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2.回想
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自分は村瀬の先輩として相応しくなかったのだろうか。
村瀬が退職してすぐ、ときおり浮かぶ疑問に叶斗は仕事の手を止めることはせずとも思考を止めることはできなかった。
これまでの2年半を振り返り、それも仕方ないのかもしれない、と叶斗は細く息を吐く。
そもそも、叶斗は昔から仲の良い友達というものがいなく、学生の頃は遠巻きにされることが多かった。
その原因は叶斗の美貌を前に、周りが勝手に抜け駆け厳禁の不可侵条約を結んでいたことと、一見冷たそうに見える整った見た目が近づきがたい雰囲気を与えていたことにある。
当の本人はそんなことも知らず、なんとなく自分は一線引かれているのだろうなということに孤独を感じつつもいじめられているわけではないし、とあまり気にしていなかった。
そんな中、就職して1年後に村瀬と出会った。
村瀬は叶斗の言うことをよく聞き、仕事では先輩としてしっかり叶斗のことを頼りつつも自らサポートなどを買って出るなど本当によく出来た後輩だった。
こんなに慕ってくる人物はいなかったため、当然最初は叶斗も戸惑いつつ、悪くないなと思っている自分がいることも自覚していた。
ただ周りにはどう映っていたのか。
村瀬が入社してから少しすると、周りは村瀬のことを叶斗の犬と揶揄し、嫌味を言うようになった。
叶斗は所詮仕事ができないやつのひがみだと相手にする必要がないと思っていたが、やがて犬が下僕に代わり、上司の中にも村瀬のことを嫌悪感丸出しで見る人が出てきた。
特に以前は叶斗にやたら構ってきていた上司などは、叶斗と話していると村瀬が申し訳なさそうに「仕事のことで雨宮さんに聞きたいことが…」と入ってくるので面白くなかったのもあるだろう。
叶斗からすれば上司との会話は言ってしまえば中身のないもので、仕事に効率を求める身としては村瀬の声かけにはむしろ助かっていた。
それでも叶斗は、村瀬は自分と一緒にいることで正当な評価をしてもらえなくなるのではないかと焦った。
もう十分教えられることは教えた。
自分がそばにいる必要はないだろう。
叶斗は次第に村瀬に冷たく接するようになり、相手が自然と離れていくよう仕向けた。
でも。
いくら叶斗の態度が変わり、理不尽な要求をしたりしても村瀬は笑顔を絶やさずそばにいた。
使いパシリのようなことをさせたり、コーヒーを買ってくれた村瀬に対して気分じゃないから、と別のものを買い直させたり。
何を言ってもそれに応えてくる村瀬に叶斗も加減がわからなくなり、果ては同僚との飲みでつぶれたからと電話1つで迎えに来させたこともあった。
恨まれていて当然だよな…と叶斗は自分の行動を振り返り、重たい気持ちになる。
飲みつぶれて迎えに来させたときには、さすがに村瀬から怒っているような雰囲気を感じた。
もし自分が日常的に先輩にそういう扱いをされていたら。
(離れられて清々する…だろう、な)
きっと転職するというのはそういうことなのだろう。
どれだけ素っ気なくしても、理不尽な要求をしても逆らうことなく常に側にいた存在に、知らず心を許していたのは自分だけだったようだ。
言われた直後は、あれだけ付き従ってきておいて自分に何の相談もなかったことを悔しく思ったが、冷静になって考えてみれば原因は自分なのだ。
今の会社では恨みたくなるような先輩も、下僕だなんだと罵ってくるような人たちもいないだろう。
村瀬にとって良い選択だったのだ、と自分を納得させ、仕事に熱中するようになった雨宮は次第に村瀬のことを考えなくなった。
それから2年の月日が経った。
村瀬が退職してすぐ、ときおり浮かぶ疑問に叶斗は仕事の手を止めることはせずとも思考を止めることはできなかった。
これまでの2年半を振り返り、それも仕方ないのかもしれない、と叶斗は細く息を吐く。
そもそも、叶斗は昔から仲の良い友達というものがいなく、学生の頃は遠巻きにされることが多かった。
その原因は叶斗の美貌を前に、周りが勝手に抜け駆け厳禁の不可侵条約を結んでいたことと、一見冷たそうに見える整った見た目が近づきがたい雰囲気を与えていたことにある。
当の本人はそんなことも知らず、なんとなく自分は一線引かれているのだろうなということに孤独を感じつつもいじめられているわけではないし、とあまり気にしていなかった。
そんな中、就職して1年後に村瀬と出会った。
村瀬は叶斗の言うことをよく聞き、仕事では先輩としてしっかり叶斗のことを頼りつつも自らサポートなどを買って出るなど本当によく出来た後輩だった。
こんなに慕ってくる人物はいなかったため、当然最初は叶斗も戸惑いつつ、悪くないなと思っている自分がいることも自覚していた。
ただ周りにはどう映っていたのか。
村瀬が入社してから少しすると、周りは村瀬のことを叶斗の犬と揶揄し、嫌味を言うようになった。
叶斗は所詮仕事ができないやつのひがみだと相手にする必要がないと思っていたが、やがて犬が下僕に代わり、上司の中にも村瀬のことを嫌悪感丸出しで見る人が出てきた。
特に以前は叶斗にやたら構ってきていた上司などは、叶斗と話していると村瀬が申し訳なさそうに「仕事のことで雨宮さんに聞きたいことが…」と入ってくるので面白くなかったのもあるだろう。
叶斗からすれば上司との会話は言ってしまえば中身のないもので、仕事に効率を求める身としては村瀬の声かけにはむしろ助かっていた。
それでも叶斗は、村瀬は自分と一緒にいることで正当な評価をしてもらえなくなるのではないかと焦った。
もう十分教えられることは教えた。
自分がそばにいる必要はないだろう。
叶斗は次第に村瀬に冷たく接するようになり、相手が自然と離れていくよう仕向けた。
でも。
いくら叶斗の態度が変わり、理不尽な要求をしたりしても村瀬は笑顔を絶やさずそばにいた。
使いパシリのようなことをさせたり、コーヒーを買ってくれた村瀬に対して気分じゃないから、と別のものを買い直させたり。
何を言ってもそれに応えてくる村瀬に叶斗も加減がわからなくなり、果ては同僚との飲みでつぶれたからと電話1つで迎えに来させたこともあった。
恨まれていて当然だよな…と叶斗は自分の行動を振り返り、重たい気持ちになる。
飲みつぶれて迎えに来させたときには、さすがに村瀬から怒っているような雰囲気を感じた。
もし自分が日常的に先輩にそういう扱いをされていたら。
(離れられて清々する…だろう、な)
きっと転職するというのはそういうことなのだろう。
どれだけ素っ気なくしても、理不尽な要求をしても逆らうことなく常に側にいた存在に、知らず心を許していたのは自分だけだったようだ。
言われた直後は、あれだけ付き従ってきておいて自分に何の相談もなかったことを悔しく思ったが、冷静になって考えてみれば原因は自分なのだ。
今の会社では恨みたくなるような先輩も、下僕だなんだと罵ってくるような人たちもいないだろう。
村瀬にとって良い選択だったのだ、と自分を納得させ、仕事に熱中するようになった雨宮は次第に村瀬のことを考えなくなった。
それから2年の月日が経った。
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