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初依頼
肆
しおりを挟むそれから数日たったある日。
いつも通り夕拝後に志らくさんの鼓舞の明マスター講座を受けていると「失礼しまーす」と神楽殿の扉が開く。立っていたのは来光くんだった。
この時間に出かけていないのは珍しいと思ったけれど、そういえば今日は居間のテレビにプレステを繋いでバイオ2をみんなで攻略するんだと息巻いていたっけ。
「志らく巫女すみません。禰宜が僕たちのこと呼んでて、巫寿ちゃん連れて行ってもいいですか?」
禰宜が?
私達の奉仕時間は終わっているし、一体何の用だろう。
「ええよ~、ちょうど終わるところやったし。ほな巫寿ちゃん、また明日な」
「はい。ありがとうございました」
姿勢を正して頭を下げると、小走りで来光くんに駆け寄った。雪駄をつっかけて外に出る。来光くんの隣に並びながら尋ねた。
「禰宜が呼んでるって、どうしたの?」
「それがよく分かんないんだよね、僕も千江さんから聞いて。とにかく社務所に集合だって」
「他のみんなは?」
「先に行ってる、急ごう」
うん、と頷き足を早めた。
社務所へ入るともうすでにみんな揃っていて、「禰宜~、何やるの?」と慶賀くんが尋ねているところだった。名前を呼ばれて手招きされた。嘉正くんが席を詰めてくれたので小さく拝んで隣に腰を下ろす。
「皆さん揃いましたね。では早速ですが本題に入りましょう」
「なんで俺たち呼ばれたんですか~?」
「今からそれを話すと言っているんです。その喋り出したら止まらへんお口を一旦閉じて僕の話を聞きましょうね」
黒い笑みで微笑まれて慶賀くんが固まった。そうやね、と禰宜はにっこり頷くと私たちに一枚ずつプリントを配った。
「丁度ええタイミングで社へ仕事の依頼が来ました。今回は皆さんにまなびの社の神職として担当してもらおうと思います」
お互いの顔を見合わせた。
神職としての依頼、つまりこの案件は言霊の力を必要とする案件ということだ。
まなびの社へ来てようやく十日ほど経ったけれど、そのほとんどが祝詞奏上・清掃・御守授与の繰り返しで言霊の力を使う場面は一度もなかった。実習に来たけどこのまま何もせずに終わりそうだね、なんて話したのはつい数時間前のお昼休みの時だった。
他のみんなもそれに少し退屈さを感じていたらしく、わかりやすく目の色が変わる。
「今渡したその紙に詳細が書いてありますんで、上から一緒に確認していきましょう」
「仮件名:公立高校における不可解事件の多発について」という一行目から始まり、その下にはおそらく依頼者の話がそのまま書き連ねられたのであろうまとまりのない文が続いていた。
第一担当者の所見という箇所には「怪異の可能性あり、修祓前に要現地調査」とある。現担当者には私たち6人の名前が書かれていた。
「ここからバスで30分ほどのところにある西院高校という公立の高等学校が調査対象です。依頼主は西院高校の校長先生で、本日昼頃にご相談に来られました」
そういえば昼休みが終わって社務所へ向かう途中、社頭を歩くスーツのおじさんを見かけた。風で吹き飛ばされそうなほどほっそりした人で顔色がかなり悪く、印象的だったからよく覚えている。
「内容はこの後各自で確認してください。まぁ簡単に言いますと、学校で起きている怪異をどうにかしてほしい────ということです」
学校、怪異。
脳裏に「学校の七不思議」なんてものがふと思い浮かんだけれど、きっとそんな可愛いものじゃないんだろう。神社へ相談に来るくらいだ、きっと学校内ではかなりの騒ぎになっているはずだ。
「学校内へ立ち入れるのは全校生徒が帰宅した後でとお願いされておりますので、20時に社の鳥居下に集合して向かいます。それまでに概要を頭に入れて、制服に着替えておいてください。ちなみにこれは神修から指定された労働時間をオーバーする形になりますので、この一件が解決したら特別休日と特別手当が付与されます。ここまでで質問は?」
みんなは黙ったままだ。
禰宜は「よろしい。では解散」と言って社務所から出ていった。その瞬間、我慢していたものが弾けたのか慶賀くんが「うおお!」と叫んで立ち上がる。
「来たぜ来たぜ! いよいよ神社実習って感じだな!」
「ちゃんとした依頼だぜ!? 薫先生に授業と称して無理やり依頼を手伝わされる訳でもなく!」
「特別休暇に特別手当……なんて素敵な響きなんだろう……!」
各々に喜びを噛み締めているようだ。
私のこれまでの実践経験と言えば、四月に蛇神を祓ったものとゴールデンウィークの怪異被害の解決、あとは恵理ちゃんの家の一件くらいだろうか。
中学の頃の薫先生はそれはそれは酷かったらしく、授業と称してみんなを色んな任務先へ連れて行っては実践を積ませていたらしい。
みんなに比べれば圧倒的に私は経験不足だ。この機会にたくさん経験を積んで、学年末の昇階位試験に臨みたい。
頑張るぞ、と気合を入れて配られたプリントに顔を寄せた。
────事が大きくなって来たのは三ヶ月ほど前のことです。それ以前も細々とした不可解な現象は起きていたようなのですが、ほら、子供ってそういうのを話すのが好きでしょう。だから私もほかの教員も気に止めてなかったんです。でも三ヶ月前、学内でとある事件が起きて……放課後に生徒が屋上から落ちたんです。違いますよ!! 決して自殺なんかじゃありません! あ……す、すみません。でも本当に自殺じゃなくて、落ちたんです。え? ああ……生徒は幸いにも木と芝がクッションになって骨を折る程度で済みました。でも、その生徒がおかしなことを言うんです。"俺は後ろから誰かに押されたんだ"って。誰かに背中を強く押されたんだって。だからその時一緒にいた学生たち一人一人に事情を聞いたら、「あいつは自分から飛び降りたって」。それからです、在校生徒が次々と怪我や事故に会うようになったのは。警察にはとっくに連絡しました。でも一向に何も解決せず、怪我や事故に遭う生徒は日に日に増えています。保護者や教育委員会からの圧も強く、もうどこにどう頼ったらいいのか……。
すっかり太陽は山の向こうに沈み、東の空に月が登る頃。私たちはバスに揺られて、調査対象である西院高校へ向かっていた。
何度も読み返したけれど、もう一度配られたプリントに目を通す。昼に社へ以来に来た西院高校の校長先生が話した内容だ。
要約すると、西院高校で不可解な事件事故が多発しているらしい。そしてその全ての共通点が────。
「誰かに背を押された、か……」
隣に座って同じくプリントを読んでいた嘉正くんが顎に手を当てて呟く。
「嘉正くんはどう思う?」
「ん?」
「今回の件、怪異なのかな」
腕を組んだ嘉正くんはうーんと首を傾げる。
「怪異であって欲しい、かな」
怪異であって欲しい?
妙な言い方に引っかかる。
「だってさ、もし犯人が怪異じゃなければ人ってことでしょ。同じ人間が次々と人を襲ってるって思ったら、すごく怖いよね」
怪異ではなく人が犯人、その言葉にゾッとした。
言われるまで気が付かなかったけれど確か嘉正くんの言う通りだ。もし犯人が人だった場合、私達と同じ年齢の人が犯人になる可能性もあるということ。
同じ歳くらいの子がこんな酷い事件を起こしているのだと思うと鳥肌が立った。
「結局いちばん怖いのは人間だって、昔からよく言うしね」
「そう、だね」
「何はともあれ、目の前の依頼にしっかり向き合おう」
バスがゆっくりとスピードを落として停留所で止まった。ここで降りますよ、と引率で一緒に来ている禰宜が私たちに声をかける。
急いでプリントをカバンの中にしまい、椅子から立ち上がった。
電車に揺られて三十分、私たちは調査対象である西院高校の校門前に降り立った。
見上げた建物は黒ずんで汚れた白壁の四階建ての建物だ。等間隔に窓が並んで、建物の真ん中辺りがぽこっと抜け出していて、はめ込まれた大きな時計が動いている。一階の正面が下足場になっていて入口の上にはバレー部が大会で優勝したことを祝うスローガンが垂れていた。
公立の学校を思い浮かべればみんなこんな感じの建物を思い浮かべるだろうと思えるほどの、どこにでもある校舎だった。
最終下校の19時30分から1時間近く経っているので、敷地内に人影はない。
「なんか味気ねぇな、この校舎」
慶賀くんがそう呟く。
確かに神修の敷地内にある建物はどれも神社のお社と同じ作りだ。それと比べればちょっと物足りないようにも感じるだろう。
その時、下足場のガラス扉が開いてスーツ姿のほっそりした男性が小走りでこちらへ近付いてくるのが見えた。
禰宜が頭を下げたので、私達もそれに習って頭を下げる。
その人の顔が電灯に照らされて、やがて昼間に社へ尋ねてきた校長先生だと気が付く。近くで見ると昼間見かけた時よりもほっそり────いや、げっそりして見える。
校長先生は暗い表情のまま私達を一瞥すると、禰宜に鍵の束を渡して「よろしくお願いします」と頭を下げた。じゃあ私は職員室にいますので、とあっさり校舎に戻って行って、私たちはお互いに顔を見合せた。
「あの人、俺らのこと何にも聞いてこなかったな」
「確かに。普通気になって聞いてくるだろうに」
私たちのことを一瞥していたが大して気に留める様子もなく戻って行った。
こんな時間に高校生が6人、しかも神社から派遣された高校生だ。気にならないはずがないのに。
「さぁ行きますよ」
禰宜が歩き出して慌てて私たちも歩き出す。
「校長先生が何も言わなかったのは、君たちを同行させることと他言無用を約束する代わりに依頼料の半額で引き受けているからです」
「えっ、そうなの!?」
「ええ。神修の学生さんが来る時はウチはいつもそうしています」
意外な事実に目を丸くした。
「特別な仕事とはいえ客商売ですからね。まだプロではないあなた方が担当するんですから当然の措置ですよ。この機にしっかり学んでください」
依頼料っていくらくらいするんだろう。
夏休みに薫先生が病院で神事をした際、追加料金がかかると言われて事務の人が青ざめていた。
きっと安くはない値段なのだろう。
それに以前禰宜が地方の神社は経営が厳しいという話をしていたし、そう簡単に依頼料を半額に出来るものではないはず。
そこまでしてでも、私たちに経験を積ませようとしてくれているということだ。
自分の無知さが悔しかった一学期、自分の無力さを知った二学期。それから何もしてこなかった訳じゃない。あの頃に比べたら少しは成長しているはずだ。
歩きながら慶賀くんが笑みを浮かべて振り返ると、握りこぶしを突き出した。
「吉祥宮司にさ、元値で引き受けときゃ良かったって後悔させるくらい完璧にこなそうぜ!」
ひひ、と笑った泰紀くんが自分の拳をそれにぶつける。
「だな! ギャフンと言わせてやろう!」
「使い方間違ってるし」
来光くんが呆れながらも同じように拳をぶつけた。ほら嘉正と巫寿、と促され笑って頷き拳を突き出す。
「頑張ろう……!」
おう! とみんなの声が揃った。
下足場に入ると足を止めた禰宜が振り返った。
「さて皆さん、今回の依頼内容はしっかり頭に入れて来ましたね」
はーい、と皆が声を揃えた。
「ではまず、自分たちのやり方で良いので、一通り見て回って検討を付けてください。一時間後にまたこの場に集まって意見交換会としましょうか」
「はい禰宜! 質問です!」
「はい慶賀くん」
「調査は協力プレーでもいいんですか!」
「他の皆さんの意見も聞いて、それでもいいと仰ったなら好きにしてください。但し、昇階位試験の実技が個人かグループかはその日に発表されます。両方に慣れておいた方がいいですよ」
実技テストってグループの場合もあるんだ。てっきり自分一人で挑まないといけないと思っていた。
今年はどうなるんだろう。出来れば、というか絶対グループでの受験にして欲しい。
「みんなどうする?」
慶賀くんが振り向いて私たちの顔を見回した。
「俺どっちでもいいわ」
「俺も」
「僕は皆とやりたいかな」
口々にそう言い、視線は私と恵衣くんに向けられる。ちらりと恵衣くんを伺うと、彼は迷惑そうに息を吐くと「俺は個人でやる」と顔を背けた。
予想通りの反応に思わず苦笑いを浮かべた。
「私、皆とやりたい……かな。まだ色々不安もあるし」
「それもそうだよね。ならいつも通り俺ら五人で、恵衣は一人でやる?」
そうしよう、と皆が大きく頷く。
恵衣くんは「勝手にしろ」とだけ言うと、禰宜からマスターキーを受け取ってスタスタと歩いて行ってしまった。
「恵衣のやつ、黙って鍵持っていったんだけど!」
来光くんが目を釣りあげて遠くなった背中を睨んだ。
「まぁまぁ来光……ほら、とにかく行こう。来光と巫寿で東棟、俺と馬鹿二人で西棟ね。何か気づいたことがあったらグループトークで逐一共有して」
了解、と声が揃う。じゃあ一時間後に、と軽く手を挙げて私たちはそれぞれ駆け出した。
嘉正くんの指示通り、私と来光くんで東棟の探索を始めた。
「東棟は……裏庭と特別教室がメインだね」
事前に共有されていた学校の校内図をスマホで表示しながらそう言う。
「裏庭か。ならまず庭から行こっか。井戸の様子も見よう」
「夏期補習で習ったこと、早速実践できるね」
だね、と肩を竦めた来光くん。私たちは裏庭を目指して歩みを進めた。
下足場とは反対側の非常口から外に出た。分厚い灰色の雲間から月明かりが差している。
「いい月夜だね。スマホのライト、必要ないかも」
丸い月を見上げて白い光に目を細める。
「巫寿ちゃん、ごめんね」
唐突の謝罪に目を瞬かせた。隣を歩く来光くんに視線を向けると、彼はどこか気まずそうにつま先をじっと見つめていた。
「皆気を遣ってくれてるの、気付いてる」
苦笑いで頬をかいた来光くんが視線を泳がせながらそう言った。
すぐに来光くんが何の話をしているのか察しがついた。先日偶然会った来光くんの友達たちが関係しているんだろう。
「いやぁ、なんか皆まで巻き込んじゃって申し訳ないなって。あの日、僕さっさと先に帰ったし嫌な感じだったでしょ。なのに嘉正とかさ、賢いからいろいろ察してなんにも聞いてこないし。あの馬鹿二人も勝手に何か感じ取ったのか知らないけど気遣ってきて。いやほんと、情けないやらお恥ずかしいやら」
早口になるのは言いたくないことを言っている時で、隠したいことがあるから。
自分もそうだったからよく分かる。夏休み、神修を辞めるかどうかで悩んでいた時と今の来光くんは少し似ている気がした。
「無理に話さなくていいよ」
来光くんが戸惑うように顔を上げた。
「言いたくないことは話さなくていいよ。でも来光くんが話したくなったらいつでも聞くし、みんなも同じように言うと思うよ」
多分今の来光くんには時間が必要で、私たちが出来ることはそれを傍で見守ることなんだろう。
来光くんが目を丸くした。瞳がきらりと光って、俯くように頷く。
「もうちょっと……待ってもらっていい? でも聞いてほしい、かも」
うん、と笑って頷けば、来光くんの表情が少し晴れたような気がした。
約束した一時間後の少し前に下足場まで戻ってくると既に戻ってきていた恵衣くんが禰宜と何かを話していた。
同じタイミングで戻ってきた嘉正くんのチームと合流して軽く成果を話し合う。
しばらくして禰宜が振り返った。
「時間になりましたね。では集まってください。各々の見解を発表しましょう」
ぞろぞろと下足場の真ん中に集まる。
「では嘉正さんチームから発表しましょうか」
「はい。じゃあ代表して俺が」
手を挙げた嘉正くんが前に出ると、スマホのメモ画面を読み上げた。
「まず手分けして学校内を見回りました。力の弱い小鬼や浮遊霊の姿は確認できましたが、依頼人から聞いていた怪異を起こせるほどの力もない。住み着く妖のせいではないと思います。だとするともうひとつ考えられるのが、校内で祀られている御祭神の祟り。全ての神棚や火を扱う場所水回り、確認しましたがちゃんと手入れされお祭りされていて御祭神さまもいらっしゃいました。御祭神さまの祟りという線もないと思います。となると原因の怪異ですが妖でも祟りでも無いもの────第三者による呪いなのではないかという結論に至りました」
以上です、と嘉正くんが発表を終える。禰宜は少し目を見開いて感心したように息を吐いた。
「驚きました。というのも、あなた達の担任の先生から事前にどのような子達が来るのかを伺っていたんです。"問題児だけど優秀ですよ、うちの子たち"と聞いていたので、学生にしては優秀という意味で捉えていたのですが、それ以上でした」
思わぬ大絶賛に皆頬を赤くする。
薫先生、私たちのことそんなふうに評価してくれていたんだ。私も"問題児"と思われていたことは少しショックだけれど。
「素晴らしい考察です。広い視野で観察し結論まで導きましたね。ほぼ正解です」
やった、とみんなでハイタッチを交わして、すぐに「ほぼ?」と首を傾げる。
「はい、"ほぼ"です。なぜなら君たちは消去法によって結果を導きましたが、呪いだという証拠を見つけることは出来ませんでしたね。消去法でも間違いではありませんが、それでは99点になります」
「俺生まれて初めて99点なんて高得点取ったんだけど!」
「そうじゃないだろ泰紀」
嘉正くんの冷静なツッコミが入った。
「恵衣さん、答えて頂けますか」
「はい。見回っている中で校長室でこんな写真を見つけました」
恵衣くんはスマホを片手で操作して私たちに画面を見せた。その画面には額縁に飾られた写真が写っている。写真の中の人物は男性だった。頬がふっくらした笑顔の眩しい人だ。
「怪異が起き始める前の西院高校の校長です」
ええ!? こいつが!?と慶賀くんが目を剥いた。
恵衣くんにジロリと睨まれて首をすくめる。
声は上げなかったものの、私もみんなも思ったことは慶賀くんと全く同じだった。
先ほど会った校長先生は頬がこけて陰鬱な雰囲気を纏った大人しそうな人だった。写真の中のその人とは180度雰囲気が違う。
どんなことが起きたらたった数ヶ月で顔や雰囲気、それに体格もここまで変わってしまうんだろう。
「ついでに校長室で厄除けの札を見つけました。詳しく聞いてみるとここ最近仕事中によく体調が悪くなるそうで、かかりつけ医の診察を受けても原因はよく分からなかったそうです。けれど知人のすすめで地元の神社でお祓いを受け、御札を授与されて校長室に飾ったところそれはぴたりとおさまった。体調不良や形相が変わり表情が乏しくなること、性格の変化その他諸々…被呪者の特徴に合致します。最初は校長を標的にした呪いかと思いましたが、校長曰く同様の変化は一部の職員にも起こっているそうです。つまりこれは────この学校内にいる人物を対象とした呪い」
「その通りです。完璧ですね、百点です」
これくらい当然だとでも言いたげな顔をする。その顔にカチンときたのか慶賀くんが突っかかった。
「俺らだって鍵が空いてたらちゃんと確認したし!」
「俺が見て回った場所は全て鍵は開けたままにした。開いていないと思って確認を怠ったのはお前らの落ち度だろ」
「はぁ!? そもそもお前がもうちょっと協調性を見せてたら────」
「はいはい、喧嘩は後で好きなだけしてもらって構いませんので、とにかく次に進みましょう」
呆れた顔で手を打った禰宜が唸る慶賀くんを下がらせる。
「皆さんの調査のおかげで対象は絞り込めましたね。となると次にすべきことはなんでしょうか? 来光さん」
「使用された呪いの種類を調べ、呪いを放った呪者を探す……?」
「その通りです。では明日からはチーム分けはせずこの六人で、この案件の解決に向けて必要な調査を行ってください」
今度は恵衣くんが目を剥いた「なんで俺がッ……」と何か言いかけて、堪えるように目を閉じて息を吐いた。間違いなく「なんで俺がこいつらなんかと」と言おうとしていた。
「……分かり、ました」
心底不本意そうに顔を歪めてそう言った恵衣くん。顔にも言葉にも態度にも「本当は嫌だ」という気持ちが分かりやすく漏れている。
「では今日は解散しましょうか。開けた教室の鍵を閉めて来てください。私は校長先生にご挨拶してきますので」
私たちが「はーい」と返事したのを確認して、禰宜は校長室へ向かう。
その背中が見えなくなったタイミングで、恵衣くんがそれはそれは深いため息を吐いて私たちを睨んだ。
「絶対に俺の邪魔だけはするなよ。とくに眼鏡」
そうとだけ言うとふいと顔を背けて大股で廊下を歩いていく。
「……な、な」
顔を真っ赤にした来光くんがわなわなと震え出す。
「何なのアイツ!?」
来光くんの声が長い廊下に響いた。
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