痛み。

相模とまこ

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第3章

#6.誘拐

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霞む視界の中、目を覚ましたのは薄暗い部屋のベッドの上だった。

何とか身体を起こそうとするものの、相変わらず痺れたような感覚は取れず力が入らない。

それに加えて、両手首をプラスチック製の結束バンドできつく固定されていた。

ズキズキと脈を打つような重たい痛みがわたしの左側頭部を襲う。どうやら倒れた衝撃でアスファルトに打ち付けてしまったらしい。

両手首以外の拘束はなく、力さえ入れば比較的自由の利く状態。

焦る気持ちを必死で抑え込み、首を捻って辺りを見回した。

室内はわたしが今いるベッドの他に、壁付けのデスクと電話台、固定電話と電気ポットがあるだけ。大きな窓には厚手のカーテンが掛けてあった。

どうやらここは、どこかのビジネスホテルのようだ。

鉛のように重い身体を必死で起こし、もう一度念入りに辺りを見回した。しかしここがホテルだということ以外、場所を特定出来るような手掛かりは何一つ見つけられなかった。

その時、入口の扉がガチャリと開いた。


「起きたんだ。思ったより早かったな」


そう言って歩み寄るのは、見覚えのない男性だった。

黒のスラックスに白のワイシャツとグレーのニットを纏った細見の男性。顔はマスクに覆われているが、一見学生のようにも見える風貌をしている。


「誰……ですか……?」


恐怖で呼吸さえも儘ならない状態のなか、掠れる声でわたしはその男性に尋ねた。男性は目を細めにこりと笑むと、優しげな声で答えた。


「笹原樹希。よろしくね」
「ささはら……って……」


心臓がぐっと掴まれたような緊張感が走った。


「誤算だったよ。君がうちの妹とオトモダチだったなんてね。でもまぁ、別にいいか」


相変わらず笑顔を浮かべたまま淡々と語るその様子に、寒気がした。そして目の前の男性が先程までわたしと行動を共にしていたクラスメイトの身内だという事実に、言葉を失った。

そんなわたしの様子を見て男性は、ああ、と声を漏らした。


「この件と妹とは何の関係もないよ。本当にただの偶然だから、これからも仲良くしてあげてね」


いつの間にか男の表情から笑顔は消え、代わりに鋭く冷たい視線だけがわたしを見据えていた。


「恨むなら、こいつを恨め」


そう言って見せられたのは、わたしのスマートフォンの液晶に浮かぶ彼、志乃の写真だった。


「なんで……」
「待ち受けにしてるんだ。そんなにこいつが好きか。こんなやつの何処が……」


男性の様子は明らかに先程までとは違い、怒りに満ちていた。スマートフォンを握る手に力が込められ震えている。そんな腕とは裏腹に一切の感情を表出しない冷たい視線が、余計にわたしの恐怖心を掻き立てた。

こんなことなら彼の言いつけをきちんと聞いておくべきだったと、今更後悔しても、もう遅い。

震える唇をぐっと噛み締めて、わたしは目の前に立つ男性を睨みつけた。

わたしの視線に気づいた男性が張り付けたような笑顔で言った。


「何か言いたげだね」
「こんなことをして、何になるんですか」


わたしの言葉に暗く濁る男性の瞳。男性が口を開き何かを発そうとしたその瞬間、わたしのスマートフォンから着信音が鳴り響いた。










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