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相模とまこ

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#03.揺れ動く

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〝普通に好きだよ〟


親友のその気持ちが、勘違いではないといいと思う。それでも期待するのは怖かった。そんなことで自分勝手に傷ついて親友を責めることだけは、絶対に避けたかった。

きっと僕があまりにも唐突に、真剣に言葉を放つものだから、君は気を遣ってそう答えたのだろう。親友だとか、誰よりも理解しているだとか、大それた考えを持って勘違いをしていたのは、僕の方だ。

恥ずかしいと思った。勘違いをしていた自分自身に。それでも好かれているという自信が欲しかった。確信が欲しかった。

親し気に話した直後に掌を返してしまうような親友の言葉を鵜呑みにするほどの勇気は、今の僕には無かった。

それだというのに親友は何故あんなにも物哀し気な表情を見せたのだろう。

あの言葉が本心だったから……。そんなはずはない、美桜の次に好きとはっきりとした答えを貰っているし、それ以前に親友には、恋人がいるのだ。

考え出してハッとした。僕の悪い癖だ、考え出してしまっては切りがない。きっとまた自己嫌悪に陥って深く暗い渦に飲み込まれてしまう。

そしてそのまま眠りについた。止まらない思考を中断させるには、それしかなかった。

他人にどう思われているかなど考えるだけ、馬鹿を見る。誰をどう思っているのか考えたとて、分かるはずはないのだから。

翌朝もすっきりしない目覚めとなった。

今日も彼女はきちんと登校して来るだろうか。今日はどんな話をしようか、どんな顔を見せてくれるのだろうか。

無理に思考を巡らせてみても、昨日の出来事を忘れることは出来なかった。きっと親友も忘れてはいないだろう。どうすればよかったのか、これから先どうしていけばよいのか、本当に分からなくなってしまった。

君の気持ちも、僕自身の感情も、全てが分からない。

僕は本当に親友のことが好きだ。それはきっと友人としてなのだろうとずっと思ってきた。

しかし、今更になってこの気持ちが友情であるとは言い切れなくなっていた。

触れていたい、僕だけであって欲しい。

嫉妬や独占欲とも似たような感情が僕の中に少しずつ芽生え始めていた。

一番だと言われたかった。誰よりも好きだと思われたかった。臆病な僕はそれを伝える術を持たなかった。

学校に着くなり自席から親友の姿を探す。親友の居ない教室は虚無に包まれ、何とも息苦しい空間だった。こんな場所には居られない。親友の姿を捉えられなかった僕は、ひっそりと教室を後にした。

朝礼が始まるまでここに居よう。そう思い向かったのはトイレの一番奥にある個室。中に入り鍵を掛ければ、誰もいない僕だけの場所という存在に安心したと同時に、孤独を再確認した。

こんなことなら本音なんて打ち明けなければよかった。受け入れてもらえると思った僕が浅はかだった。我慢ばかりして無理に顔を付き合わせて、友人たち四人を前にひとりぼっちを痛感する方が、よっぼどましだったかもしれない。

いつの日かのことを思い出す。

僕の幼馴染は、とても我儘だった。ある日幼馴染に僕ら四人は命令にも似た言葉をぶつけられた。


「愛羅のこと、シカトしようよ」


僕はその言葉をすぐに否定した。それは親友が可哀相だとかそんなことは一切なく、僕にとって彼女と話せないという時間を作ることが怖かったからだ。

しかし、友人たちはみなその言葉にすぐに従った。親友はすぐにその異変に気付いた。以前から僕の幼馴染とは相性が悪く、お互いに直接言葉にはせずとも、決して仲の良い友人同士とは形容できない間柄だった。

親友は僕に言った。


「どうしたらいいの?」


その言葉の端から怒りという感情が漏れていることは、手に取るように分かった。

僕は正直、幼馴染のこの行動には飽き飽きしていた。幼馴染とは幼稚園からの付き合いではあったが、僕から積極的に関わろうとしたことは、一度もなかった。

はっきりと言えば、苦手だったのだ。気に入らないものを簡単に排除してしまう性格も、周りの人間を従わせようとする支配欲も。

今までだって似たようなことは沢山あった。実際僕自身が被害に遭ったこともあった。今回はたまたま矛先が親友に向かってしまっただけなのだ。悩むだけ無駄だった。

だから僕は親友に伝えた。


「ちゃんと謝ったら許すって言ってたけど……僕は謝る必要ないと思う」


それは僕の感情や彼女の気持ちに配慮した意見などではなく、経験則からくる答えだった。

親友は僕の答えを受け入れると思い込んでいた。だから彼女が大勢の生徒の目の前で幼馴染に頭を下げ必死に謝罪をするその姿に、耐えられないほどのショックを受けた。

こんなことで君が頭を下げる必要などなかったからだ。

その必死の謝罪に応える気もない幼馴染の姿に、憤りを感じた。何とかしなくてはとは思った物の、あまりの衝撃にこの場を打開する策など思いつきもしなかった。

親友の口から、大きな大きな溜め息が零れた。


「本当、面倒臭い」


そしてくるりと背を向け一点の迷いもなく歩きだす彼女に、心がズキリと痛んだ。

名前を呼んでも振り返りもしないその背中は、遠く遠くへと消えた。

幼馴染は僕へ怒鳴る様に言った。


「愛羅のことシカトしてって言ったじゃん!」


僕はその怒りに反射的に答えた。従う義理がないと。それからも僕は変わらず親友と接し、グループの友人たちとも言葉を交わしていた。その行動が再び幼馴染の怒りを買った。


「伊咲はわたしの親友だよね」


幼馴染がそう言った。僕はその場ですぐに否定をした。そして悟った、次に矛先を向けられたのはこの僕だと。

だから僕は、自分から身を引いた。グループに身を置いていたのは間違いなく、自分自身の社会的地位を確立するためのもので、その場に情などは無かった。

しかし、その結論が招いた結果が、この様だ。

あの時、形だけでもオトモダチ同士で居たほうが、こんな息苦しさも感じなかった。今の僕はもう本当に独りだ。

耐えられなかった。逃げてしまいたかった。だからこそ弱い僕は君に依存してしまったのかもしれない。

親友がここへ来るまでの僕は、あの空間で息をすることも侭成らなかった。










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