君が天使じゃありませんように

おつきさま。

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「佐田くんってさ、あんまり俺にキョーミないよね」
「興味?あるある、超あるよ」
「その返事がもう適当なんですが」

柵の向こうに立つ篠原と出会してから約二週間。
なぜか俺は昼休みに篠原と昼飯を食う仲になっていた。

「佐田くんたまごやき一つちょーだい」
「どうぞって言う前に取っていくよね、お前」

少し早めに起きて自分で用意している弁当の中から、ほんのり甘く仕上げたたまごやきを毎日一つ篠原が奪い去っていく。
別にいいけど。
いつもコンビニのパンばっかり食ってるから、少しでも栄養の足しになるならっていう優しさ。

「たまごやき。毎日綺麗に巻いてくるよね。めんどくねーの?たまにはスクランブルエッグでいいやーって思わない?俺ならグチャグチャにする」
「篠原が言うとサイコ感強いわ」
「え、心外」

ぱちぱちと目を瞬く度に篠原の長いまつ毛が揺れる。

「たまごやきは綺麗に巻かなくちゃいけないんだよ、そういうもんだから」
「思想つよ」
「って母さんがうるせーの」
「ああ、そういうね」

ぱちり、瞬きを一回。
言葉を咀嚼するように伏せたまつ毛が揺れる。
薄い微笑みを浮かべた顔が、落ちていく桜の花びらみたいだと思った。

「俺、佐田くんのその、全然俺にキョーミ無さそうな感じ好きだよ」

急になんだ、と思った後にああさっきの話かと思い至る。
篠原は多分深く考えずに思いついたことをそのまま口に出すから、会話の順序がめちゃくちゃになることが多い。

「例えば俺が明日死んだって、ああ死んだんだ、で片付けて朝にはもう忘れてるような、そういう冷めたところが好き」

コイツは人のことをなんだと思ってるんだろう。
褒め言葉を装った悪口にしか聞こえないけど、篠原のそれは本心のようで、言い終わった後なぜかうれしそうな顔で笑った。









いつか唯に聞いてみたいなって思ってた。
まだ俺のこと、そんな冷めた人間だと思ってんの?って。
今お前の隣にいる俺は、お前のことが好きで好きで堪らなくて。もしもお前が明日死んだら、一生忘れられないどころか迷わずその後を追いそうになるくらい重い男に成り下がったわけなんだけど。


それでもまだ、あの日と同じ笑顔で俺に好きって言ってくれる?


お前が好きだって言った俺が、もうどこにもいなくても。





ああツイてないな。


その光景を見て真っ先に思ったことがそれ。


予兆のように今日は朝からツイてなかった。
目覚ましをかけ忘れて遅刻しそうになるし、慌てたせいで気に入っていたマグカップを割るし、一週間後までにと言われていた資料をやっぱり今日中に提出しろとか言われるし、慰みに甘いものでも食べようと思ってコンビニに行けば目当てだったシュークリームの最後の一個を目の前で知らないおばさんに取られた。いやおばさんは別に悪くないんだけど。
今日も今日とて定時に上がれなかった虚しさを抱えて、金曜日だし頑張ったし気晴らしに飲みにでも行くかって同じく残業で残ってた後輩の松倉まつくらを引っ張って街に繰り出したらこれ。



さっきまでうるせーなって思ってたハイテンションな酔っ払いの笑い声と客引きの鬱陶しい声が急速に遠のいて、俺の目にはもうそれしか入らなくなる。
飲み屋が立ち並ぶこの通りは一本向こう側へと行けばホテル街へと続いている。
そんな場所で何気なく視線を向けた先、ビルとビルの隙間にある細い路地の入り口で身を寄せ合う男女の姿が目に入った。
酒が入った後にそこら辺でいちゃつき出す奴らは少なくない。そういう奴らのお仲間だろうなと呆れながら視線を逸らそうとして、結局逸らせなかったのは、男の髪色が中々見ないピンクなんていう派手な色をしていたからだ。

あ、唯と同じ色だ。
なんて思いながら通り過ぎそうになって、それが同じとかじゃなく唯であることに気付いた。
腕に絡み付く女にウザそうな顔をしながらも、顔を近づけられた唯はそれを避けることはしなかった。
二人の姿が重なって、女の手のひらが包み込むように唯の頬に触れる。
いつも傷を作ってくる度に俺が手当てをしてやっている、うつくしい唯の頬に。

「は、先輩?え、泣いてんの?!なになに、大丈夫すか!?」

隣で松倉が騒いでる声で初めて自分が泣いてることに気づく。
路地の向こうに消えていく後ろ姿を見ながら言いようのない喪失感に襲われていた。

わかってたはずだった。
唯には腐るほど相手がいて、でも俺だけはなんでかダメで、キスもセックスも俺とはできないことをそいつらとはしてるんだって。
そんなのは当たり前にわかってて、でも別に、結局お前はいつも最後には俺を選ぶし、それが俺の望むものじゃなかったとしても俺がお前の特別であることに変わりはないって思ってた。

でも、なんでだろう。

きれいなあの頰に触れていいのは俺だけだって、そう思ってたから。
俺だけなんて本当は多分どこにもないんだって唐突に気付いちゃった。

「まつくら」
「え、はい。大丈夫ですか先輩」
「大丈夫じゃない。今日、俺んちでもいい?」
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