3 / 9
#03.揺れ動く
しおりを挟む
.
〝普通に好きだよ〟
親友のその気持ちが、勘違いではないといいと思う。それでも期待するのは怖かった。そんなことで自分勝手に傷ついて親友を責めることだけは、絶対に避けたかった。
きっと僕があまりにも唐突に、真剣に言葉を放つものだから、君は気を遣ってそう答えたのだろう。親友だとか、誰よりも理解しているだとか、大それた考えを持って勘違いをしていたのは、僕の方だ。
恥ずかしいと思った。勘違いをしていた自分自身に。それでも好かれているという自信が欲しかった。確信が欲しかった。
親し気に話した直後に掌を返してしまうような親友の言葉を鵜呑みにするほどの勇気は、今の僕には無かった。
それだというのに親友は何故あんなにも物哀し気な表情を見せたのだろう。
あの言葉が本心だったから……。そんなはずはない、美桜の次に好きとはっきりとした答えを貰っているし、それ以前に親友には、恋人がいるのだ。
考え出してハッとした。僕の悪い癖だ、考え出してしまっては切りがない。きっとまた自己嫌悪に陥って深く暗い渦に飲み込まれてしまう。
そしてそのまま眠りについた。止まらない思考を中断させるには、それしかなかった。
他人にどう思われているかなど考えるだけ、馬鹿を見る。誰をどう思っているのか考えたとて、分かるはずはないのだから。
翌朝もすっきりしない目覚めとなった。
今日も彼女はきちんと登校して来るだろうか。今日はどんな話をしようか、どんな顔を見せてくれるのだろうか。
無理に思考を巡らせてみても、昨日の出来事を忘れることは出来なかった。きっと親友も忘れてはいないだろう。どうすればよかったのか、これから先どうしていけばよいのか、本当に分からなくなってしまった。
君の気持ちも、僕自身の感情も、全てが分からない。
僕は本当に親友のことが好きだ。それはきっと友人としてなのだろうとずっと思ってきた。
しかし、今更になってこの気持ちが友情であるとは言い切れなくなっていた。
触れていたい、僕だけであって欲しい。
嫉妬や独占欲とも似たような感情が僕の中に少しずつ芽生え始めていた。
一番だと言われたかった。誰よりも好きだと思われたかった。臆病な僕はそれを伝える術を持たなかった。
学校に着くなり自席から親友の姿を探す。親友の居ない教室は虚無に包まれ、何とも息苦しい空間だった。こんな場所には居られない。親友の姿を捉えられなかった僕は、ひっそりと教室を後にした。
朝礼が始まるまでここに居よう。そう思い向かったのはトイレの一番奥にある個室。中に入り鍵を掛ければ、誰もいない僕だけの場所という存在に安心したと同時に、孤独を再確認した。
こんなことなら本音なんて打ち明けなければよかった。受け入れてもらえると思った僕が浅はかだった。我慢ばかりして無理に顔を付き合わせて、友人たち四人を前にひとりぼっちを痛感する方が、よっぼどましだったかもしれない。
いつの日かのことを思い出す。
僕の幼馴染は、とても我儘だった。ある日幼馴染に僕ら四人は命令にも似た言葉をぶつけられた。
「愛羅のこと、シカトしようよ」
僕はその言葉をすぐに否定した。それは親友が可哀相だとかそんなことは一切なく、僕にとって彼女と話せないという時間を作ることが怖かったからだ。
しかし、友人たちはみなその言葉にすぐに従った。親友はすぐにその異変に気付いた。以前から僕の幼馴染とは相性が悪く、お互いに直接言葉にはせずとも、決して仲の良い友人同士とは形容できない間柄だった。
親友は僕に言った。
「どうしたらいいの?」
その言葉の端から怒りという感情が漏れていることは、手に取るように分かった。
僕は正直、幼馴染のこの行動には飽き飽きしていた。幼馴染とは幼稚園からの付き合いではあったが、僕から積極的に関わろうとしたことは、一度もなかった。
はっきりと言えば、苦手だったのだ。気に入らないものを簡単に排除してしまう性格も、周りの人間を従わせようとする支配欲も。
今までだって似たようなことは沢山あった。実際僕自身が被害に遭ったこともあった。今回はたまたま矛先が親友に向かってしまっただけなのだ。悩むだけ無駄だった。
だから僕は親友に伝えた。
「ちゃんと謝ったら許すって言ってたけど……僕は謝る必要ないと思う」
それは僕の感情や彼女の気持ちに配慮した意見などではなく、経験則からくる答えだった。
親友は僕の答えを受け入れると思い込んでいた。だから彼女が大勢の生徒の目の前で幼馴染に頭を下げ必死に謝罪をするその姿に、耐えられないほどのショックを受けた。
こんなことで君が頭を下げる必要などなかったからだ。
その必死の謝罪に応える気もない幼馴染の姿に、憤りを感じた。何とかしなくてはとは思った物の、あまりの衝撃にこの場を打開する策など思いつきもしなかった。
親友の口から、大きな大きな溜め息が零れた。
「本当、面倒臭い」
そしてくるりと背を向け一点の迷いもなく歩きだす彼女に、心がズキリと痛んだ。
名前を呼んでも振り返りもしないその背中は、遠く遠くへと消えた。
幼馴染は僕へ怒鳴る様に言った。
「愛羅のことシカトしてって言ったじゃん!」
僕はその怒りに反射的に答えた。従う義理がないと。それからも僕は変わらず親友と接し、グループの友人たちとも言葉を交わしていた。その行動が再び幼馴染の怒りを買った。
「伊咲はわたしの親友だよね」
幼馴染がそう言った。僕はその場ですぐに否定をした。そして悟った、次に矛先を向けられたのはこの僕だと。
だから僕は、自分から身を引いた。グループに身を置いていたのは間違いなく、自分自身の社会的地位を確立するためのもので、その場に情などは無かった。
しかし、その結論が招いた結果が、この様だ。
あの時、形だけでもオトモダチ同士で居たほうが、こんな息苦しさも感じなかった。今の僕はもう本当に独りだ。
耐えられなかった。逃げてしまいたかった。だからこそ弱い僕は君に依存してしまったのかもしれない。
親友がここへ来るまでの僕は、あの空間で息をすることも侭成らなかった。
〝普通に好きだよ〟
親友のその気持ちが、勘違いではないといいと思う。それでも期待するのは怖かった。そんなことで自分勝手に傷ついて親友を責めることだけは、絶対に避けたかった。
きっと僕があまりにも唐突に、真剣に言葉を放つものだから、君は気を遣ってそう答えたのだろう。親友だとか、誰よりも理解しているだとか、大それた考えを持って勘違いをしていたのは、僕の方だ。
恥ずかしいと思った。勘違いをしていた自分自身に。それでも好かれているという自信が欲しかった。確信が欲しかった。
親し気に話した直後に掌を返してしまうような親友の言葉を鵜呑みにするほどの勇気は、今の僕には無かった。
それだというのに親友は何故あんなにも物哀し気な表情を見せたのだろう。
あの言葉が本心だったから……。そんなはずはない、美桜の次に好きとはっきりとした答えを貰っているし、それ以前に親友には、恋人がいるのだ。
考え出してハッとした。僕の悪い癖だ、考え出してしまっては切りがない。きっとまた自己嫌悪に陥って深く暗い渦に飲み込まれてしまう。
そしてそのまま眠りについた。止まらない思考を中断させるには、それしかなかった。
他人にどう思われているかなど考えるだけ、馬鹿を見る。誰をどう思っているのか考えたとて、分かるはずはないのだから。
翌朝もすっきりしない目覚めとなった。
今日も彼女はきちんと登校して来るだろうか。今日はどんな話をしようか、どんな顔を見せてくれるのだろうか。
無理に思考を巡らせてみても、昨日の出来事を忘れることは出来なかった。きっと親友も忘れてはいないだろう。どうすればよかったのか、これから先どうしていけばよいのか、本当に分からなくなってしまった。
君の気持ちも、僕自身の感情も、全てが分からない。
僕は本当に親友のことが好きだ。それはきっと友人としてなのだろうとずっと思ってきた。
しかし、今更になってこの気持ちが友情であるとは言い切れなくなっていた。
触れていたい、僕だけであって欲しい。
嫉妬や独占欲とも似たような感情が僕の中に少しずつ芽生え始めていた。
一番だと言われたかった。誰よりも好きだと思われたかった。臆病な僕はそれを伝える術を持たなかった。
学校に着くなり自席から親友の姿を探す。親友の居ない教室は虚無に包まれ、何とも息苦しい空間だった。こんな場所には居られない。親友の姿を捉えられなかった僕は、ひっそりと教室を後にした。
朝礼が始まるまでここに居よう。そう思い向かったのはトイレの一番奥にある個室。中に入り鍵を掛ければ、誰もいない僕だけの場所という存在に安心したと同時に、孤独を再確認した。
こんなことなら本音なんて打ち明けなければよかった。受け入れてもらえると思った僕が浅はかだった。我慢ばかりして無理に顔を付き合わせて、友人たち四人を前にひとりぼっちを痛感する方が、よっぼどましだったかもしれない。
いつの日かのことを思い出す。
僕の幼馴染は、とても我儘だった。ある日幼馴染に僕ら四人は命令にも似た言葉をぶつけられた。
「愛羅のこと、シカトしようよ」
僕はその言葉をすぐに否定した。それは親友が可哀相だとかそんなことは一切なく、僕にとって彼女と話せないという時間を作ることが怖かったからだ。
しかし、友人たちはみなその言葉にすぐに従った。親友はすぐにその異変に気付いた。以前から僕の幼馴染とは相性が悪く、お互いに直接言葉にはせずとも、決して仲の良い友人同士とは形容できない間柄だった。
親友は僕に言った。
「どうしたらいいの?」
その言葉の端から怒りという感情が漏れていることは、手に取るように分かった。
僕は正直、幼馴染のこの行動には飽き飽きしていた。幼馴染とは幼稚園からの付き合いではあったが、僕から積極的に関わろうとしたことは、一度もなかった。
はっきりと言えば、苦手だったのだ。気に入らないものを簡単に排除してしまう性格も、周りの人間を従わせようとする支配欲も。
今までだって似たようなことは沢山あった。実際僕自身が被害に遭ったこともあった。今回はたまたま矛先が親友に向かってしまっただけなのだ。悩むだけ無駄だった。
だから僕は親友に伝えた。
「ちゃんと謝ったら許すって言ってたけど……僕は謝る必要ないと思う」
それは僕の感情や彼女の気持ちに配慮した意見などではなく、経験則からくる答えだった。
親友は僕の答えを受け入れると思い込んでいた。だから彼女が大勢の生徒の目の前で幼馴染に頭を下げ必死に謝罪をするその姿に、耐えられないほどのショックを受けた。
こんなことで君が頭を下げる必要などなかったからだ。
その必死の謝罪に応える気もない幼馴染の姿に、憤りを感じた。何とかしなくてはとは思った物の、あまりの衝撃にこの場を打開する策など思いつきもしなかった。
親友の口から、大きな大きな溜め息が零れた。
「本当、面倒臭い」
そしてくるりと背を向け一点の迷いもなく歩きだす彼女に、心がズキリと痛んだ。
名前を呼んでも振り返りもしないその背中は、遠く遠くへと消えた。
幼馴染は僕へ怒鳴る様に言った。
「愛羅のことシカトしてって言ったじゃん!」
僕はその怒りに反射的に答えた。従う義理がないと。それからも僕は変わらず親友と接し、グループの友人たちとも言葉を交わしていた。その行動が再び幼馴染の怒りを買った。
「伊咲はわたしの親友だよね」
幼馴染がそう言った。僕はその場ですぐに否定をした。そして悟った、次に矛先を向けられたのはこの僕だと。
だから僕は、自分から身を引いた。グループに身を置いていたのは間違いなく、自分自身の社会的地位を確立するためのもので、その場に情などは無かった。
しかし、その結論が招いた結果が、この様だ。
あの時、形だけでもオトモダチ同士で居たほうが、こんな息苦しさも感じなかった。今の僕はもう本当に独りだ。
耐えられなかった。逃げてしまいたかった。だからこそ弱い僕は君に依存してしまったのかもしれない。
親友がここへ来るまでの僕は、あの空間で息をすることも侭成らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
モヒート・モスキート・モヒート
片喰 一歌
恋愛
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。
毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきた。
紅と名乗った彼女は男性より女性が好きらしく、独り寝が嫌いだと言い、翠にワンナイトの誘いをかける。
根負けした翠は紅の誘いに応じたが、暑い盛りと自宅のエアコンの故障が重なってしまっていた事もあり、翠はそれ以降も紅の家に頻繁に涼みに行くようになる。
しかし、妙な事に翠は紅の家にいるときにだけ耐え難い睡魔に襲われる。
おまけに、ほとんど気絶と言って言い眠りから目覚めると、首筋には身に覚えのないキスマークのような傷が付いている。
犯人候補は一人しかいない。
問い詰められた紅はあっさり容疑を認めるが、その行動の背景には翠も予想だにしなかった事情があって……!?
途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
ダメな君のそばには私
蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない!
友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!?
職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる