301 / 357
わくたかむの社
陸
しおりを挟む社宅を出ると、表の鳥居とは反対側方面の鎮守の森を目指した。
ほとんどの神職が昼休憩は社宅か社務所で過ごすけれど、一部の人はお散歩がてら鎮守の森を歩いたりする。
鳥居側は参拝客が歩いていて、スマホを使ったりベンチを使用することができないので、外で過ごす神職のほとんどがこちら側に向かう。
社宅や社務所にはいなかったので、恐らく聖仁さんもこちら側にいるはずだ。
冬の突き刺すような寒さが昼間のまろい日光で緩和され、木々の隙間から心地よい木漏れ日が頬を照らす。
気持ちいいな、と目を細める。
ここ数日は天気が悪かったけれど、今日は久しぶりに雲が晴れた。そのおかげか外を歩く神職さまが多い。
こんにちは、と挨拶しながら聖仁さんの姿を探す。
社宅を出る前に聖仁さんに電話をかけたけれど、通話中だというアナウンスが流れて切れた。
だから恐らく聖仁さんは今。
「へぇ、そっか。そっちも任務任されたんだね。あんまり無茶しちゃダメだよ、後輩に迷惑かけないようにね」
木々の隙間から風に乗って誰かの話し声が聞こえる。
声の方に足を向けると、案の定そこには探していた背中があった。
足音に気付いたのかパッと振り返る。目が合ったので小さく頭を下げると、聖仁さんは私に向かって軽く手招きをする。
「ごめんちょっと待ってて──どうかした?」
「すみません電話中に。泰紀くんが聖仁さんのこと探してて。レポートが再提出になったから助けてほしいって」
「あはは、やっぱりアレ再提出になったんだ。だから言ったのに。分かった、すぐ戻るよ。──もしもし瑞祥? うんそう巫寿ちゃん」
やっぱり電話の相手は瑞祥さんだったか。
恋人同士の会話を盗み聞きしては悪いと思いつつ、関係性が変わってからどんなことを話すようになったのか気になってしまいついつい聞き耳を立てる。
「うん分かった、また明日の夜ね。何? 最後に一個だけ聞いて欲しい? 朝飯に出た豆ご飯食ってる時に笑ったら鼻から豆がでてきた? はしたないからやめなさい」
思わずずっこける。
でもなんというか、相変わらずで少し安心した自分がいる。
深いため息をついて天を煽った聖仁さん。お転婆な彼女を持つ気苦労は計り知れない。
「もう切るよ、また明日ね。──うん、ありがとう。瑞祥もどうか無理はしないで。危ない目に逢いませんように。怪我しませんように」
最後の言葉には明らかに優しさで満ちた言祝ぎが宿っていた。
これまでずっと、瑞祥さんのことを詞で縛りたくないと言っていた聖仁さん。でも気持ちが通じあえたことで、惜しみなく大切な彼女をその詞で守れるようになった。
相手を思う気持ちに溢れた言霊に胸が熱くなる。
強く思い合う二人の関係性がすごく羨ましい。
「ごめんごめん、お待たせ」
電話を切った聖仁さんが振り返って首を傾げる。
「巫寿ちゃん? どうしたのぼんやりして」
「へ? あ、いや。その……素敵だなぁって」
ぽかんとした表情をした聖仁さん。しかし直ぐにぷっと吹き出してくつくつと肩を揺らした。
そして「ありがとう」と清々しい笑みを浮かべる。これが想い人を射止めた男の余裕というものなのだろうか。
「……すごく憧れます。二人とも心の底から信じあって、通じ合ってるっていうか」
「まぁ元々は幼なじみだしね。巫寿ちゃんはそういう人いないの?」
突然のパスにカッと頬を赤くする。
「い、いませんよ好きな人なんて!」
「えいや幼なじみの話なんだけど──ふぅん、でもそっか。そうなんだねぇ」
不敵に口角を上げた聖仁さん。
そこでやっと自分が勘違いしていることに気がつく。
最悪だ、早とちりして変なことを口走ってしまった。
からかう訳ではないけれど意地悪い顔でニヤニヤ笑いながら私を見ている。
聖仁さんって基本とても優しい人だけど、たまにすっごく意地悪だ。
「聞かなかったことにしてください……」
「えー、難しいなぁ。でもそっか、今は好きな人いないんだね。いいこと聞いた」
いいこと聞いた?
傍から聞いたら聖仁さんが私に気があるような言い方だけれど、聖仁さんには瑞祥さんという宝物がいるのでそれは絶対にないだろう。
じゃあ一体どういう意味?
「巫寿ちゃんみたいに、俺も応援してるんだよ」
応援? 一体誰を? 何を?
それ以上話すつもりはないらしく、話題は聖仁さんの惚気話にシフトチェンジした。
10
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜
万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。
こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?!
私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。
バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。
その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。
鬼が現れ戦う羽目に。
事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの?
この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。
鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます!
一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。
はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。
神戸・栄町 困り顔店主の謎解き紅茶専門店
hana*
キャラ文芸
レトロな建物が立ち並ぶ、神戸・栄町。
カフェ激戦区とも呼ばれるこの町の、とあるビルの2階でひっそりと営業している紅茶専門店には、長身でイケメンでいつもにこやかで誰にでも親切、なのになぜかいつもトラブルを招き寄せるという困った体質の店主がいる。
店に訪れるのは、婚約破棄された会社員、紅茶嫌いのカップル、不穏な女子大生のグループ……。
困り顔店主が、お客さんのお悩みを紅茶の香りとともにほわっと解決!?
郷守の巫女、夜明けの嫁入り
春ノ抹茶
キャラ文芸
「私の妻となり、暁の里に来ていただけませんか?」
「はい。───はい?」
東の果ての“占い娘”の噂を聞きつけ、彗月と名乗る美しい男が、村娘・紬の元にやってきた。
「古来より現世に住まう、人ならざるものの存在を、“あやかし”と言います。」
「暁の里は、あやかしと人間とが共存している、唯一の里なのです。」
近年、暁の里の結界が弱まっている。
結界を修復し、里を守ることが出来るのは、“郷守の巫女”ただ一人だけ。
郷守の巫女たる魂を持って生まれた紬は、その運命を受け入れて、彗月の手を取ることを決めた。
暁の里に降り立てば、そこには異様な日常がある。
あやかしと人間が当たり前のように言葉を交わし、共に笑い合っている。
里の案内人は扇子を広げ、紬を歓迎するのであった。
「さあ、足を踏み入れたが始まり!」
「此処は、人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」
「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」
「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」
「──ようこそ、暁の里へ!」
あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜
南 鈴紀
キャラ文芸
妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。
しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。
掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。
五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。
妖×家族の心温まる和風ファンタジー。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる