言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

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わくたかむの社

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社宅を出ると、表の鳥居とは反対側方面の鎮守の森を目指した。

ほとんどの神職が昼休憩は社宅か社務所で過ごすけれど、一部の人はお散歩がてら鎮守の森を歩いたりする。

鳥居側は参拝客が歩いていて、スマホを使ったりベンチを使用することができないので、外で過ごす神職のほとんどがこちら側に向かう。

社宅や社務所にはいなかったので、恐らく聖仁さんもこちら側にいるはずだ。


冬の突き刺すような寒さが昼間のまろい日光で緩和され、木々の隙間から心地よい木漏れ日が頬を照らす。

気持ちいいな、と目を細める。

ここ数日は天気が悪かったけれど、今日は久しぶりに雲が晴れた。そのおかげか外を歩く神職さまが多い。

こんにちは、と挨拶しながら聖仁さんの姿を探す。


社宅を出る前に聖仁さんに電話をかけたけれど、通話中だというアナウンスが流れて切れた。

だから恐らく聖仁さんは今。


「へぇ、そっか。そっちも任務任されたんだね。あんまり無茶しちゃダメだよ、後輩に迷惑かけないようにね」


木々の隙間から風に乗って誰かの話し声が聞こえる。

声の方に足を向けると、案の定そこには探していた背中があった。


足音に気付いたのかパッと振り返る。目が合ったので小さく頭を下げると、聖仁さんは私に向かって軽く手招きをする。


「ごめんちょっと待ってて──どうかした?」

「すみません電話中に。泰紀くんが聖仁さんのこと探してて。レポートが再提出になったから助けてほしいって」

「あはは、やっぱりアレ再提出になったんだ。だから言ったのに。分かった、すぐ戻るよ。──もしもし瑞祥? うんそう巫寿ちゃん」


やっぱり電話の相手は瑞祥さんだったか。

恋人同士の会話を盗み聞きしては悪いと思いつつ、関係性が変わってからどんなことを話すようになったのか気になってしまいついつい聞き耳を立てる。


「うん分かった、また明日の夜ね。何? 最後に一個だけ聞いて欲しい? 朝飯に出た豆ご飯食ってる時に笑ったら鼻から豆がでてきた? はしたないからやめなさい」


思わずずっこける。

でもなんというか、相変わらずで少し安心した自分がいる。

深いため息をついて天を煽った聖仁さん。お転婆な彼女を持つ気苦労は計り知れない。


「もう切るよ、また明日ね。──うん、ありがとう。瑞祥もどうか無理はしないで。危ない目に逢いませんように。怪我しませんように」


最後の言葉には明らかに優しさで満ちた言祝ぎが宿っていた。

これまでずっと、瑞祥さんのことを詞で縛りたくないと言っていた聖仁さん。でも気持ちが通じあえたことで、惜しみなく大切な彼女をその詞で守れるようになった。

相手を思う気持ちに溢れた言霊に胸が熱くなる。

強く思い合う二人の関係性がすごく羨ましい。


「ごめんごめん、お待たせ」


電話を切った聖仁さんが振り返って首を傾げる。


「巫寿ちゃん? どうしたのぼんやりして」

「へ? あ、いや。その……素敵だなぁって」


ぽかんとした表情をした聖仁さん。しかし直ぐにぷっと吹き出してくつくつと肩を揺らした。

そして「ありがとう」と清々しい笑みを浮かべる。これが想い人を射止めた男の余裕というものなのだろうか。


「……すごく憧れます。二人とも心の底から信じあって、通じ合ってるっていうか」

「まぁ元々は幼なじみだしね。巫寿ちゃんはそういう人いないの?」


突然のパスにカッと頬を赤くする。


「い、いませんよ好きな人なんて!」

「えいや幼なじみの話なんだけど──ふぅん、でもそっか。そうなんだねぇ」


不敵に口角を上げた聖仁さん。

そこでやっと自分が勘違いしていることに気がつく。

最悪だ、早とちりして変なことを口走ってしまった。

からかう訳ではないけれど意地悪い顔でニヤニヤ笑いながら私を見ている。


聖仁さんって基本とても優しい人だけど、たまにすっごく意地悪だ。


「聞かなかったことにしてください……」

「えー、難しいなぁ。でもそっか、今は好きな人いないんだね。いいこと聞いた」


いいこと聞いた?

傍から聞いたら聖仁さんが私に気があるような言い方だけれど、聖仁さんには瑞祥さんという宝物がいるのでそれは絶対にないだろう。

じゃあ一体どういう意味?


「巫寿ちゃんみたいに、俺も応援してるんだよ」


応援? 一体誰を? 何を?

それ以上話すつもりはないらしく、話題は聖仁さんの惚気話にシフトチェンジした。


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