いで証明出来た。それにしてもだ」
彼女の手に持つ箱”マグ・メル”の入ったこの箱をどうするか、持っているだけでも重罪。
常に持ち歩くことは出来ない、手放さなければ私達はそれだけでも狙われる理由には十分過ぎる程厄介な物。
「そうだよね、それをどうにかしない限り私達は狙われる。ただでさえあなたは殺される可能性があるのにこんなもの持ってたら良い理由付けにされるだけなんだけど、もうこの土地に再び戻せない・・・」
「まああいつらがまた手にするだろうしな、どうせまた第二第三の”サニア”を作るはずだ。いっそ海の底に沈めるのはどうだ?」
「・・・限りなく手に入れられなくは出来るけど・・・」
「じゃあどうするんだ!!!」
しびれを切らし拳を作り今にも殴りかかろうとする彼女を宥めながら考えた。
封印したとは言えまた開かれる可能性は高い。それに海の底に沈めた所で今度はどんな手を使って手に入れるか・・・、予想は出来ないにしろ絶対に何か手を見つけ出すはず。
「やっぱり奴らの狙いを洗いざらい吐かせてから根絶やしにしたほうが早いんじゃないか?」
「・・・一つだけ、一つだけここから抜け出せてこの”マグ・メル”をどうにか出来る方法がある」
「なんだ?そいつとあの"sEEkEr"とかいうやつを海に沈めるか?」
「沈めない、ただあなたの力を貸してほしい。そして私を信じてほしい」
私は立ち上がり彼女に手を差し伸べると彼女にまだ何も伝えていないのに手に持っているマグ・メル”の封印された箱を手渡され驚いてしまった。その表情に満足そうな顔をし彼女も立ち上がり言う。
「バカ、そんな事言うくらいだ。これをお前が使うんだろ?それ位分かるわ。それで具体的にはどうするんだ?」
「ありがとう、リフレシア。”マグ・メル”、これを使ってこの町から出る」
「使えるのか?」
「分からない」
「お前それを使えず怖気付いていたよな?もし扱えず暴走でもしたらどうするんだ?」
「・・・、あなたの力で食い止めて欲しい」
ふざけてなんていない、真剣に言ったその言葉にニヤリと笑い私の頬をペチッと軽く手を当て彼女は言う。
「手下の尻拭いくらい造作もない、器の広さに感謝するが良い。その代わり忠義は持てよカペラ」
「うん、頼りにしてる」
「それで?どうするんだ」
「私がこれを使ってトリル・サンダラを出るまで防御に徹する。魔力を解放したフィアー・スターの力さえ借りられれば私もそれくらいの役には戦えるしあなたも戦わなくても良い」
「肝心のそいつはどうするんだ?まさか持ったままか?」
「ここから出て"sEEkEr"のボスに直接交渉材料として渡す」
ピクリと肩を動かし殺気を立てるリフレシア。私は怖けず話を続ける。
「最後まで聞いて、交渉は必須。それはあの組織のボスのやり方を知っているから」
「顔見知りなら助けてくれるってことか?」
「そんな人間じゃない。けどこれさえ差し出せば交渉の余地はある」
「結果お前が恐れていたあいつらにこの"魔導具"を引き渡すことになるんだぞ」
「うん、だから無力化して渡す」
「無力化?おい、封印した所でまた開ける手段を作るって話をさっきしてただろ」
「違うよ、封印するのはこの”マグ・メル”自身の力だけ」
「・・・成程な。ここから離れ持ち去ったのちにそいつの力とそいつ本体を分けて二つの箱に封印するのか。だが魔力の方はどうする?」
「おおよそこの仕組みに気がつくことは難しいと思うから私達が持っていても大丈夫だと思う、けどそれについても考えうる中で良い隠せる場所をいくつか思い当たる」
いかにも考えている風に彼女は手を顎につき考えしばらく黙ったままになる。やはり彼女にとってあれの脅威をよく知る一匹としては手放したくないのだろう。
「勿論あなたが持っていても良い、ただこの”マグ・メル”自体はやっぱり渡す、ただ所持していることは私の所属する機関に報告するから一応は"sEEkEr"の動きをそれで抑制も出来る」
「・・・俺が完全体のこいつを封印するのに俺だけ時間を要したか分かっているのか?」
「話だけだけど、実際にどれだけ苦労したかは分からない。けれど今度はサニアさんに変わって私も頑張る」
呆れて物も言えない、そんな表情の彼女はくすくすと笑い言う。
「おいおい、お前。まさかそれを扱えるかも分からなければ、完全に力を戻したそれの封印すら簡単に出来るとでも?急にそんな変われる程生き物ってのは進化できないぞ?」
「私一人なら絶対出来ない。あなたがいれば出来る気がする、今なら迷わずやってみたい」
私のまっすぐに答えたその言葉は真剣そのものだ。しかし彼女は私の頭を強く叩き言った。
「俺ばっかりじゃないか!!こき使いやがって!!何様だ!!」
「ご・・・ごめん」
「失敗したらお前覚えとけよ」
「じゃあ・・・」
「龍に二言は無い、濁しもしない。お前のそのバカみたいな無茶苦茶な作戦乗ってやるよ」
「ありがとう・・・。作戦は明日の朝決行しよう」
こうして私達はここから出るべくして、仮眠を取る時間を設け簡易的ではあるが最低限の連携を組み立て作戦を練る。何故だろう、ここまでの危険な賭けと戦いになるやも知れない大事な場面。
疲れがあったのだろうか、緊張は全くしなかった。すぐに眠りについてしまった。
日が上り、私達の目を覚ますその時、私達の脱走計画は決行される。
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