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雪童子と友人
壱
しおりを挟む「詩子、雪ちゃん、お昼食べよ」
昼休みを告げるチャイムが鳴ると、いそいそとお弁当の袋を下げてふたりに声をかけた。
「食べよ食べよ、もう腹ペコ」
がたがたと机を動かした詩子は疲れたように息を吐く。後ろの席の雪ちゃんは、そんな様子をにこにこと見守りながら同じようにして机を合わせた。
近くの席から椅子を借りて、お弁当箱を広げた。
五月の半ばに入った。桜はすっかり散ってしまい、日の高いうちは上着が必要ないくらいに暖かい日が続いている。制服も徐々に馴染んできて、教室の雰囲気も随分と打ち解けていた。
私にも、親しい友人がひとり増えた。松倉雪子、通称雪ちゃんは選択科目が被ったことで仲良くなったのだ。お人形さんみたいな大きな目に白い肌で、いつもにこにこしている雪ちゃんはクラスの男の子たちからもたくさんの好意を寄せられているみたいだ。
ただ少しおっとりで天然な所があり、詩子は「雪子は黙っていればお人形さんみたいに可愛いのに」といつも残念そうに言っている。
そんな雪ちゃんと詩子と三人で、他愛もない話をしながらお弁当を食べるのが最近の楽しみなのだ。
「そう言えば、体育祭の種目どうする?」
思い出したようにそう言った詩子。最近のクラス内でよく耳にする話題だった。
「私は走るの苦手だから、大縄跳びにしようかな。詩子は?」
「私は思いっきり走ってスカッとしたいから、リレーにするよ」
ぐっと拳を作って見せた詩子に、彼女らしいなと頬が緩む。
「雪ちゃんはどうする?」
「……私は、お休み。ずっと外だから」
「ああー、そっか。体育館の競技ってないもんね」
紫外線のアレルギーを持つ雪ちゃんは、その体質のせいで外に長居することができないらしい。体育の授業中は教室で自習しているのが多かった。
「まあ雪子が参加したら、試合にならないでしょ」
「え、どういうこと?」
「男どもが気を取られてよそ見するから」
しれっとそう言った詩子に思わず吹き出す。
「そうだ、応援は来てね。そしたら男子たちいいとこ見せようと張り切ってくれると思うし、私たちのクラスが優勝できるかも!」
「……うん、応援いくよ。太鼓の練習しなきゃ」
にこにこ笑ってそう言った雪ちゃんに、「なんで!?」と声を揃えて突っ込んだ。
「応援イコール応援団、応援団イコール太鼓ってことだろ?」
そんな声と共に、雪ちゃんの背後から男の子がひょこっと現れた。
「あ、雪子。お前また全然飯食ってないじゃん。ちゃんと食えよ、体弱いんだから」
雪ちゃんの頭に顎を乗せたその男の子は、「そのからあげちょーだい」と口をあける。雪ちゃんはいつもよりも嬉しそうににこにこと笑っていた。
雪ちゃんとは小学校から同じの、幼馴染の富岡蛍助くん。クラスの中心でいつも周りを巻き込んで楽しそうに笑っているお調子者だ。
「蛍助がまた松倉さんにちょっかい出してる~」
クラスの誰かがそう言うと、富岡くんは「ばか、雪子の世話焼いてんだよ!」とすかさず返して笑いを誘った。
他の男の子が富岡くんの名前を呼んだ。昼休みが終わるまでサッカーをするらしい。
「じゃ、ふたりとも雪子のこと頼むわ」
「はいはい、オカンは大変だね」
呆れたように肩を竦めた詩子がそう言う。
「そうなの! この子ったら朝は自分で起きないし、ほんと手のかかる子なのよお」
悪ノリした富岡くんが体をくねくねさせながら、そこらにいそうなおばさんのような立ち振る舞いでそう言う。とうとう堪えきれなくなってぶはっと吹き出した。
待ちくたびれたのか、「蛍助先行くからな!」と叫んでばたばたと教室を出て行った。
「うわ、やべ。んじゃな」
手をひらひらさせた富岡くんは慌てて教室を出て行った。
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