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相模とまこ

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#02.本当の気持ち

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〝勘違いなんかじゃないよ……〟

私は確かにそう告げた。告げたというよりも、本当の気持ちを零してしまったと言った方が正しいのかもしれない。

本当のところ、私は彼女が好きだ。

去年まで私は、友人ら六人で成り立ったグループに所属していた。そこには彼女もいた。彼女の幼馴染が主導権を握るそのグループは、私としてはとても居心地の悪い場所だった。

その女子生徒から嫌悪感を抱かれていたということも、原因のひとつだったのだろう。

そんな幼馴染のことを、彼女自身も良くは思っていなかったようだ。我儘放題の幼馴染に対し意見を持って制することができたのは、彼女だけだった。

そんな彼女は、みんながふざけ合っている時も、あまり笑顔を見せてはくれなかった。時々見せる気持ちのいい笑顔は、そのほとんどが作り物だった。

私と彼女は、はみ出し者同士よく二人で行動をした。

ある日、些細なトラブルが切っ掛けで、私は彼女を置き去りにしたまま、そのグループを離れた。

当初から私を嫌っていた彼女の幼馴染が、グループに所属する伊咲含め四人のメンバーに対し、私を無視するようにと指示していた。そんな指示を素直に聞き入れる三人と、従う必要がないと今まで通り接する彼女。

その怒りの矛先は、完全に私へと向いていた。

伊咲と幼馴染は、幼稚園からの付き合いなのだそうだ。それ程長い間を共にしているにも関わらず、二人の性質は丸で逆だった。

忘れもしない、それは一年の秋のことだった。その日は午後から体育祭の練習があり、生徒はみな校庭へ出ていた。

私はその女子生徒から向けられる明らかな憎悪に対し、少しの焦りとより大きな苛立ちを感じ始めていた。

このまま彼女との仲を復縁できなければ、私は伊咲の傍には居られない。私の思考は間違いなく自分本位のものだった。

彼女の幼馴染に嫌われていることなど、はなからどうでも良かった。

校庭へと向かう途中の階段で、私は伊咲に尋ねた。


「どうしたらいいの?」


言葉の端から、怒りが零れ落ちた。彼女は少し唸った後で、言いにくそうに答えた。


「ちゃんと謝ったら許すって言ってたけど……僕は謝る必要ないと思う」


彼女はあくまで公平な判断をしているようだった。

私が彼女の幼馴染を苦手だと感じて居ることも、彼女の幼馴染が私を嫌っていることも実際事実なのだから、もうどうすることも出来ないのだろう。

それでも彼女と離れることを恐れた私は、校庭を囲むように建てられた簡易テントの中、私に背を向ける彼女の幼馴染に向かって頭を下げた。


「すみませんでした」


周囲の人が思わずこちらを振り返る。その現場を神妙な面持ちで見つめる伊咲の姿に、私の心臓がキリキリと痛みだした。

思いつく限りの謝罪をし、精一杯に頭を下げた。それはあくまで自分のために。彼女の傍を離れないために行っていることで、彼女の幼馴染が私を許そうが仲直りをしようが、そんなことは心底どうでも良かった。

しかし、いくら声を張り上げたところで、その背中はこちらを振り返ることもなかった。次第に怒りが込み上げる。

馬鹿馬鹿しい。

不意にそう思えた。そして私は下げていた頭を勢いよく上げると、いつものように冷め切った声で吐き捨てた。


「本当、面倒臭い」


そして私は足早にその場を後にした。背後から伊咲の声が聞こえるが、立ち止まらずに歩いた。

彼女の傍に居られないだとか、もうどうだっていい。離れてしまえば何とも思わなくなるはずだ。

しかし、思いとは裏腹に、状況は悪化するばかりだった。グループを離れたところで彼女への想いが消えることはない。それどころかより一層彼女の存在、表情、仕草のすべてを気にするようになってしまった。

離れれば離れる程に、彼女の姿を目で追いかけてしまう。いつもどこか寂し気な彼女。

いつからか私は彼女を独占したいと思うようになっていた。あんな奴よりも私の方が彼女のことを理解している。彼女のことをちゃんと見ている。私なら寂しい想いは絶対にさせない。

醜い感情が心の内側で渦を巻き、友人たちに対する嫌悪感を抑え込むことで精一杯だった。

それから月日が経ち、私と幼馴染グループの中立を保っていた彼女も、そのグループを抜けることになった。それからはまた以前のように二人で過ごすようになったものの、不安は募るばかりで、私は無意識のうちに彼女と一定の距離を取って接するようになっていた。

私を選んでくれたことは素直に喜ばしく思ったが、彼女もいつかの友人たちのように自身の損得勘定だけで、白にも黒にもなり得るのだろう。

彼女に限ってそんなはずはないとは言い切れなかった。

思えば思うほどに、彼女と過ごす時間が息苦しく感じた。


〝好きだよ〟

〝友人としてなんかじゃなく〟

〝一人の女性として〟

〝貴女が好き〟


言いたいことは、山程あった。

それでも言えずに居るのは彼女に距離を置かれてしまうのが怖いからだ。この関係から抜け出したい反面、親友として彼女に受け入れられる私という存在に満足しているのだろう。

本当は誰よりも好きだ。一番に想っているし他の奴らなど比べる余地もない。それでも一番だと告げられなかったのは、臆病な私の身勝手な保身だ。

そんな形で彼女を傷つけるだなんて、思ってもみなかった。

このまま本心を伝えられたら、全て上手く行くのかもしれない。そう思った矢先、私の口をついて出たのは


〝普通に好きだよ〟


何とも情けない言葉だと思った。この期に及んでも尚保険を掛けようとしている自分自身に嫌気がさした。

しかしいくら言葉を紡ごうとしても、上手く伝えることが出来なかった。次第に彼女から声が掛かる。


「そんなの、勘違いだよ」


何かが壊れたような気がした。私は今彼女に対する感情のすべてを否定されたのだ。きっとこれで私と君の関係はお終いだ。

こんなことで終ってしまうのならば、伝えなければよかった。

私は後悔と自責の念に圧し潰されそうになったまま、彼女と別れ帰路に就いた。

明日からどんな顔をして君に会えばいいのか分からない。そんなことで頭がいっぱいで、いっそこのまま死んでしまおうかなどと考えてしまう程に、私はすっかり傷心に浸っていた。










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