異世界勇者より地元の重装片手剣の方が強いに決まってるよね! ~巻き戻り脳筋兵士は堅実に最強戦力を育てる~

無職無能の自由人

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第二話 初戦闘とレベルアップ

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 目を開けたらどこかの街道にいて昼夜も逆転していた。
 うん。まぁ、あの謎の声の影響なんだろう。ただの兵士である俺にそれ以上のことはわからん。頭の出来はよくない自覚がある。
 まずは負傷がないかチェックを……おん?なんだこの……なんで平服を着てるんだ?
 俺は兵士だぞ。鎧下には帷子も付けているし、鉄板入りのブーツを履いて蒸れ対策に薄布を巻いて……木靴じゃねぇか。他に荷物すら無い。

 服もペラペラの1枚だけ、捲ったらよく引き締まった腹が見えた。
 ほどよく引き締まってるな……、え?俺の腹筋ってバッキバキのムッキムキだったろ!?なんだこのちょっと運動してる細マッチョみたいな腹は!
 慌てて確認すると腕も足も細い!いや悪くはないがまだまだ鍛錬が足りてねぇ!これじゃあまるで入隊したばかりの新兵みたいじゃあねぇか!

 あ?新兵?そういえばこの服って昔着てたやつじゃね?この硬い木靴も嫌いだけど町に行くために無理に履いて足を痛めた気が……。
 体を調べるとあちこちに出来ていた傷が無い、思わず顔に手を当てたら顎がツルツルだ。慌てて下を確認したがぼーぼーで安心した。

 若返ってる?いや服装まで戻ってるって事は違うな。この格好は軍に入隊するために町へ向かった時の物だ。入隊制限の15歳になってすぐ志願したんだよ。そんでこの靴で訓練受けようとして笑われたっけ。
 そう言えば変な声が聞こえてリスタートするって言ってたわ。これってそういう事なのか。
 あの龍に滅ぼされる前にもう一度チャンスをくれるんだな?誰か知らねぇがずいぶん粋なことをしてくれるじゃねぇか。

 あの戦いまでは、えーっと、8年と半分くらいか。こんだけ時間があったら何か出来る事もあるだろう。
 あの勇者をしっかり育ててやるとかいいんだろうけど、貴族でもない俺では無理な話だ。女ばっかりでPT組んで遊ぶクソ勇者に期待しないようにみんなを説得するか?
 うーん、上手くいく気がしねぇな。
 まぁとにかく軍に入るか!あいつらがいれば知恵を借りて何とかなるだろ。



 ここに突っ立っていても仕方ないのでとりあえずの行動指針を決めた。
 町がどっちか分からんがとにかく動き出すぞ。だがその時――

 「きゃああああっ!」

 突如、女性の悲鳴が人気の無い街道に響き渡った!

「絹を切り裂く様な女性の叫び!お待ち下さい!俺が参ります!」

 無駄に動揺することなく、期待に胸を膨らませて声の方向へ駆け出した。
 もともと兵士だった俺にとって、野盗や魔物との遭遇は日常茶飯事。 
 たとえ体が若返ろうとも、戦い方を忘れるはずがない。
 街道近くに出る雑魚モンスター共なんて、窮地に陥った女性を格好よく助けてアピールするチャンスでしかないのだ!

 声がしたのは街道から外れた草原の方向だ。風のように走り抜けて茂みを抜けると、悲鳴の主が見えた。
 旅装の少女が転倒し、震える手で杖を握っている。おさな…若いな。
 少女の服装を見る限り、町に向かう旅人か?護衛はいないらしい。
 その前に立ちふさがるのは、大きな黒狼――ダスクウルフ。
 ゴブリン程度ならいざ知らず、ダスクウルフは俊敏で牙も鋭い。
 本来なら丸腰で戦う相手ではない。
 それが汚れた牙を剥き出しにして、今にも襲いかかろうとしている。

「狼か、獣風情が調子に乗るなよ」

 武器は無い、というか何も無い。だが関係ねぇ、盾兵の心得は常在戦場!盾が無いなら筋肉で守る!武器が無いなら筋肉で殴る!筋肉が足りないなら魂で戦う!
 状況は選べない。俺達の後ろには守るべき存在がいるのだから!

「おおおおおおおおっ!!」
 開幕気合のプロヴォーク!俺を見ろ!少女なんか捨ててかかってこい!
 挑発を受けたダスクウルフがこちらに振り返り、牙を向いて襲い来る!

「喰らえぃ!ドラァァ!!」

 ――ガボンッ!!!

 一瞬だった。
 狙いすました右ストレートが、ダスクウルフの頭部を完全に砕く。
 鈍い衝撃とともに、残った体が吹き飛び、地面を転がる。

「……え?」

 動きを読んだからこそのカウンターだった。
 それはいい。問題は――

「なんだこの威力は……?」

 拳の感触が違った。
 まるで鎧越しに殴ったかのような異常な硬さと衝撃。
 それなのに、ダスクウルフは一発で絶命していた。

「おかしいな」

 こんなこと、あり得ない。
 俺は訓練されたプロの兵士だが、ダスクウルフを一撃で殴り殺せるような怪物ではなかった。ましてや今は筋肉が全然足りないはずだ。
 一体どうなってるんだ?自分の体じゃないみたいで不安になってしまう。

 すると、突然――

 パァァァァァァ……

 視界が白く光に包まれる。
 同時に自分が変質するような感覚が体を襲った。
 
「なんだこれ!?」

 視界の中央に、文字が書かれた透明な板が浮かび上がる。

 ――――――――――
 レベルアップしました。

【ステータス更新】
 名前:ガルドリック
 年齢:15歳(23歳)
 職業:勇者
 レベル:1 → 2
 HP:3600 → 3780
 MP:1600 → 1610
 耐久:153 → 183
 筋力:173 → 195
 敏捷:185 → 200
 知力:155 → 166
 魔力:260 → 265
 幸運:10
 スキル習得:「勇者の適応」
 ――――――――――

「レベルアップだと?」

 ステータスってなんだ?レベルアップは聞いた事がある。勇者たちが戦うことで飛躍的に成長するという、勇者だけの恩恵のはずだ。
 目の前の画面を見るに俺の職業が勇者になってる。何が理由かはっきり分からんが俺も勇者の仲間入りをしてしまったんだろう。
 これが勇者たちの見ていた物なのか。

 各項目は俺の能力を示しているんだろう。スキル習得と書いてある部分に触れると更に文字が追加された。【勇者の適応:PTメンバーに経験値を分配出来る。あらゆる武器・魔法の適性が向上する】と書かれている。

「……やっぱり、そういうことか」

 たぶん勇者をアレしちゃったことで、俺は勇者の力を受け継いだ。
 だからレベルが上がるし、魔法の適性まで得られる。
 これは俺にとって大きなアドバンテージだ。

「ふふ……これは面白いことになりそうだな」

 喜びが込み上げて笑いが漏れる、自然と手を振って目の前の画面を消した。
 振り返ると、少女が驚いた顔でこちらを見ている。

「た、助けてくれて……ありがとう!」

「気にするな。民を守るのは兵士の努め」

 俺は勇者の力を手に入れたんだ。今までとは違う、新しい未来の予感に心が震えた。
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