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正体
壱
しおりを挟む急ぎの仕事を頼まれてしまい昼食のタイミングを逃してしまった。みんなで交互に休憩を取り、私は亀世さんと一番最後に昼食を取ることになった。
昼食の席で話題に上がったのは、亀世さんが鋭意研究中の黄泉返りの薬についてだ。
「薬はほぼ完成しているはずなんだよ。ただ何かがひとつ足りないらしい。本当にあとちょっとなんだがな」
「亀世さん……それ完成させたら本当に本庁に捕まっちゃいますよ」
「バレなきゃいいんだよ。巫寿が黙っててくれれば私は捕まらない」
「それ私も共犯者になりませんか?」
今日の昼ごはんである鳥照り丼をつつきながらそんなやり取りをしていると、テーブルの隅に寄せていたスマホがブルブルと震えて着信を知らせる。
ちらりと画面を確認するとトークアプリで瑞祥さんから着信が来ていた。
「私のことは気にせず出ればいい」
お言葉に甘えて通話ボタンを叩く。
『お、もしもし巫寿? ごめんな、奉仕中に』
電話口からはいつもと変わらない瑞祥さんの声。
「こんにちは瑞祥さん。ちょうど遅めの昼休憩中なんで大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
『いや、大した用じゃないんだけどさ……聖仁は近くにいるか?』
「聖仁さんですか? いえ……聖仁さんは今社務所の会議室で奉仕中です」
『朝からちゃんと奉仕してんだな?』
変な質問だなと思いつつ「はい」と答えると、瑞祥さんは電話の向こうで安堵したように深く息を吐いた。
聖仁さんと何かありました?と尋ねると、何やら言いにくそうにごにょごにょと口篭る。
目の前に座る亀世さんが人差し指をクイクイと動かして私にスマホを渡すように合図する。戸惑いながらもスマホを渡せば、亀世さんはテーブルの上に置いてスピーカーモードをオンにした。
『いや、その……今朝はおはようのメッセージが来てなかったからちょっと心配だったんだ。だからか今朝からずっと胸騒ぎがするっていうか……』
おはようの、メッセージ……。
この二人は毎朝おはようのメッセージを送りあっているの?
すっかり面白がった亀世さんが勢いよく口を抑えて肩を震わせる。私は遠い目でスマホを見つめた。
そういえば今朝の聖仁さんは、珍しく朝拝ギリギリに本殿へ来ていたことを思い出す。朝起きたらスマホの充電切れててアラーム鳴らなかったんだよね、と苦笑いで寝癖を撫でつけていた。
……なるほど、さしずめ昨日は瑞祥さんと寝落ちするまで通話していて、それでスマホの充電がなくなったんだろう。
そして朝は寝坊してしまい充電もできずに飛び出してきたってところだろうか。
ちょっと呆れ気味に息を吐く。
「……良ければ繋ぎましょうか?」
『いや、いいよ! でも心配するから早く返事よこせって伝えといて。あと怪我すんなよって』
一緒にいないはずなのに昨日からこのバカップルのイチャつきを見せつけられて若干胸焼けがしてきた。
大好きな先輩たちだけれど、ちょっとこればかりは勘弁して欲しい。
堪えきれなくなった亀世さんがハッハッハと声を上げて笑い出す。
『なんだよ亀世もそこにいるのかァ? 先に言えよな!』
照れを隠すように声を荒らげた瑞祥さん。
悪びれる様子もなく、「お前ら遠隔でもいちゃつけるなんて凄いな」と肩を揺らす。笑ってないでどうにかして欲しい。
『と、とにかくよろしく伝えといてくれ! ほらあれだ、巫寿も亀世も無茶すんなよ!』
「瑞祥や聖仁みたいに浮ついてないから、少なくとも私たちがヘマをすることはない」
『うるせー! 私は別に浮ついてなッ────』
ブツ、と強制的に通話を終了した亀世さんは「ほい」と私にスマホを渡す。
あんな終わり方で良かったのだろうか。
とにかく聖仁さんには一刻も早くスマホの充電をしてもらおう。
10
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