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#04.君の存在
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教室に着いたとき、何故か彼女の姿は見当たらなかった。鞄だけが無造作に机の上に転がっている。
朝礼まで残り十分程度。すぐに戻ってくるだろうと思い私は深くは詮索せずにいた。
しかし五分経っても彼女は戻らない。体調を崩して保健室にでも行っているのだろうか。不意に心配になり、すぐ近くにいたクラスメイトに尋ねた。
「ねえ、伊咲どこに行ったか知らない?」
「えー、知らない。ていうかもう来てたんだ」
クラスメイトは眉をひそめた後、軽く嘲る様に笑った。気分の悪いその笑顔と声に思わず舌打ちをしそうになった。
朝礼まで残り一分を切った。生徒会による朝の放送が校舎中に響き渡る。いまだに彼女の姿はここにはない。
慌てて教室を飛び出すと、目の前には探し求めていた彼女の姿があった。
「伊咲!」
「愛羅ちゃん、遅いよ……」
彼女は困ったように力なく笑った。
「ごめん。何処に行ってたの?」
「トイレだけど」
彼女は少しだけ、本当に少しだけ、悲しそうな顔を見せた。
昨日のことを気にしているのだろうか。それならば本当に悪いことをした。しかし私には、彼女が思い悩んでしまう理由がわからなかった。
会話の間も彼女は私に目もくれない。
「体調悪い?」
「なんだ、知ってたなら探してくれたらよかったのに」
私の真剣な問い掛けに彼女は少しだけ楽しそうに笑みを零した。よかった、今のは半分ホンモノだ。なんて冷静に分析している自分に少しだけ驚いた。
廊下の片隅でそんなことを話していると、チャイムが鳴り響いた。
伊咲の背後に担任の先生の姿が見えた。急がなければ、そう思い彼女の手を引こうとするが、その手は虚しくも払われてしまった。
そうか、彼女は触られるのが苦手だったな。
傷つかないように、取り乱さないように、必死に自分自身に言い聞かせた。
彼女の笑顔が曇る理由を知りたい。笑顔を見せて欲しい。
そう思ってみても私にはどうすることもできない。その場を取り繕って接するしか能がない。それで彼女が満足していてくれるのなら、そう思っていたのに、彼女に不安を与えているのは自分自身なのかもしれないと気付かされてしまった。
今の私は何のために存在しているのだろう。君に嫌われてしまっては意味がないのに。
結局授業には片時も集中できないまま、彼女の様子を盗み見ていた。
彼女はいつも通り、頬杖をついたまま虚ろな目で黒板を見つめ、時折ペンを走らせる。そして出された問題を何の気なしに解いたかと思えば、窓の外を眺めては溜め息をついた。
単調な彼女のその行動に少しだけ愛しさを感じた。
君のことをこんなにも好きでいられるのは、私だけでいい。君のことを心から理解してあげられるのも、私だけでいい。気づかれないように、悟られないように、こっそりと君のことを見て、私は私だけの幸せに浸るのだ。
そんなことを知らずに毎日を過ごす彼女をいつかこの手に出来たら。そんな不純な考えが、何度も何度も私の中を駆け巡る。
私の中で彼女という存在は、この上なく大きいものだった。いつかこの気持ちを打ち明けたら、君はどんな顔を見せてくれるのだろう。
私のために笑ってくれるのかな。それとも嫌悪に満ちた顔をするのかな。どんな君でも受け止められる自信があるよ。それでもやっぱり、笑っているときがいちばん君らしいよ。
歪んでいる。そう自覚はあった。しかし止めることが出来なかった。こんな感情を抱くのは初めてのことで、どうすればいいのか幾度考えても答えが出なかった。
私はやはり、彼女のことが誰よりも好きなのだ。
教室に着いたとき、何故か彼女の姿は見当たらなかった。鞄だけが無造作に机の上に転がっている。
朝礼まで残り十分程度。すぐに戻ってくるだろうと思い私は深くは詮索せずにいた。
しかし五分経っても彼女は戻らない。体調を崩して保健室にでも行っているのだろうか。不意に心配になり、すぐ近くにいたクラスメイトに尋ねた。
「ねえ、伊咲どこに行ったか知らない?」
「えー、知らない。ていうかもう来てたんだ」
クラスメイトは眉をひそめた後、軽く嘲る様に笑った。気分の悪いその笑顔と声に思わず舌打ちをしそうになった。
朝礼まで残り一分を切った。生徒会による朝の放送が校舎中に響き渡る。いまだに彼女の姿はここにはない。
慌てて教室を飛び出すと、目の前には探し求めていた彼女の姿があった。
「伊咲!」
「愛羅ちゃん、遅いよ……」
彼女は困ったように力なく笑った。
「ごめん。何処に行ってたの?」
「トイレだけど」
彼女は少しだけ、本当に少しだけ、悲しそうな顔を見せた。
昨日のことを気にしているのだろうか。それならば本当に悪いことをした。しかし私には、彼女が思い悩んでしまう理由がわからなかった。
会話の間も彼女は私に目もくれない。
「体調悪い?」
「なんだ、知ってたなら探してくれたらよかったのに」
私の真剣な問い掛けに彼女は少しだけ楽しそうに笑みを零した。よかった、今のは半分ホンモノだ。なんて冷静に分析している自分に少しだけ驚いた。
廊下の片隅でそんなことを話していると、チャイムが鳴り響いた。
伊咲の背後に担任の先生の姿が見えた。急がなければ、そう思い彼女の手を引こうとするが、その手は虚しくも払われてしまった。
そうか、彼女は触られるのが苦手だったな。
傷つかないように、取り乱さないように、必死に自分自身に言い聞かせた。
彼女の笑顔が曇る理由を知りたい。笑顔を見せて欲しい。
そう思ってみても私にはどうすることもできない。その場を取り繕って接するしか能がない。それで彼女が満足していてくれるのなら、そう思っていたのに、彼女に不安を与えているのは自分自身なのかもしれないと気付かされてしまった。
今の私は何のために存在しているのだろう。君に嫌われてしまっては意味がないのに。
結局授業には片時も集中できないまま、彼女の様子を盗み見ていた。
彼女はいつも通り、頬杖をついたまま虚ろな目で黒板を見つめ、時折ペンを走らせる。そして出された問題を何の気なしに解いたかと思えば、窓の外を眺めては溜め息をついた。
単調な彼女のその行動に少しだけ愛しさを感じた。
君のことをこんなにも好きでいられるのは、私だけでいい。君のことを心から理解してあげられるのも、私だけでいい。気づかれないように、悟られないように、こっそりと君のことを見て、私は私だけの幸せに浸るのだ。
そんなことを知らずに毎日を過ごす彼女をいつかこの手に出来たら。そんな不純な考えが、何度も何度も私の中を駆け巡る。
私の中で彼女という存在は、この上なく大きいものだった。いつかこの気持ちを打ち明けたら、君はどんな顔を見せてくれるのだろう。
私のために笑ってくれるのかな。それとも嫌悪に満ちた顔をするのかな。どんな君でも受け止められる自信があるよ。それでもやっぱり、笑っているときがいちばん君らしいよ。
歪んでいる。そう自覚はあった。しかし止めることが出来なかった。こんな感情を抱くのは初めてのことで、どうすればいいのか幾度考えても答えが出なかった。
私はやはり、彼女のことが誰よりも好きなのだ。
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