X.E.N.O.

スプライトふみを

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第一章

6.桃華と梓

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 ――10分後。俺たちは、笹島ビルの入り口前に到着した。
 この外壁がボロボロの廃墟は2週間後撤去予定の廃ビルだ。どうも今回のXENOはビル好きらしいな。
 建物周辺には『立ち入り禁止』と書かれたバリケードテープが貼られている。
 吉備里さんはバスターコートを身に纏い、準備万端といった感じだ。一方の俺はと言うと、緊張していて落ち着かない。

 「怖いですか?」
 「当然。あ、『情けねぇなコイツ』とか思った?」

 俺のセリフに吉備里さんはクスクスと笑う。そして俺の背中を優しく2度叩いた。

 「思わないですよ。新人で2度目の戦闘なんだから怖くて当たり前です」
 「そ、そう? ありがとう」

 大きく深呼吸をしてから入り口のドアを開く。いきなり飛び出してこないか警戒したが、その様子はない。ゆっくりと建物内に入ると、中は不気味なほど静かで暗い。
 俺達は懐中電灯で照らしながら一階ロビーを見渡す。すると床や壁の塗装が剥がれているのがわかった。心霊スポットのようにも思える。
 そして注意深く奥の2階へ上がる階段を見ると、人影が見えた。その人影は壁にもたれかかって座っている。吉備里さんが先に近づき、俺も後に続く。
 人影の正体はXENOでは無く、吉備里さん曰く調査班の人間だった。軍人とまではいかないが、それらしい装備を身に付けており、俺よりよっぽど頼りになりそうな風貌だ。しかし、攻撃を受けたのか少し苦しそうに呼吸をしている。

 「怪我は?」
 「左足が折れてます。それと多分肋骨も……」
 「そう、他のメンバーはどこ?」
 「上の階です。俺以外の6人が追ってます」
 「ん、わかった」

 俺達は調査班の男を後にして上の階を目指すことにした。



 ――2階。
 ここも1階同様静かなものだった。元からなのかどうかはわからないが、荒らされた形跡がある。

 「このビル何階まであるんだっけ?」
 「たしか8階ですね」

 まだまだ先は長い。でも、もしかしたら最上階に着く前に出会うかもしれないな。
 俺は両手で頬を叩いて気を引き締めた。


 3階を過ぎて4階に上がってくる途中、上から叫び声が聞こえてきた。俺達は急いで階段を駆け上がり、声の発せられた場所へ向かう。そして4階へ着くと、5人の倒れている姿があった。天井には大きな穴が開いている。
 倒れている調査班達の元へ駆け寄る。皆体の至る所が獣に切り裂かれたような爪痕が出来ていた。ほとんどが意識を失っていたが、その中で1人まだ意識がある者がいた。

 「大丈夫か!?」
 「だ、誰だアンタ……」
 「この人は私の新しい相棒だよ。それより奴はどこ?」

 息も絶え絶えで口から血を流しているその男は、吉備里さんの顔を見ると安堵した表情を浮かべた。

 「悪いなリーダー。俺達大した足止めが出来なかった」
 「いいからXENOの行方を教えて」
 「今班員の『井出』が一人で追っている。恐らく6階より上まで行っている」
 「ありがとう」

 吉備里さんは俺の肩を叩いて一緒に来るよう促してきた。


 
 「俺って君の相棒扱いなの?」

 6階への階段を上がりながら俺は吉備里さんへ質問を投げかけた。
 彼女はこちらへ顔を向けずに上を見ながら歩を進めている。

 「そうですよ。とは言え『仮』ですけど」
 「相棒(仮)ってことか。いいね」
 「頼りにしてますよ」

 言葉とは裏腹に素っ気ない言い方だ。まあ、俺は知識も経験も無い素人だから仕方ないか。
 しかしずっと階段を上がるのはキツイな。だいぶ足が疲れてきた。

 やっと6階へ着き、安心したのも束の間、今回のターゲットであるXENO「ヴェル」が調査班の井出の首を掴み、俺達目がけて投げつけてきた。

 「うわ!」
 
 投げられた井出は俺と衝突し、そのまま後ろへ倒れ込んでしまった。
 上体を起こしてぐったりと俺の上で倒れ込んでいる井出を起こそうとするが、彼は何も反応しない。

 「おい、しっかりしろ!」

 息はあるみたいだが依然反応は無い。一方吉備里さんはヴェルの元へ歩み寄っていた。

 「へぇ、第4級か。あの鮫より強いんだ」

 吉備里さんは奴の目の前で動じることなく、腕に付けた探知機をいじっている。
 ヴェルはライオンのような大きなたてがみを生やしており、顔つきもまさに獰猛な獣といった感じだ。筋骨隆々な体つきで、相当力が強いと見える。

 「さっきの連中とは違うな。お前はただの人間じゃないな?」

 ドスの効いた声を発し、ニヤリと笑う。そして両手の鋭い爪を伸ばした。

 次の瞬間右手で吉備里さんを切り裂きにかかった。しかし、彼女は素早く身をかわす。そして左足で相手の顔面に強烈な回し蹴りを決めた。
 クリーンヒットと思われたが、奴はよろけることなく同じように今度は左手の爪で攻撃をする。一瞬回避が遅れて彼女のコートが切り裂かれた。
 劣勢とまではいかないだろうが、前回の戦いよりはキツそうだ。
 俺は踊り場に井出を寝かせて吉備里さんへ加勢することにした。そして持ってきた№10エア・ブラスターを取り出し、2回スライドを引いてヴェルを目がけて発砲した。
 空気の弾丸は奴の左肩に当たった。そう、当たっただけだ。何もダメージは入っていないようだ。

 「それなら今度は……」

 思い切って3回スライドを引く。これならなんとかダメージを与えられるだろう。

 発砲した瞬間とてつもない反動がかかり、腕が抜けるんじゃないかと思うくらいに銃身が跳ね上がった。
 そのかわり今度は奴が後ろに倒れた。
 
 「吉備里さん! 今のうちに!」
 「オッケー!」

 勢いよく吉備里さんは跳び込もうとしたが、それは防がれてしまった。ヴェルは近くにあった瓦礫を彼女に何個も投げつけてきたのだ。
 ヴェルは立ち上がり吉備里さんを睨み付け、瓦礫を投げつけながら向かっていった。
 俺はなんとか食い止めようと再びブラスターのスライドを引こうとしたが、動かない。
 3回は無理があったのか、壊れたようだった。

 仕方がないので別のガジェットで戦うことにする。次は足首に装備して使う№5ストロング・ジェット。
 小型のジェットエンジンのような形をしていて、それなりに重い。これは親父の説明によると蹴りの威力が格段に上がるらしい。
 それと以前も使った№7XENO STRIKE(X・S)をはめて援護へ向かった。



 

 

 ――結果は惨敗。いや、まだ決着がついたわけではないか。
 彼女の言うとおり「あの鮫より強い」ってのは本当だ。全然強さが違う。
 威勢よく挑んだまでは良かったがパンチ一発脇腹に入れられただけでダウンだ。情けない。その後ゴミを放り投げるように投げ飛ばされて瓦礫に突っ込んでしまった。

 あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。頭がぼんやりしているし、うまく体が動かない。俺はここで二人の戦いを見ていることしかできない。

 せっかく吉備里さんが「相棒」と呼んでくれたのにこれじゃあ格好悪すぎる。なんとかアイツに一矢報いたいところだ。
 戦況はお互い五分と言ったところか。吉備里さんも息が上がってきたし、ヴェルも攻撃を受けてよろけたり、動きが鈍くなったりしてきている。

 「そろそろ決めたいね」
 
 彼女はそう言うと少し前屈みに態勢を変える。すると両腕があの鬼龍の腕(鬼のようでいて龍とも取れる見た目なので勝手にそう呼んでる)に変化した。よく見ると歯も鋭い牙が生えている。薄ら笑いを浮かべ、まるで別人。せっかくの美人が台無し。

 「貴様、血を飲んでいるのか」

 ヴェルは少し驚いた様子だった。その一瞬の隙をついて吉備里さんは強烈な右フックを顔面に食らわせた。そのままヴェルはよろけて尻もちをついた。

 「とどめだ!!」

 彼女はもう一方の手で追撃を仕掛けたが、ヴェルはその手に噛みついた。そしてあろうことかそのまま食い千切ってみせた。吉備里さんは痛みで顔を歪め、半分失った左手を庇うようににして後ずさる。
 
 「馬鹿が。勝負を急ぎすぎたな」

 噛み千切った手を吐き捨て、悠然と立ち上がる。そのまま吉備里さんに近づき、思い切り腹を蹴り上げた。彼女は膝をつき、口からわずかではあるが血が滴り落ちた。その後もヴェルは何度か彼女の顔を蹴り続けてから、首を掴み上げた。しかし、彼女は余裕があるかのように笑って見せた。

 「何故笑っていられる?」
 「さあ?」

 ヴェルは憤慨し、空いているもう一方の手から伸びているあの鋭利な爪で吉備里さんの胸を貫いた。
 そして窓から彼女を投げ捨ててしまった。

 「さて、あとはお前だけだ」

 振り向いて俺を睨む。
 どうする? バスターである吉備里さんがやられた。俺にどうにか出来るってのか!?


 ――親父ならどうする? こういう時、親父ならどうした?
 
 あの時、俺が勝てなくて悩んでいた時、親父は何て言っていた?




 〈同級生に勝てないー?〉
 「うん、勝てないんだ。いっつも負けちゃう」
 〈なんで勝てないと思う?〉
 「だって、俺より体も大きいし空手を始めるのも俺より先だったから」
 〈え? なにそれ女々しいーー! うわぁ息子だと思って小学5年生まで育てた我が子がまさか娘だったとはーー! ショック!〉
 「うるさいな!」
 〈まあ、そう怒るなって。いわゆるファミリージョークだ〉
 「意味わかんない」
 〈わかれ。で、なんで勝てねぇかっていうとだな、その子とお前の胆力の違いだ〉
 「それだけ?」
 〈厳密には経験とか技術もあるが、大切なのは精神力だと俺は思ってんの。いいか、お前は試合をする前にもう負けてんだよ。相手の体格とかを気にして勝手に敵わないと思ってる。絶対勝つって思いながら修練するんだ。そして本番も絶対勝つって思え〉

 その後の試合で俺は負けた。その次も、またその次も負けた。だけどやっとその次で勝った。
 勝った時、親父に結果を報告すると、親父は腹立つくらいのドヤ顔で俺の頭を撫でてきた。





 ――相手は人間じゃない。あの時みたいに何回か試合があるわけじゃない。一発勝負。
 だけど、俺には武器がある。あと足りないのは俺の覚悟。


 一念発起してなんとか立ち上がる。本当になんとか立てた感じだ。
 奴は首を鳴らしながら歩いてくる。完全に舐められている。
 いいさ、そのまま油断していろ。
 俺は足首に着けているストロング・ジェットを起動させる。そして思い切り走り出し、やられたお返しと言わんばかりに奴の脇腹目がけて回し蹴りを放った。
 自分でも信じられないほどの速度だった。目で追えないほどの蹴りの速さ。当たった瞬間ヴェルはいとも簡単に吹っ飛んだ。

 「すげぇ……」

 このガジェットが近接最強な気がする。足は多少痺れたが、気になるほどではない。
 飛んだ方へ視線を向けると、崩れた壁を押し退け、ヴェルが向かってくるのが見える。俺はすかさず拳に力を溜め、X・Sを発動させつつ奴の懐へ飛び込んだ。
 これで決められるかもしれない。吉備里さんとの戦いでダメージは蓄積されているだろうからこの攻撃で完全にダウンさせられる可能性がある。
 俺は渾身の一撃をヴェルの顎に当てた。大きな電流が奴の体に走り、苦痛の叫び声をあげた。

 「決まってくれ!」

 だが、決まらなかった。かなり弱ったようだが、まだ倒れない。
 ヴェルは爪で俺を切り裂こうと攻撃してきたが、これをなんとか避ける。その隙に奴は階段へ向かって跳んでいった。

 「クソっ!」

 
 急いで俺も後を追うが、うまく走れない。それにひきかえ奴は階段を軽やかに跳び上がっていく。
 ここまで追い詰めたんだ。なんとしてもアイツを倒す。

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