異世界勇者より地元の重装片手剣の方が強いに決まってるよね! ~巻き戻り脳筋兵士は堅実に最強戦力を育てる~

無職無能の自由人

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第20話 流星槍

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 粉々になった透明な硬い壁が飛び散り、内側に満ちていた光の霧がふわりと浮かび上がって天井へと消えていく。

 支えを失った巨体は、地響きを伴って横倒しになった。

 首の断面が露わになる。
 それはまるで、巨大な刃で一刀両断されたかのように滑らかで、骨と肉が層を成しながら冷たく光っていた。

 ドクリ…

 大きな心音が響く。こいつは――生きている。
 残った魔物を弾き飛ばし、セオの前で盾を構え直した。

 次の瞬間――!

 ビクンッ!!

 巨人の巨体が、弾かれたように震えた。
 と同時に、断面から白く蠢く何かが飛び出す。

 ゾリュリュ!

「っ…!?飛べ!」

 触手?神経?意思を持ったそれらは、まるで飢えた獣のように飛びかかる――!
 フォルクが飛び上がって回避、こちらは折れた大剣を使ってとっさに防御するが、残っていた二体の魔物が、あっという間にそれに捕まった。

『ギギャァァァッ――!!』

 断面の奥へ、ずるずると引きずり込まれる。肉に飲まれ、締め上げられ――最後に聞こえたのは、骨が砕ける音だった。

 ズル、ズズズ――!

 魔物を飲み込んだ直後、血まみれの肉塊が盛り上がり、内部から骨が突き破る。
 神経の束が弾け、筋肉が張り付き、顔が、滑るように形成されていく。

 ほんの数秒。
 呼吸する暇もないほどの速さで作られる、口、鼻、目。気づけば巨人の顔が完成していた。違う、問題は顔じゃない、頭部が出来たということは脳が、意思が――

 出来たばかりの眼球がぎょろりと動き、俺たちを見た。

『アアアアアアアアア!!!』

「ッ……ぐ、あ……っ!」

 巨人が叫ぶだけで脳が揺れる。鼓膜が破れたかと思った。
 後ろのセオが膝をつき、フォルクが頭を抱えてうずくまる。

 俺は折れた大剣の柄を強く握り、咄嗟に判断する。
「撤退するぞ、階段まで走れ!」

 フォルクもセオも、それ以上の言葉を必要としなかった。
 駆け出した二人の背中を追う。巨人が再び咆哮する前に地上を目指す。
 振り返らない。
 装置が破壊される音が衝撃をともなって届く。巨人が目に映る全てを破壊している。
 それらをすべて無視して、地上へ続く階段を駆け上がる。
 やがて、まばゆい光が目に飛び込んできた。

 木々のざわめき。明るい陽、ひやりとした風。
 だが、そんな安らぎも一瞬で粉砕される。

 遺跡の地下へと繋がる階段の奥から、**ずしん……ずしん……**と重低音が響く。
 その音が、徐々に地面全体を震わせ始めた。

「来るぞ……!」

 次の瞬間、崩れかけた鉄の階段をぶち破って、巨人が現れた。


 巨人。

 髪も無く、鋭い爪や牙も無い――ただ、その目だけが光を映していた。
 憎悪でも、狂気でもない。燃え尽きるほど純粋な“怒り”。

 長い手足が揺れ、ひと足ごとに崩れかけた石積が砕ける。
 肉が裂け、骨がひび割れても、巨体は止まらない。
 理屈も躊躇もない。破壊するために、追ってきたのだ。

「クソッタレ……」

 大盾を構え直し、地面を強く踏みしめる。
 背後にいるセオは、今は守る対象だ。フォルクも無闇に近づける相手じゃない。

 巨人は階段を踏み抜き、地上へ完全に姿を現す。
 崩れた石が雨のように降るなか、巨人はゆっくりとこちらへ向き直った。

「セオ!離れるなよ!」

 その巨体が空気を裂く。
 ――速い。とてもあの肉体の動きとは思えない。
 腕がただ振り下ろされた。それだけで全身が粟立つほどの圧力!

「ッ……!」

 咄嗟に盾を前に出す。
 爆発にも似た衝撃が全身を駆け抜け、地面に足がめり込む。
 
 バガァァン!

「ガルド!」
「速いぞ!フォルク無理はするな!」

 重さと速さ、その両方を兼ね備えた動き。
 体を壊しながら、それでも攻めてくる。
 拳が振られるたび、筋肉が裂け、血が吹き出す。
 それでも、止まらない。徐々に下がりながら猛攻に耐える。

「ガルド! 両側からだッ!」

 巨人が一歩を踏み出し、その長い腕を振るう。

 視界の端で、何かが光った。ナイフが一閃、巨人のこめかみに突き刺さる。
 だが――何の反応もない。
 巨人は微動だにせず、そのまま俺を両手で押し潰そうと迫る。

「おおおおおおおおおっ!!」

 右手で折れた大剣を叩きつけ、左手は畳んで盾で受け止める。
 轟音。金属と肉の衝突音が空気を裂く。左は大盾で止めた、しかし右の大剣は根本から弾け飛び、巨人の手が叩きつけられる。
 
「ぐがッ……!」

 盾を支点に体を捻り、なんとか挟み込まれる事は回避したが、激しく吹き飛ばされて転がった。右腕を見ると肉が裂けて折れた骨が飛び出ている。
 
 だが――ダメージを負っているのは俺だけではない。
 巨人の両腕は、その反動で砕けていた。
 関節のあたりが異様な角度に曲がり、肉が裂け、赤黒い液が滴っている。

 そうだ。あいつは、自壊している。

「耐えればいい……それだけで勝てる……!」

「ならさっさと腕を治せ!」

 振り返るより先に、フォルクが走り出していた。

「フォルク!無理をするなと言ってるだろう!」

 俺の声なんて、届くはずがない。
 恐れること無く巨人へ踏み込むフォルクに向けて、巨人の剛腕が振るわれる。

「しゃああ!」

 両側から迫る腕をすんでで跳躍して回避した。そのまま顔面を薄く切り裂いて後ろに抜けていく。
 上手い。俺には出来ない動きだ。だが一撃当たればどうなるか。

「……助かる、今のうちに……!」
 俺は残された左手で右手に触れる。

「グローリアスタッチ」
 淡く、金色の光が広がる。
 皮膚が収縮し、骨が音を立てて戻っていく。尋常じゃない痛みとともに。

「ぐ、ぁあッ……!」
 のんびり治している場合じゃない。
 砕けた骨が、肉が、ぐつぐつと再生していく。焼けるような痛みを噛み殺しながら、フォルクが紙一重で回避しているのを祈る気持ちで見る。

「……ガルド」
 背後から落ち着いた声がかけられる。今にも地面が崩れそうな戦場のただ中で、セオまるで講義でもしているかのように落ち着いていた。

「奴の動きは単純だ。脳が出来ても所詮生まれたての魔物。誘導できる」

「……誘導?」

「腕の叩きつけと横薙ぎ、基本はその二つだ。だが叩きつけのほうが明らかに自壊が大きい。もう腕が崩壊寸前なのは気づいているだろう」

 巨人が咆哮を上げる。地響きと共に迫る足音。だがセオは顔色一つ変えない。

「お前は盾で叩きつけを止められる。フォルクは軽い、横薙ぎなら回避できる」

 グローリアスタッチの魔力が収束し、右手が動く。まだ痛みはあるが――使える。

「つまり……叩きつけを誘導するための、位置取りか」
「その通り。お前が前に立てば奴は真上から落とす。距離を取るか左右にずれると横薙ぎを放つ。あまり早く腕だけ壊れても後が面倒だ、二人で調整すればいい」

 セオの声に迷いはない。それだけで、目の前の死神じみた巨人がちっぽけな存在に思えてくる。

「立てるか、ガルド」
「当然だ」

 足元を踏みしめ、盾を構えなおす。

「交代だ!フォルク!」

 俺が叫んだ瞬間、フォルクはすでに動いていた。
 地面を蹴り、巨人を掠めるようにこちらへ走り出す。
 それに反応した巨人の肩が跳ねる。怒りのままに、再び巨腕が振るわれる。

「横薙ぎが来るぞ!飛べ!」
 セオの声が飛んだ。

「おう!そっち行くぞ!」

 咆哮とともに、巨人の右腕が大きく薙がれた。斜めに裂けた森の風景。石積みが弾け飛び、地がえぐれる。けれど、そこにフォルクの姿はない。

 「任せたぞ、ガルド!」

 空中で身をひねるように避けながら、フォルクが叫んだ。巨人はこちら向き直っている。
 
 ――正面、近距離。
 巨人の脚が一歩、俺に向かって踏み出される。

「ガルド!前に出ろ!」
「おう!」

 巨人の腕が高々と振り上げられ、俺の盾を目がけて、再び降りてくる。
 その迫力に足元がすくわれそうになる。だがこの程度が受け止められなくて、あの龍と戦える訳が無い。あれと比べればこんな物!

 ドゴンッ!

「おおおおお!」
 止められる!指示はセオがしてくれる、フォルクが命を張ってサポートしてくれる。なら俺はただ止めるだけだ。兵士として鍛えられた魂が、自分の役割をこなせと燃え上がる!

 巨人の腕が裂ける。それでも構わず狂ったように振り下ろされ続ける拳。
 地面が揺れ、血と魔力が弾け飛び、巨人の腕からはうねるような力が漏れ出している。皮膚は裂け、血液は噴水のように失われ、内側の骨が軋む音が俺の耳にまで響いてくる。

「フォルク、横からつついてやれ。横薙ぎが来るからそれを回避して後ろに回るんだ。距離を取れよ」
「おうよ!」

 きつくなるとフォルクがスイッチして腕を振り回させる。ボロボロになった腕を振り回すことで更に血液を喪失し、無理な攻撃を繰り返す体にもダメージが蓄積していく巨人。
 何度もスイッチするうちに、巨人の動きが鈍くなってきた。最後の時は近い。

 巨人の腕が、再び振り上げられた。崩れた肉と砕けた骨を無理やり繋ぎ止めたそれは、もはや一振りごとに破裂音を上げ、血と魔力を辺りに撒き散らす。

「見ろ!ヤツの右胸!あれは魔石だ!」

 視線を上げる。巨人の胸部、砕けた腕の反動を受けたのか、脇から腹部にかけて皮膚が裂け、そこから脈打つような微かな光が漏れていた。

 ズドォン!落ちてくる腕を盾で受け止める。崩壊した腕で、それでも構わず叩きつけてくる威力は健在だ。

「フォルク!任せたぞ!」
「任された!」

 腰を落として不動の構え。後の事はフォルクがなんとかしてくれる。

「オオオオオオオオッ!!」
『アアアアアアアアア!!』

 狂った目を限界まで開いて、両腕が叩きつけられる。一撃でクレーターを作りだすそれを、2発、3発。完全に足を止めてラッシュを受け止める。

「大きいのが来るぞ!」

 背後からセオの声が飛ぶ。同時に、巨人の全身が大きく反れた。

 天を突くように持ち上げられたその両腕が、ハンマーの様に合わされる。
 そして――振り下ろされた。

 ドガァンッ!!

 大気が歪む。地が割れる。
 振り下ろされた腕の衝撃が地面を砕き、凄まじい音と風圧が辺りを薙ぎ払った。

 だが俺は、踏みとどまる。

 大盾を支える右腕が軋む。分厚い盾がついに割れ、掴んでいる拳は砕けた。膝が震え、口の中が鉄の味で満たされる。

 だが――耐えた。

 叩きつけの反動で、巨人の上半身が大きく浮き上がる。

 そこに――見えた。

 裂けた皮膚の奥、肋骨の隙間。輝く特大の魔石!

「フォルク!」
「オラアアアアアっ!!」

 ギュドッ!!

 放たれた槍が空気を裂き、大気を叩いて宙を翔ける!
 それは古代の残滓を振り払うように突き進み、
 崩れかけた巨人の胸を――核である魔石を、正確に貫いた。
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