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4章 白豚腐女子×軟派騎士=?
4-4
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エヴァとゼスト様は歌劇場から馬車に乗り、高級レストランへと移動した。
王都には沢山の飲食店があるが、最近は隣の国の料理が流行っている。
レストランは隣国のドイン料理のお店だった。エヴァの大好物である。ナンシー様が留学していたのでこの国の事も沢山教えてもらった。ここだけの話、ドイン国は前世のインドそっくりなのである。つまり香辛料の国なのだ。スパイシーで良い匂いの香辛料を使ったものがドイン料理の特徴だ。
だからドイン国の料理が苦手な人もいる。それでもドイン料理をデートに選択したと言う事は、コレは多分うちの屋敷の使用人から情報を得ているわね。さすがチャラ男、隠キャにはできない情報収集能力。
ゼスト様の新しい長所を感じながら、エヴァは出された料理に舌鼓を打っていた。ディナーには少し早い時間だけど、観劇で涙を流して興奮したエヴァは十分食べることができた。
美味しい美味しいと、喜んで食べていると、対面から何か眩しいオーラを感じる。
目を細めて確認してみると、ゼスト様は料理を食べているエヴァをニコニコと見守っていた。うう、顔が整い過ぎて眩しい。
目が合うと彼が口を開いた。
「エヴァ嬢は食べるのがとても好きなんだな」
微笑ましい顔をして、ゼスト様が切り出した。
「お、お恥ずかしいですわ…私ったら…」
エヴァはデート中であることも忘れて目の前の食事に集中してしまっていることに気付いた。
前世から美味しい物には目が無いエヴァは食い意地のはった自分に、少し恥ずかしくなった。
「いや、気にするな、君が好きだと聞いたから、ここに連れてきたんだ。美味しそうに食べてくれて、嬉しいよ」
「ありがとうございます」
自分はどうも集中すると周りが見えなくなる。そのせいもあって前の婚約者に捨てられたというのに…
「君と初めて話した時も、何か食べていたね」
「それは…言わないでくださいませ」
エヴァは思い出して、嫌な気分になった。婚約破棄された時、あの時は自分も浅はかだった、婚約者に捨てられたのに平気なふりをして食事していたのだ。相手の事が特別好きではなかったから、悲しくも無かったのは事実だ。確か鴨のパイを食べていたと思う。
自分から社交界に『元婚約者とは冷え切ってました』と言っている様なものではないか。相手にも自分にも何の得もない事をしてしまったのだ。
「いや、言わせてくれないか?あの時、君を気に入ってしまって、強引に連れて行こうとしてしまった。本当に申し訳ないと思ったんだ。…よく考えたら婚約者に置いて行かれた令嬢に悪さしようとしている暴漢にしか思えなかっただろう」
「……ええ…まぁ」
エヴァはつい本音を漏らした。
「本当に済まない」
ゼスト様は真摯な顔で座った状態のまま頭を下げた。
エヴァはまた自分が恥ずかしくなった。まるで反省のしない女泣かせのプレイボーイだと思っていた目の前の男が素直に謝ったからだ。こんなに素直に謝罪されるとは思っていなかった。
「こちらこそ、あの時…肘で攻撃してしまって、申し訳ありません。遅くなりましたが、御怪我はなかったでしょうか?」
このことにはあまり触れたくなかったけど、どうしても話を逸らしたくて、ついとっさに出てしまったエルボーの話をしてしまった。護身術で習った肘打ちは反則技に近い威力を持っている実はとても危険な技なのである。ちゃんと鍛錬をしていないエヴァが放ったとはいえ、体重を乗せてしまったし、あの時のゼスト様の反応を見る限りではなかなかの威力だったと思うからだ。
「ははは、一週間はアザになっていた。いい攻撃だった。お父様に仕込まれたのか?」
「ええ(前世の父が)」
「そりゃ威力も凄いはずだ!」
ゼスト様が感嘆している顔を見ていると、焦っていた気持ちがなくなり、段々と可笑しくなってきた。
二人で同時に噴出して「あはは」と笑い合う。
「ディナーもそうですけど、今日の歌劇も…私の好みを調べて下さったのでしょうか?」
「ああ、子爵や…一ヶ月もお屋敷に世話になっていたからさ、顔見知りになった子爵家の使用人たちが色々と教えてくれたよ」
「やっぱり」
「ははは、使用人は叱らないでやってくれ…で、今日の劇はどうだった?」
また、あのウィンクが飛んできた。…なんかキラキラした物が飛んできてそう…
「私、『社交界の薔薇』は小説を読んだことがありますの。でも、内容は知っていても楽しくて引き込まれていましたわ。特に男優陣が良くて」
「俺はお調子者のゲイのバージーが面白かった」
意外な答えにエヴァは驚きながらも笑った。
「フフフっ…とてもいい味を出してましたわね。…でも意外ですわ、ゼスト様が男色家の役を気に入るなんて…そういうのは嫌いなのかと思っていましたわ」
「そうかな、あまり偏見はないし、友達に何人かいるよ」
「え!うそ!」
「嘘なもんか、騎士団にもいるから、あいつらの前では隙は見せられないんだ」
「ま、まぁ!(そこんとこkwsk!)」
エヴァはつい隠しきれない興奮した顔でゼスト様に相槌を打ってしまった。
「誰とは言えないけどさ、そういうのは自由だと思うんだよね。あ、安心して、俺は女の子しか好きじゃないから」
ゼスト様は思わせぶりな笑みでエヴァに宣言した。
だけど、エヴァはほとんど聞いてなかった。脳内を鍛えられた騎士がくんずほぐれつイタしている妄想が止まらなかったからだ。しばらくホゥっと目を瞑って感慨に耽っていた。
「エヴァ嬢?」
「は!えーと、なんです?」
「ふふふ、良いよ、なんか楽しかったみたいで良かったよ」
「ええ、劇もディナーも楽しんでますわ。あ、そろそろデザートかしら…」
ウェイトレスの女性がデザートを持ってきていた。
それから会食は楽しいまま終わり、エヴァは伯爵家の馬車でトーン子爵家へと送られた。
馬車の中でもゼスト様のお話は楽しく、エヴァも最初のわだかまりが解けて自分の詩の事を話したりと、車中でも気まずい雰囲気にはならなかった。
トーン子爵屋敷まで送って貰い、帰りがけにゼスト様はわざわざエヴァの前までやって来た。
手を取られて、エヴァはドキリとする。
射貫くような目線のまま手を引かれた。
体勢を整える間もなく、エヴァは唇を奪われていた。
柔らかな感触がエヴァの唇にくっ付いた。
見事な早業である。
周りで和やかに見守っていたトーン子爵家の使用人も、キュベール伯爵家の従者も皆、目を見開いて息を飲んでいた。
しかし、次の瞬間エヴァは逆の手で掌底を喰らわせてしまい。ゼスト様の顎に当たりグキリと顔を上に向かせる。条件反射であった。
だけど肘打ちのような威力は無かったのか、顎を押さえながらゼスト様はくくくと笑って言う。
「ちゃんと俺のこと意識してよ?エヴァ嬢」
とまた妖しく笑うと彼の家の馬車に乗りこんでしまう。
~この!この!チャラ男!!やっぱりチャラい!!
エヴァは口を押えて、屋敷の中に逃げた。後をラウラが追っていく。
トーン子爵屋敷のレナウド家令は今日は子爵が騎士団に行っているため、代わりに玄関まで出ていてこの騒動を目撃していた。
「キュベール伯爵令息、うちのお嬢様には少し刺激が強いかと思われます。少しお手柔らかにお願いします」
壮年の海千山千のベテラン家令のピリリとした言葉にも、馬車の中のゼスト様はニコリと屈託なく笑って言い放つ。
「ああ、ごめんごめん。でも、ほら、こうでもしないと俺のこと男として見ないからさ。じゃあねー。また連絡します」
と、馬車を走らせて行ってしまった。
レナウド家令は小さく溜息を付くと側にいたコメットに何やら小声で指令して、また執務室へと戻って行ったのだった。
-----
その後しばらく、お嬢様はいつもの朗らかなお嬢様ではなくなってしまって、ラウラは大いに戸惑って心配していた。そのラウラには理解者で恋人であるジュノがいたので、彼女のフォローは大丈夫だったが。
エヴァお嬢様はいつもの笑顔で従者達の作業を眺めながら、「ハッ!!」と驚いた顔をして、その後空中にパンチを放つという意味不明な動作をしたり、馬場で馬たちが走っているのを見ていたお嬢様が急に頭をブンブンと左右に振りだしたり、詩や趣味の文章の執筆中も「わぁぁぁ!」と叫びだしたり…
使用人一同お嬢様を心配したのだった。
王都には沢山の飲食店があるが、最近は隣の国の料理が流行っている。
レストランは隣国のドイン料理のお店だった。エヴァの大好物である。ナンシー様が留学していたのでこの国の事も沢山教えてもらった。ここだけの話、ドイン国は前世のインドそっくりなのである。つまり香辛料の国なのだ。スパイシーで良い匂いの香辛料を使ったものがドイン料理の特徴だ。
だからドイン国の料理が苦手な人もいる。それでもドイン料理をデートに選択したと言う事は、コレは多分うちの屋敷の使用人から情報を得ているわね。さすがチャラ男、隠キャにはできない情報収集能力。
ゼスト様の新しい長所を感じながら、エヴァは出された料理に舌鼓を打っていた。ディナーには少し早い時間だけど、観劇で涙を流して興奮したエヴァは十分食べることができた。
美味しい美味しいと、喜んで食べていると、対面から何か眩しいオーラを感じる。
目を細めて確認してみると、ゼスト様は料理を食べているエヴァをニコニコと見守っていた。うう、顔が整い過ぎて眩しい。
目が合うと彼が口を開いた。
「エヴァ嬢は食べるのがとても好きなんだな」
微笑ましい顔をして、ゼスト様が切り出した。
「お、お恥ずかしいですわ…私ったら…」
エヴァはデート中であることも忘れて目の前の食事に集中してしまっていることに気付いた。
前世から美味しい物には目が無いエヴァは食い意地のはった自分に、少し恥ずかしくなった。
「いや、気にするな、君が好きだと聞いたから、ここに連れてきたんだ。美味しそうに食べてくれて、嬉しいよ」
「ありがとうございます」
自分はどうも集中すると周りが見えなくなる。そのせいもあって前の婚約者に捨てられたというのに…
「君と初めて話した時も、何か食べていたね」
「それは…言わないでくださいませ」
エヴァは思い出して、嫌な気分になった。婚約破棄された時、あの時は自分も浅はかだった、婚約者に捨てられたのに平気なふりをして食事していたのだ。相手の事が特別好きではなかったから、悲しくも無かったのは事実だ。確か鴨のパイを食べていたと思う。
自分から社交界に『元婚約者とは冷え切ってました』と言っている様なものではないか。相手にも自分にも何の得もない事をしてしまったのだ。
「いや、言わせてくれないか?あの時、君を気に入ってしまって、強引に連れて行こうとしてしまった。本当に申し訳ないと思ったんだ。…よく考えたら婚約者に置いて行かれた令嬢に悪さしようとしている暴漢にしか思えなかっただろう」
「……ええ…まぁ」
エヴァはつい本音を漏らした。
「本当に済まない」
ゼスト様は真摯な顔で座った状態のまま頭を下げた。
エヴァはまた自分が恥ずかしくなった。まるで反省のしない女泣かせのプレイボーイだと思っていた目の前の男が素直に謝ったからだ。こんなに素直に謝罪されるとは思っていなかった。
「こちらこそ、あの時…肘で攻撃してしまって、申し訳ありません。遅くなりましたが、御怪我はなかったでしょうか?」
このことにはあまり触れたくなかったけど、どうしても話を逸らしたくて、ついとっさに出てしまったエルボーの話をしてしまった。護身術で習った肘打ちは反則技に近い威力を持っている実はとても危険な技なのである。ちゃんと鍛錬をしていないエヴァが放ったとはいえ、体重を乗せてしまったし、あの時のゼスト様の反応を見る限りではなかなかの威力だったと思うからだ。
「ははは、一週間はアザになっていた。いい攻撃だった。お父様に仕込まれたのか?」
「ええ(前世の父が)」
「そりゃ威力も凄いはずだ!」
ゼスト様が感嘆している顔を見ていると、焦っていた気持ちがなくなり、段々と可笑しくなってきた。
二人で同時に噴出して「あはは」と笑い合う。
「ディナーもそうですけど、今日の歌劇も…私の好みを調べて下さったのでしょうか?」
「ああ、子爵や…一ヶ月もお屋敷に世話になっていたからさ、顔見知りになった子爵家の使用人たちが色々と教えてくれたよ」
「やっぱり」
「ははは、使用人は叱らないでやってくれ…で、今日の劇はどうだった?」
また、あのウィンクが飛んできた。…なんかキラキラした物が飛んできてそう…
「私、『社交界の薔薇』は小説を読んだことがありますの。でも、内容は知っていても楽しくて引き込まれていましたわ。特に男優陣が良くて」
「俺はお調子者のゲイのバージーが面白かった」
意外な答えにエヴァは驚きながらも笑った。
「フフフっ…とてもいい味を出してましたわね。…でも意外ですわ、ゼスト様が男色家の役を気に入るなんて…そういうのは嫌いなのかと思っていましたわ」
「そうかな、あまり偏見はないし、友達に何人かいるよ」
「え!うそ!」
「嘘なもんか、騎士団にもいるから、あいつらの前では隙は見せられないんだ」
「ま、まぁ!(そこんとこkwsk!)」
エヴァはつい隠しきれない興奮した顔でゼスト様に相槌を打ってしまった。
「誰とは言えないけどさ、そういうのは自由だと思うんだよね。あ、安心して、俺は女の子しか好きじゃないから」
ゼスト様は思わせぶりな笑みでエヴァに宣言した。
だけど、エヴァはほとんど聞いてなかった。脳内を鍛えられた騎士がくんずほぐれつイタしている妄想が止まらなかったからだ。しばらくホゥっと目を瞑って感慨に耽っていた。
「エヴァ嬢?」
「は!えーと、なんです?」
「ふふふ、良いよ、なんか楽しかったみたいで良かったよ」
「ええ、劇もディナーも楽しんでますわ。あ、そろそろデザートかしら…」
ウェイトレスの女性がデザートを持ってきていた。
それから会食は楽しいまま終わり、エヴァは伯爵家の馬車でトーン子爵家へと送られた。
馬車の中でもゼスト様のお話は楽しく、エヴァも最初のわだかまりが解けて自分の詩の事を話したりと、車中でも気まずい雰囲気にはならなかった。
トーン子爵屋敷まで送って貰い、帰りがけにゼスト様はわざわざエヴァの前までやって来た。
手を取られて、エヴァはドキリとする。
射貫くような目線のまま手を引かれた。
体勢を整える間もなく、エヴァは唇を奪われていた。
柔らかな感触がエヴァの唇にくっ付いた。
見事な早業である。
周りで和やかに見守っていたトーン子爵家の使用人も、キュベール伯爵家の従者も皆、目を見開いて息を飲んでいた。
しかし、次の瞬間エヴァは逆の手で掌底を喰らわせてしまい。ゼスト様の顎に当たりグキリと顔を上に向かせる。条件反射であった。
だけど肘打ちのような威力は無かったのか、顎を押さえながらゼスト様はくくくと笑って言う。
「ちゃんと俺のこと意識してよ?エヴァ嬢」
とまた妖しく笑うと彼の家の馬車に乗りこんでしまう。
~この!この!チャラ男!!やっぱりチャラい!!
エヴァは口を押えて、屋敷の中に逃げた。後をラウラが追っていく。
トーン子爵屋敷のレナウド家令は今日は子爵が騎士団に行っているため、代わりに玄関まで出ていてこの騒動を目撃していた。
「キュベール伯爵令息、うちのお嬢様には少し刺激が強いかと思われます。少しお手柔らかにお願いします」
壮年の海千山千のベテラン家令のピリリとした言葉にも、馬車の中のゼスト様はニコリと屈託なく笑って言い放つ。
「ああ、ごめんごめん。でも、ほら、こうでもしないと俺のこと男として見ないからさ。じゃあねー。また連絡します」
と、馬車を走らせて行ってしまった。
レナウド家令は小さく溜息を付くと側にいたコメットに何やら小声で指令して、また執務室へと戻って行ったのだった。
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その後しばらく、お嬢様はいつもの朗らかなお嬢様ではなくなってしまって、ラウラは大いに戸惑って心配していた。そのラウラには理解者で恋人であるジュノがいたので、彼女のフォローは大丈夫だったが。
エヴァお嬢様はいつもの笑顔で従者達の作業を眺めながら、「ハッ!!」と驚いた顔をして、その後空中にパンチを放つという意味不明な動作をしたり、馬場で馬たちが走っているのを見ていたお嬢様が急に頭をブンブンと左右に振りだしたり、詩や趣味の文章の執筆中も「わぁぁぁ!」と叫びだしたり…
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