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第3章
#2.複雑に絡む
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翌朝、起床しリビングへ向かうとすでに彼の姿があった。ちらりとこちらを見やると彼は短く、おはよう、とだけ挨拶をした。
どうやら昨日のことは忘れていないらしかった。
朝食を摂る間も彼は、一言も声を発さなかった。わたしもそんな彼を見て、声を掛けられずにいた。
支度を終え家を後にしようとしたとき、ようやく口を開いた彼がわたしを呼び止めた。
「今日から暫くは一緒に家を出よう。帰りも近くまで迎えに行く。時間は極力、弥代に合わせるから。いい?」
突然のことに驚き、ぎこちなく頷いた。
正直、あの話を聞いて彼がここまで行動を起こすことは、予想していなかった。
おそらく彼は昨日言っていた“業務上知り得た情報”以上のことを、何か知っているのだろう。
それから数日間、彼は宣言通りわたしの送り迎えをしてくれるようになった。願ってもみなかった幸せがこんな形で具現化されてしまうなんて、夢のようだった。
わたしはいつの間にか、あの日の恐怖心など綺麗さっぱり忘れてしまっていた。
ある日のこと、クラスメイトに声を掛けられた。
「最近一緒に来てる人、もしかして彼氏?」
答えにくい質問をされてしまった。わたしは少し答えを渋った後、保護者かな、と答えを濁した。
「保護者? お兄ちゃんとか?」
「うん、そんな感じ」
クラスメイトはその煮え切らない返答に一度むっとした顔を見せたが、またすぐにぱっと笑顔を咲かせ、言葉を続けた。
「すごく格好いいよね」
「そう、かな……」
ああ、そういうことか。わたしに対する興味というより彼に対する好意の現れに、少しばかり複雑な思いを抱いてしまった。
その後も彼女は彼のことをいろいろと聞いてきた。わたしは自分の中に芽生える醜い感情を必死に隠しながら、彼女の質問に時折濁しつつ答えた。
放課後、再び目の前に彼女が現れた。
「今日一緒に帰ってもいいかな?」
にこにこと人のいい笑顔を見せる彼女に、拒否などできなかった。
教室で彼を待つ。彼はいつも就業時間が終わると、わたしにメールを一通寄越す。そして学校のすぐ近くにあるコンビニエンスストアで待ち合わせをする。
彼の連絡があるまでの間に、わたしは放課後のこの教室で課題を済ませる。今日も机の上に教科書とノートを広げ課題に取り組もうとしたが、目の前の彼女がそうはさせてくれなかった。
「下野さんってさ……」
「弥代でいいよ」
「うん、じゃあ弥代ってさ……」
今朝は彼のことを根掘り葉掘り、今度はわたし自身のことについて次から次へと疑問を投げつけられた。
まるで尋問だ、などと思いながら片手間で課題を進めていたが、どうも集中できない。幸い課題の提出は来週の授業までだったため、わたしは手を止め彼女の問いかけに集中した。
相変わらず彼女は笑顔のまま、楽しそうに話を続けている。
そんな姿をぼうっと眺めながら、疲れないのだろうかと他人事のように考える。
そして時刻が午後五時を過ぎたころ、いつものように彼からの連絡が入る。それに簡単な返事をしたのち、クラスメイトに声を掛けた。
「そこのコンビニで待つから、行こう」
彼女は飛び跳ねるように立ち上がると、わたしの隣を軽い足取りで歩いた。
翌朝、起床しリビングへ向かうとすでに彼の姿があった。ちらりとこちらを見やると彼は短く、おはよう、とだけ挨拶をした。
どうやら昨日のことは忘れていないらしかった。
朝食を摂る間も彼は、一言も声を発さなかった。わたしもそんな彼を見て、声を掛けられずにいた。
支度を終え家を後にしようとしたとき、ようやく口を開いた彼がわたしを呼び止めた。
「今日から暫くは一緒に家を出よう。帰りも近くまで迎えに行く。時間は極力、弥代に合わせるから。いい?」
突然のことに驚き、ぎこちなく頷いた。
正直、あの話を聞いて彼がここまで行動を起こすことは、予想していなかった。
おそらく彼は昨日言っていた“業務上知り得た情報”以上のことを、何か知っているのだろう。
それから数日間、彼は宣言通りわたしの送り迎えをしてくれるようになった。願ってもみなかった幸せがこんな形で具現化されてしまうなんて、夢のようだった。
わたしはいつの間にか、あの日の恐怖心など綺麗さっぱり忘れてしまっていた。
ある日のこと、クラスメイトに声を掛けられた。
「最近一緒に来てる人、もしかして彼氏?」
答えにくい質問をされてしまった。わたしは少し答えを渋った後、保護者かな、と答えを濁した。
「保護者? お兄ちゃんとか?」
「うん、そんな感じ」
クラスメイトはその煮え切らない返答に一度むっとした顔を見せたが、またすぐにぱっと笑顔を咲かせ、言葉を続けた。
「すごく格好いいよね」
「そう、かな……」
ああ、そういうことか。わたしに対する興味というより彼に対する好意の現れに、少しばかり複雑な思いを抱いてしまった。
その後も彼女は彼のことをいろいろと聞いてきた。わたしは自分の中に芽生える醜い感情を必死に隠しながら、彼女の質問に時折濁しつつ答えた。
放課後、再び目の前に彼女が現れた。
「今日一緒に帰ってもいいかな?」
にこにこと人のいい笑顔を見せる彼女に、拒否などできなかった。
教室で彼を待つ。彼はいつも就業時間が終わると、わたしにメールを一通寄越す。そして学校のすぐ近くにあるコンビニエンスストアで待ち合わせをする。
彼の連絡があるまでの間に、わたしは放課後のこの教室で課題を済ませる。今日も机の上に教科書とノートを広げ課題に取り組もうとしたが、目の前の彼女がそうはさせてくれなかった。
「下野さんってさ……」
「弥代でいいよ」
「うん、じゃあ弥代ってさ……」
今朝は彼のことを根掘り葉掘り、今度はわたし自身のことについて次から次へと疑問を投げつけられた。
まるで尋問だ、などと思いながら片手間で課題を進めていたが、どうも集中できない。幸い課題の提出は来週の授業までだったため、わたしは手を止め彼女の問いかけに集中した。
相変わらず彼女は笑顔のまま、楽しそうに話を続けている。
そんな姿をぼうっと眺めながら、疲れないのだろうかと他人事のように考える。
そして時刻が午後五時を過ぎたころ、いつものように彼からの連絡が入る。それに簡単な返事をしたのち、クラスメイトに声を掛けた。
「そこのコンビニで待つから、行こう」
彼女は飛び跳ねるように立ち上がると、わたしの隣を軽い足取りで歩いた。
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